「【もしも愛理が熊井ちゃんに恋心を抱いてしまったら・2012夏】」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら

【もしも愛理が熊井ちゃんに恋心を抱いてしまったら・2012夏】」(2012/09/29 (土) 07:05:51) の最新版変更点

追加された行は緑色になります。

削除された行は赤色になります。

210 名前:名無し募集中。。。[] 投稿日:12/08/17(金) 21:22:28 雲一つない綺麗な空だった。遠くの空に、飛行機が小さく見える。 あんなに大きな鉄の塊がこんなに小さく見えるのは、距離のせいだと分かるのに。 18の夏、私には分からないことだらけだった。たとえば……あの人のことだとか。 【もしも愛理が熊井ちゃんに恋心を抱いてしまったら・2012夏】 「いやー、3年なんてあっという間だね。愛理ももう受験生か~」 「なんですか、その親戚のおじさんおばさんみたいな言い方。ちょっと年寄りくさいですよ」 「いや。だって、うちももう19だからさ」 「知ってますよ。こないだの誕生日もメールしたじゃないですか」 「うん、なんか変なデコ文字がいっぱい付いてた」 そう言って、テーブルを挟んで向こう側の先輩が笑った。昔から変わらない無邪気な笑顔。 でも、なんでだろう。すごく遠くにいるみたい。……こんなに近くにいるのに。 211 名前:名無し募集中。。。[] 投稿日:12/08/17(金) 21:23:35 ◆ 私――鈴木愛理と、熊井友理奈先輩は同じ高校の茶道部員だった。もともと茶道部は部員も少なくて、先輩も後輩もまるで同級生みたいに仲が良い。 私と先輩はちょっと似てる。B型で、性格がマイペースなところとか。 だからなのかな、先輩と一緒にいるとなんだか居心地が良い。心が落ち着く。大人びた容姿から想像しがたい、子供っぽい笑顔のおかげかもしれない。 先輩は、今年の春に高校を卒業して、隣の市の私立大学に入学した。今ではたまにメールをするくらいで、会うこともほとんどなくなっちゃったけど、それでも部室に一人でいると先輩のことをふと思い出す。 辛いとき、悲しいとき、先輩が傍にいてくれたら、それだけで安心できるのにな。でも、もうこの学校に先輩はいないんだ。 先輩のいない部室の広さに慣れないまま、私は高校生活最後の夏休みを迎えた。 今日は先輩が入学した大学のオープンキャンパスの日。先輩に案内してもらって構内を回ったあと、キャンパス付近の喫茶店に入った。 「ここの抹茶ラテすごくおいしいから、愛理絶対気に入ると思う」って先輩が目を輝かせて言うもんだから、黙ってついてったけど、妙に小じゃれた内装でちょっと落ち着かない。 …こんなお店あること知らなかったな。でも、先輩、通いなれてるみたい。先輩、お店の雰囲気にもすごく合ってるし。 私、今日制服で来なきゃ良かった……なんとなくそう思った。 ◆ 212 名前:名無し募集中。。。[] 投稿日:12/08/17(金) 21:24:15 「で、愛理。勉強の方はどう?順調?」 先輩が抹茶ラテのカップを揺らしながら、そう聞いてきた。 「まあ、ぼちぼち…」 「えー?何それ」 先輩がちょっとおどけた声を上げた。 だけど、返す言葉も見つからなくて、私は手元にある、今日のオープンキャンパスでもらってきたばかりの大学パンフレットを無意味にぱらぱらめくっていた。 すると、その様子を見た先輩は 「愛理、頭良いんだからさ。うちみたいなのじゃなくて、もっと上のとこ行けるでしょ」 ――何気なく言った先輩の言葉が、私の中でやけに重たく響いた。 ほんの少し私の表情が曇ったのに気づいたのか、先輩は私の目を見てまっすぐ 「大丈夫。愛理なら絶対出来るよ」 と、優しく言う。 …そうじゃないってば。私が悩んでるのはそうじゃないんだって。 先生が難関校合格者をクラスから出したがってることも分かってた。お父さんもお母さんも「愛理の好きにしていいよ」とか言いながら、内心「できれば国立に行ってほしい」って思ってる。 分かってる。