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「ねぇ春、キスしていい?」
夕暮れ沈む窓の外、部屋で二人他愛もない会話をしていた途中で突然悠太がそんなことをつぶやいた。深い意味などはない、ただ話していてなんとなくしたいなと、そう思ったから尋ねたまでだった。
言われた春はしばらく何を言われたのか理解できていないかのように悠太の顔を見つめ、まばたきを一度した。それじゃら一気に顔をぼっと赤くさせてあわあわと視線を泳がせる。
「きゅっ、急になんですか悠太くん!」
「何って・・・キス。していい?」
そういうことを聞きたいわけではないのだろうとわかっていながらももう一度、今度はさっきよりもゆっくりと言ってやると春の顔がさらに赤くなり言葉もしどろもどろになる。
「キ、キスって・・・」
「ね、だめ?」
少し意地悪かなと思いながらも懇願するように悠太は尋ねる。その際に身体を伸ばしとまどったようにしている春の頬にそっと右手を添えた。その行動にせわしく動いていた春の身体が、今度は完全に硬直する。そうなることをわかっていての行動なのだからやはり自分は卑怯なのかもしれない、と悠太は苦笑した。
「ゆ、うたくん」
「目、閉じて春」
逃げないことを了承と受け取り悠太がそっと囁く。言われるまま春は目を閉じた。
いつまでたってもこういった行為に慣れない春だったが、悠太の言葉通りにすることが精一杯の歩み寄りなのかもしれない。頬を赤く染めて少しおどおどしている春を見て、しかしこれが自分だけに対する行動なのだと思うと、知らず優越感を抱く。
まぁそもそも手慣れている春、というのもどこか違和感を感じるに違いない。
(こういうトコとか、可愛いよな)
しげしげと、何のために目をつむらせたのかも一時忘れて春の姿を眺める。
(肌白い・・・唇薄い)
そうしているとやがて、悠太が動き出さないことを不審に思ったのかそっと春が目を開き悠太のことを見上げた。あ、しまったと思った悠太が「あの・・・」と言いかけた春の口を少し急ぎ気味にふさぐ。
結局目をつむらせた意味がなくなってしまったわけだが、たまにはそんなのでもいいか、と口づけしながら悠太は思う。そのまま視線を春の瞳に合わせると、春も驚いたように悠太のことを見ていた。
なんせキスをしていいか、と尋ねられる台詞のみならず、触れられるだけでどきどきしてしまう春なのだ、こんな至近距離でキスをしながらばっちりと目が合ってしまえば驚くのも無理はなかった。
やがて、唇が離れる。
「・・・春、顔真っ赤」
「だっ、誰の・・・っ」
せいですか、と春が言うものだから俺かな、と正直にものを言えば、今度はうっと言葉をつまらせてしまう。それが春らしくて可愛いなと思いながら、悠太は再び。
「ね、春。もう一回」
ふっと笑って顔を近づけたところで、ばたんとその場に相応しくない音が響いた。
「お取り込み中申し訳ありませーんご忠告お届けに参りましたー」
「!ゆ、ゆっゆ、祐希くん?!」
扉を開けて入ってきた祐希を見て現在の自分たちの状況を思い出した春が、キャー!と叫ばんばかりの勢いで眼前に迫る悠太のことを突き飛ばした。あれ、春ってこんなに力あったっけと思いながら後ろにのけぞった悠太は、ぐっと転がるのを我慢して体勢を立て直し「おーすごい立て直したー」と拍手を送ってくる祐希に視線を向ける。
「祐希、邪魔しないでよ」
「あいや、どうぞ俺のことは気にせずにお続けください」
「あ、そう?って俺はよくても春は気にするよ」
ねぇ春、と声をかけようとしたが、あんなところを祐希に見られたことがよほど恥ずかしいのか、春は突き飛ばしたままの体勢で固まっていた。
「あれ、春。悠太としないんだったら俺とする?」
「ゆっ、うきくん、何を・・・?」
「こら祐希、ダーメ」
てくてくと歩いていき春の手をさりげなく取った祐希に、悠太が手を伸ばし春を抱き寄せることで待ったをかけた。ちぇーと口をとがらせる祐希だったが、自分がしてもいいのはそこまでだと心得ているのだろう、やれやれと立ち上がった。
それから「あ」とつぶやく。
「そうだ、悠太ならわかってると思うけどさ、うちの壁って結構薄いんだよね。気をつけなよ」
まぁ俺に聞かせたいんだったら別だけどさ、と付け足して祐希は部屋を出て行く。
忠告とはそのことか、と納得する悠太の腕の中で、意味を考え理解した春がじたばたと動き出した。
「あっ、あの悠太、くん・・・」
「あ、苦しい?」
「そうじゃないんですけど・・・その」
「大丈夫だよ」
春の言いたいことがわかって悠太はそう声をかける。
「今日はまだそんなことしないから」
「そ・・・う、ですよね。そんなこと・・・え?今日、は?」
「は」にアクセントをつける春に、悠太は答えない。ただこの先どうしようかなぁなどと考えを巡らせていた。