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――とある休日の昼下がり、3姉妹は何をするでもなく部屋でゆっくりと時が流れるに任せていた。

ルリ「はぁ……お掃除もお洗濯も終わってしまいました」
いかにも退屈そうに座卓に頬杖をつく三女。
だがそれに応える者はいない。
長女は寝そべりつつ読書、次女は微動だにせず座卓の向かいからこちらを凝視している。
と、ルリはその次女の手元にチラシのような紙切れを見つけた。
身を乗り出しそれを手にする。

ルリ「これ何ですか?……え~と、カレー博物館?」

何かのテーマパークのようなものらしい。
ルリがチラシから目を上げると先程と全く状態が変わっていないのに関わらず、明らかに何かを訴え掛けてくる眼で有希がこちらを見つめていた。

ルリ「あの、ひょっとして有希姉……これ行きたいんですか?」
有希「……」
ルリ「……」
有希「………………」
ルリ「あの……」
有希「……………………………」
ルリ「はぁ、分かりました、そこまで言うなら行きましょう」
有希「……そう」

かくして次女の希望により本日の遊興先が決まったのであった。
ルリと有希は事情の飲み込めていないレイを連れ出し目的地へと向かう。


有希「……着いた」
ルリ「唐突ですね……」
レイ「ここがそうなの?ただのビルみたいだけど……」
ルリ「地図によればそのようです、とりあえず入ってみましょう」
最寄り駅から少し歩いた所にある商店街の中にそのビルはあった。
三人はビル内のエレベーターに乗り、案内に書いてある階に上る。
エレベーターの扉が開くと受付のスペースを挟んで、薄暗い空間が拡がっていた。

レイ「カレー屋さん……?」
ルリ「その集合体みたいですね」

それはワンフロアに押し込んであるだけあって多少手狭な感はあるが、それなりに雰囲気のあるカレー商店街のようなものだった。

ルリ「結構お客さんが居ますね、どのお店も並んでます……あれ、有希姉は?」
レイ「あ、あそこにいるわ」
レイが指差した先に、ある店から伸びている列の最後尾に並ぶ有希の姿があった。

ルリ「何も言わずに居なくならないで下さいよ」
ルリとレイは有希の元に駆け寄ると一緒に列に並ぶ。
有希「この店の人気メニューは数量限定、できるだけ早く入店する必要がある」
見ると確かにその行列は他の店のものよりさらに長く伸びていた。
ルリ「なるほど、この店が有希姉のお目当てですか」
有希「……」


列自体は長かったものの、食べる物がカレーということもあって客の回転が速く、三人はそれほど待たされずに店に入ることができた。
カウンターの一角に三人が陣取ると間髪入れず水が出され店員にオーダーを促される。

レイ「どうしようかしら……」
思案顔の長女。
ルリ「あれだけ時間が有ったんだから決めといて下さいよ」
レイ「それじゃあ……ビーフカレーの肉抜きで」
ルリ「ダメです、ほら、店員さんが困ってるじゃないですか」
レイ「どうして……?なら、チキンカレーの肉抜(ry」
ルリ「野菜カレー二つお願いします」
レイ「……ルリの意地悪」

二人が注文を終えると待ち構えていたように有希が次々とメニューを読み上げる。
日頃の有希を知る二人には至極普通の光景だったが、店員は呆気に取られていた。
彼女達の中で比較的様子がまともそうなルリを、問う様な視線で見つめてくる。

ルリ「それで、お願いします」

その一言で店員は渋々と調理に取り掛かった。
しかし今度はルリが心配そうな顔で有希に耳打ちする。

ルリ「有希姉、こんなに頼んで大丈夫なんですか……?」
有希「問題無い、この程度の量は許容範囲内」
ルリ「いえ、そんなことは心配してませんが……その……」
ルリはその、重さが若干心許無い財布を取り出して言う。
ルリ「今月もあまり余裕は無いですし……レイ姉も私も脚は速くないですよ?」
レイ「有希、ルリ、何を話してるの?らっきょう食べる?」
有希「……それも問題無い」
ルリ「でも……」
有希「信じて」
そう有希に真っ直ぐな瞳で言われ、ルリは仕方なく引き下がるしかなかった。


やがて注文したカレーが三人の前に置かれた。
ただし有希の前だけは一人、カレーのコース料理の様に次々と皿が運ばれてくる。
傍目からはそれほど急いでるようには見えないが、しかし尋常ではないスピードでカレーを平らげていく有希。
その様子に店員が、そして周囲の客が次第に視線を奪われていく。