分かってるけど…。 テーブルの向こう側で先輩は、ほとんど空になったカップを静かに見つめている。その姿がすごく綺麗で、胸が苦しい。 遠いな、先輩。どんどん遠くに行っちゃうな。なのに、どんどん大きく見える。 いくら背伸びしても、先輩には追いつけないってこと、わかってるけど割り切れない。 213 名前:名無し募集中。。。[] 投稿日:12/08/17(金) 21:25:05 「まあうちは、愛理のしたいようにするのが一番だと思うけどね」 「……でも、自分がどうしたいか分かんないです」 「でもうちがかわりに決めるわけにもいかないし。愛理がそれでいいって言うんならそうするけどさ」 「じゃあ先輩は」 「愛理さ…」 私の言葉をさえぎるように先輩が言葉を挟んだ。ほんのちょっとの沈黙、そして先輩は続けてこう言った。 「『先輩』っての、やめない?」 「…え?」 …何? 「だから、その『先輩』って呼び方」 …なんで? 「だってうち、もう高校生じゃないしさ。もう愛理の先輩じゃないから」 …なんでそんなこと言うの? ――じゃあ、私って先輩の何?先輩にとって、私って。 214 名前:名無し募集中。。。[] 投稿日:12/08/17(金) 21:25:53 私より随分背の高い先輩が、背中を丸めて少し小さくなる。 黙り込んで下を向いてしまった私の顔を覗き込んでいるのが気配で分かった。 変だよね。近くにいたときよりも、遠く離れてからの方が、先輩の存在を大きく感じるなんて。 遠近法なんか、まるで無視だよ。科学で説明がつかないことだらけだ。 わかんないよ。なんで……なんで私、今泣きそうになってるの? 「だからさ…」 先輩が小さい声で呟いた。 215 名前:名無し募集中。。。[] 投稿日:12/08/17(金) 21:26:26 「……ゆりなちゃん、とかどうかな?」 …え? はっとして顔を上げると、照れくさそうにしてる先輩と目が合った。 すると、みるみるうちに顔を真っ赤にした先輩が 「待って!やっぱ今のナシっ!」 と、途端に慌てふためき始めた。 「…ゆりなちゃん?」 私がそう聞くと、先輩は赤い顔のまま、あーとかうーとか唸りながら 「だって!だって!いきなり呼び捨てはおかしいでしょ?でも、熊井ちゃんってみんなが呼ぶから、別のがいいじゃん!だけどうち、家族以外の人に下の名前で呼ばれることないし!ちょっと違和感っていうか、変!変!」 と、一気に捲くし立てた。もう完全に独り言みたいになってる。 ……自分で提案しておいてなんなんだろう。自分で言って、自分で照れてる。 変な人。やっぱりよく分からない。 ううん…でも、そこが可愛い。大人っぽいくせして、子供みたい。こんなに綺麗な人なのにな。なんだか笑っちゃう。 ああ、これだ…。 目の前にいるのは、やっぱり私のよく知っている『先輩』だ。 216 名前:名無し募集中。。。[] 投稿日:12/08/17(金) 21:27:10 「…いいんですか?」 「何が?」 「だから…。先輩のこと……ゆりなちゃん、って」 「うーん…うん。まあいいよ、愛理だけ特別ってことで」 特別…。「特別」か。 決心に必要なのは、その言葉だけで充分だった。 「私、決めました」 「ん?」 「ゆりなちゃんのこと、もう一度『先輩』って呼べるようにしてみます」 先輩はポカンとした顔でこっちを見ていたどうやら私の言っていることの意味がわかってないみたい。 鈍いなぁ。でもわかってなくてもいいや。私はちゃんと、はっきりとわかったから。 ――先輩のこと、好きだって。 217 名前:名無し募集中。。。[] 投稿日:12/08/17(金) 21:27:51 「過去問くださいね」 「え?」 「だから、ゆりなちゃんの大学の入試の過去問」 「え、ああ、いいけど…」 まだいまいち釈然としない様子でいる先輩にくすっと笑って、私は喫茶店の窓の外を眺めた。 8月。青く澄み渡った空が広がる、先輩が生まれた季節。 来年の4月12日には、一緒にキャンパスライフ出来てたらいいな。近くても、遠くても大きい、先輩の隣で。
210 名前:&color(green){&bold(){名無し募集中。。。}}[] 投稿日:12/08/17(金) 21:22:28 雲一つない綺麗な空だった。遠くの空に、飛行機が小さく見える。 あんなに大きな鉄の塊がこんなに小さく見えるのは、距離のせいだと分かるのに。 18の夏、私には分からないことだらけだった。たとえば……あの人のことだとか。 【もしも愛理が熊井ちゃんに恋心を抱いてしまったら・2012夏】 「いやー、3年なんてあっという間だね。愛理ももう受験生か~」 「なんですか、その親戚のおじさんおばさんみたいな言い方。ちょっと年寄りくさいですよ」 「いや。だって、うちももう19だからさ」 「知ってますよ。こないだの誕生日もメールしたじゃないですか」 「うん、なんか変なデコ文字がいっぱい付いてた」 そう言って、テーブルを挟んで向こう側の先輩が笑った。昔から変わらない無邪気な笑顔。 でも、なんでだろう。すごく遠くにいるみたい。……こんなに近くにいるのに。 211 名前:&color(green){&bold(){名無し募集中。。。}}[] 投稿日:12/08/17(金) 21:23:35 ◆ 私――鈴木愛理と、熊井友理奈先輩は同じ高校の茶道部員だった。もともと茶道部は部員も少なくて、先輩も後輩もまるで同級生みたいに仲が良い。 私と先輩はちょっと似てる。B型で、性格がマイペースなところとか。 だからなのかな、先輩と一緒にいるとなんだか居心地が良い。心が落ち着く。大人びた容姿から想像しがたい、子供っぽい笑顔のおかげかもしれない。 先輩は、今年の春に高校を卒業して、隣の市の私立大学に入学した。今ではたまにメールをするくらいで、会うこともほとんどなくなっちゃったけど、それでも部室に一人でいると先輩のことをふと思い出す。 辛いとき、悲しいとき、先輩が傍にいてくれたら、それだけで安心できるのにな。でも、もうこの学校に先輩はいないんだ。 先輩のいない部室の広さに慣れないまま、私は高校生活最後の夏休みを迎えた。 今日は先輩が入学した大学のオープンキャンパスの日。先輩に案内してもらって構内を回ったあと、キャンパス付近の喫茶店に入った。 「ここの抹茶ラテすごくおいしいから、愛理絶対気に入ると思う」って先輩が目を輝かせて言うもんだから、黙ってついてったけど、妙に小じゃれた内装でちょっと落ち着かない。 …こんなお店あること知らなかったな。でも、先輩、通いなれてるみたい。先輩、お店の雰囲気にもすごく合ってるし。 私、今日制服で来なきゃ良かった……なんとなくそう思った。 ◆ 212 名前:&color(green){&bold(){名無し募集中。。。}}[] 投稿日:12/08/17(金) 21:24:15 「で、愛理。勉強の方はどう?順調?」 先輩が抹茶ラテのカップを揺らしながら、そう聞いてきた。 「まあ、ぼちぼち…」 「えー?何それ」 先輩がちょっとおどけた声を上げた。 だけど、返す言葉も見つからなくて、私は手元にある、今日のオープンキャンパスでもらってきたばかりの大学パンフレットを無意味にぱらぱらめくっていた。 すると、その様子を見た先輩は 「愛理、頭良いんだからさ。うちみたいなのじゃなくて、もっと上のとこ行けるでしょ」 ――何気なく言った先輩の言葉が、私の中でやけに重たく響いた。 ほんの少し私の表情が曇ったのに気づいたのか、先輩は私の目を見てまっすぐ 「大丈夫。愛理なら絶対出来るよ」 と、優しく言う。 …そうじゃないってば。私が悩んでるのはそうじゃないんだって。 先生が難関校合格者をクラスから出したがってることも分かってた。お父さんもお母さんも「愛理の好きにしていいよ」とか言いながら、内心「できれば国立に行ってほしい」って思ってる。 分かってる。分かってるけど…。 テーブルの向こう側で先輩は、ほとんど空になったカップを静かに見つめている。その姿がすごく綺麗で、胸が苦しい。 遠いな、先輩。どんどん遠くに行っちゃうな。なのに、どんどん大きく見える。 いくら背伸びしても、先輩には追いつけないってこと、わかってるけど割り切れない。 