有希「……終わった」
有希は最後の一皿を食べ終え、ガタリと音を立てて椅子から立ち上がる。
そして何の躊躇いも無くレジへと向かうのだった。

そこで今まで有希の食べっぷりを見ていたルリは、はっと今の状況を思い出す。
有希はレジ越しに店員と二言三言、言葉を交わすと、ごく自然に店の外へ出て行ってしまった。
(そんな、有希姉……全部私に押し付けて自分だけ逃げるつもりなの……?)
そう思ったルリは慌てて有希を追おうとする。
が、それを追い抜いて血相を変えた店員が有希に向かって駆け出し、その華奢な腕を掴んだ。
その瞬間、ルリは一種の安堵感と同時に有希だけでも逃げて欲しいというジレンマを覚えた。

彼女はまだ皿の上のらっきょうと戯れている長女の手を取ると、有希と店員の元へ全速力で走る。
そして店員の前に回り込むと姉二人の頭を強引に押し下げひたすらに陳謝したのだった。
そうこうしている内に騒ぎに気付いた見物人がちらほらと集まってくる。


レイ「ルリ、痛いわ……」
ルリがなんとか店員の同情を買う為必死に弁明する中、
レイは我関せずといった調子でルリの手から逃れ、軽く頭を振った。
ルリ「レイ姉!こんな時に何を言って……」

有希「ルリ、状況認識に齟齬が見られるのはあなたの方」
ルリ「えっ……」
ルリはそう言われ謝罪していた相手の顔を見ると、確かに不思議そうな顔でこちらを見ている。
有希「あなたの危惧している様な事態は起きていない、私は無銭飲食を企てたりはしない」
ルリ「そんなこと言われたって、現に、ほら……」
彼女は先程の心許無い財布を有希に示す。
その中には三人の少女が軽食を取る分には十分な額が収まっていたが、有希のあの非常識な食欲の前には敢えて金額を数えずともそれが到底足りないことが目に見えていた。

有希「会計ならもう済ませた」
抑揚の無いいつもの調子で言う次女。
有希「受領した賞金をそのまま支払いに転用し、差し引き無し、よって罪に問われることは無い」
ルリがもう一度店員を見ると、事情を察したのか苦笑しつつ言う。
店員「そちらのお客さんがうちの早食いチャレンジに成功されまして、その賞金をそっくり支払いに使われたんです」
ルリ「い、いつのまに……」
他の一般メニューと同じ様な速さで有希が食べ終えるのでそうとは思わなかったが、確かにやたらと大盛りな皿が何枚かあった気がする。
ルリ「で、では、何で有希姉のことを追って来られたんですか?」
店員「ええ、今回の挑戦で当店の最速タイムを記録されまして、宜しければ記念撮影をと思いまして」

それを聞き、理解すると同時にルリは自分の顔の表面温度がみるみる上昇していくのに気付いた。
一件落着したと分かった見物人からも「良かったなお嬢ちゃん!」といった声があがる、
それがさらにルリの羞恥心を煽るのだった。


――帰り道。

有希「……レイ姉、ルリが口を利いてくれない」
レイ「……そうね」
有希「何をすれば機嫌を直すだろうか……?」
レイ「うん……スキンシップが良いわ」
有希は無言でその顔を、そっぽを向いたルリに近づけていく。

ちゅ。

ルリ「ちょっ、やめてください!」
有希「ルリが喋った」
レイ「……やったわね」

ルリ「もう……有希姉のおかげで大恥をかきました」
有希「しかし、食費を抑えることができた」
ルリ「せめて前もって何をするか話して下さい」
有希「おかげで慌てるルリを見る事ができた」
ルリ「う゛っ……有希姉なんて嫌いです!」
レイ「二人とも、仲良くしなきゃ駄目よ」

三人の手には最速タイムの記念に贈られた多量のレトルトカレー入った袋が下がっていた。
確かに助かるがその量にルリは多少うんざりしないでもなかった。
それとは別にあの騒動の後に撮ったポラロイド写真も渡されている。
これと同じ物があの店にチャンピオンとして飾られるという。
写真の中の有希はどことなく満足げな表情にルリには見えた。

(ま、いいか……)
そんな気にさせられる表情だった。




                        終



有希「なお、これはフィクションであり実在する場所、団体とは一切関係無い」
レイ「誰と話してるの……?」




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