213 名前:名無し募集中。。。[] 投稿日:12/08/17(金) 21:25:05 「まあうちは、愛理のしたいようにするのが一番だと思うけどね」 「……でも、自分がどうしたいか分かんないです」 「でもうちがかわりに決めるわけにもいかないし。愛理がそれでいいって言うんならそうするけどさ」 「じゃあ先輩は」 「愛理さ…」 私の言葉をさえぎるように先輩が言葉を挟んだ。ほんのちょっとの沈黙、そして先輩は続けてこう言った。 「『先輩』っての、やめない?」 「…え?」 …何? 「だから、その『先輩』って呼び方」 …なんで? 「だってうち、もう高校生じゃないしさ。もう愛理の先輩じゃないから」 …なんでそんなこと言うの? ――じゃあ、私って先輩の何?先輩にとって、私って。 214 名前:&color(green){&bold(){名無し募集中。。。}}[] 投稿日:12/08/17(金) 21:25:53 私より随分背の高い先輩が、背中を丸めて少し小さくなる。 黙り込んで下を向いてしまった私の顔を覗き込んでいるのが気配で分かった。 変だよね。近くにいたときよりも、遠く離れてからの方が、先輩の存在を大きく感じるなんて。 遠近法なんか、まるで無視だよ。科学で説明がつかないことだらけだ。 わかんないよ。なんで……なんで私、今泣きそうになってるの? 「だからさ…」 先輩が小さい声で呟いた。 215 名前:&color(green){&bold(){名無し募集中。。。}}[] 投稿日:12/08/17(金) 21:26:26 「……ゆりなちゃん、とかどうかな?」 …え? はっとして顔を上げると、照れくさそうにしてる先輩と目が合った。 すると、みるみるうちに顔を真っ赤にした先輩が 「待って!やっぱ今のナシっ!」 と、途端に慌てふためき始めた。 「…ゆりなちゃん?」 私がそう聞くと、先輩は赤い顔のまま、あーとかうーとか唸りながら 「だって!だって!いきなり呼び捨てはおかしいでしょ?でも、熊井ちゃんってみんなが呼ぶから、別のがいいじゃん!だけどうち、家族以外の人に下の名前で呼ばれることないし!ちょっと違和感っていうか、変!変!」 と、一気に捲くし立てた。もう完全に独り言みたいになってる。 ……自分で提案しておいてなんなんだろう。自分で言って、自分で照れてる。 変な人。やっぱりよく分からない。 ううん…でも、そこが可愛い。大人っぽいくせして、子供みたい。こんなに綺麗な人なのにな。なんだか笑っちゃう。 ああ、これだ…。 目の前にいるのは、やっぱり私のよく知っている『先輩』だ。 216 名前:&color(green){&bold(){名無し募集中。。。}}[] 投稿日:12/08/17(金) 21:27:10 「…いいんですか?」 「何が?」 「だから…。先輩のこと……ゆりなちゃん、って」 「うーん…うん。まあいいよ、愛理だけ特別ってことで」 特別…。「特別」か。 決心に必要なのは、その言葉だけで充分だった。 「私、決めました」 「ん?」 「ゆりなちゃんのこと、もう一度『先輩』って呼べるようにしてみます」 先輩はポカンとした顔でこっちを見ていたどうやら私の言っていることの意味がわかってないみたい。 鈍いなぁ。でもわかってなくてもいいや。私はちゃんと、はっきりとわかったから。 ――先輩のこと、好きだって。 217 名前:&color(green){&bold(){名無し募集中。。。}}[] 投稿日:12/08/17(金) 21:27:51 「過去問くださいね」 「え?」 「だから、ゆりなちゃんの大学の入試の過去問」 「え、ああ、いいけど…」 まだいまいち釈然としない様子でいる先輩にくすっと笑って、私は喫茶店の窓の外を眺めた。 8月。青く澄み渡った空が広がる、先輩が生まれた季節。 来年の4月12日には、一緒にキャンパスライフ出来てたらいいな。近くても、遠くても大きい、先輩の隣で。

表示オプション

横に並べて表示:
変化行の前後のみ表示:
人気記事ランキング
目安箱バナー