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「第201話~第210話」(2009/09/28 (月) 12:48:28) の最新版変更点
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24 :&color(green){&bold(){名無し募集中。。。}}:2009/09/22(火) 02:16:09.68 0
&color(blue){>>23 }
第201回
誰も見舞いには来なくなり、かろうじて入学の決まった舞ちゃんや千聖が来てくれるだけで。
新しいキャプテンが決まって、私は病室で一人蚊帳の外で。
一緒に汗を流して、一緒に努力してきた仲間のはずなのに。
私が勝手にそう思ってきただけなのかな。信頼されるキャプテン・・・って一体なんだったんだろう。
私の理想って・・・・なんだったのかな。
陸上以外何もなかった私の高校生活。
友達も陸上部以外にはいない。
…‥やっぱり、走れない私には価値がない。ここにいる意味はない。
怪我が治ったら、歩けるようになったら実家へ帰ろう。
愛理と同じ学校に行きたい。
…・私の心の支えになってくれた、中1当時の愛理の笑顔。
その笑顔が見たくてたまらなかった。
そのために、私は辛いリハビリを耐え抜いた。
手術から何ヶ月か経って、なんとか歩けるようになった私は退院して寮に戻った。
けれど、みんなよそよそしかった。そうりゃそうだ、走れない矢島舞美なんて
価値がないから誰も興味がないんだから。
それにもう退部してる。ここに私の居場所はない。私は学校近くのアパートへ引っ越した。
引き止めてくれたのは舞ちゃんと千聖だけだった。
悲劇のヒロインってこういう感じかな。
凋落の一途。
25 :&color(green){&bold(){名無し募集中。。。}}:2009/09/22(火) 02:16:50.23 0
&color(blue){>>24 }
第202回
あと少し、あと少し我慢すればちゃんと歩けるようになる。
そうしたら帰る。愛理に会いに、帰る。
私はそれだけを胸に、学校へ通った。
友達もいないクラス。3年になってクラスを変わってきた私、
怪我した私に寄って来る人はいなかった。
どこにも私の居場所なんてなかった。それでも、我慢できたのは愛理のおかげで。
そして、私は6月いっぱいで転校した。
誰にも言わずに2年と少しを過ごしたあの街をあとにした。
未練はない。ただ、早く愛理に・・・・会いたかった。
◆
「・・・・ってなわけで」
「そっか」
「楽しい話じゃないでしょ」
「なんかさ」
「ん?」
「ジェットコースターみたいだね。」
「・・・そうだね。でも、長かった。何十年もそうだったみたいに」
「ね、」
「ん?」
私は膝の上をポンポンと叩いて舞美ちゃんのシャツを引っ張った。
「ここ、いいよ」
「熊井ちゃん怒るよ」
「今日は許してくれる、きっと」
「そう、じゃあお言葉に甘えて・・・」
舞美ちゃんはそう言いながら、私の膝の上に頭を置いた。
舞美ちゃんのサラサラの髪が少しだけくすぐったい。
26 :&color(green){&bold(){名無し募集中。。。}}:2009/09/22(火) 02:17:36.66 0
&color(blue){>>25 }
第203回
「・・・・ばかだよ、舞美ちゃん」
私は舞美ちゃんの髪を撫でながら、声をかけた。
「なにが?」
「価値がない、なんて。そんなの・・・・悲しいよ」
「でも、そうなんだよ。スポーツで進学するってそういうことなんだ」
「うん、わかってるでも・・・」
「ありがとう、そう言ってくれるだけで嬉しいよ」
「ごめんね、辛い話させて」
「言わなかった私がいけないんだ、それだけ」
舞美ちゃんそう言って黙り込んでしまう。
「・・・・ねぇ、価値がないなんて言って欲しくないよ」
「どうして」
「舞美ちゃんは優しくて、お人好しでかっこよくて・・・・私の大切な幼馴染だよ。
それだけで大きな価値だよ。早く走れることなんて大したことじゃない。」
「ダメだよ愛理」
「え?」
「そういうこと言うと、本気で好きになるよ?」
舞美ちゃんは私の顔を見上げてそう言う。
「・・・ば、ばかこっちはマジメなのに!」
やけにマジな顔でちょっとだけドキっとした。
「でもまぁ・・・・ありがとう」
「う、うん・・・・」
気付けば、空は真っ赤で。
舞美ちゃんは私の膝の上で空を見上げていた。
どんなこと、考えているんだろう。想像もつかないや。
その顔は綺麗で、私はぼーっと見惚れてしまっていた。
66 :&color(green){&bold(){名無し募集中。。。}}:2009/09/23(水) 01:12:07.93 0
&color(blue){>>26 }
第204回
「愛理」
「ん?」
「先に帰っていいよ。ここは心地がいいからもう少しいたいんだ。
それに・・・・きっと校門には舞ちゃんがいるだろうから」
「・・・わかった。じゃあ、また明日」
「うん、バイバイ・・・・あの、ごめん、自分から言わなくて」
「いいの。もう、気にしてない。」
「そっか、ありがとう」
「バイバイ、舞美ちゃん」
舞美ちゃんと別れて、屋上を出た。
階段をゆっくりと下りていく。
舞美ちゃんの話が頭の中をグルグルと巡る。
「愛理」
「・・・・先輩」
屋上から出てはじめにある、階段の踊り場。
友理奈先輩が壁にもたれかかって腕を組んで立っていた。
髪のせいで表情はよく見えない。
でも、その立ち姿はとっても綺麗だ。
「終わった?」
「はい」
「・・・今度、うちにも膝枕してよね」
先輩はちょっと恥ずかしそうにそう言って、照れてた。
「へっ、あ、いや、あれは!」
「今日は、今日だけは許す」
「・・・・ありがとうございます」
67 :&color(green){&bold(){名無し募集中。。。}}:2009/09/23(水) 01:12:48.80 0
&color(blue){>>66 }
第205回
「・・・・ま、正直妬いたけど・・・」
「妬いてくれるだけで、私嬉しいですよ?」
私が先輩の手をとって長い指に触れながらそう言うと
先輩は下を向いて小さな声で言う。
「・・・だって」
「えへへ・・・・先輩、帰りましょ?」
「うん」
先輩は頷いて、私の手を握ってくれた。
暖かい手。大きな手。優しい手。
舞美ちゃんのことは今すぐに整理もできない。
だけど、こうしていると心は乱されない。
…ゆっくり、舞美ちゃんと向き合おう。・・・そう、決めた。
そして、私は、私たち文芸部は部室を賭けてもっと頑張らなくちゃいけない。
いっぱいいろんなことがあるけど、それが一番重要・・・かもしれない。
りーちゃんも入ってくれたけど、まだ目標の人数は達成できていない。
時間だって、あと2週間・・・テストもあるから実質10日くらいだけ。
…・なんとか、しなきゃ。
部員は今11人。あと、6人。
いや、17を上回らなきゃいけないから・・・あと7人。
厳しい・・・・。
124 :&color(green){&bold(){名無し募集中。。。}}:2009/09/24(木) 01:04:34.21 0
&color(blue){>>67 }
第206回
「さて、いよいよヤバイんだけどどうする?」
舞美ちゃんの話を聞いた次の日のお昼休み。
私と、ももと、みやと、先輩の4人は勧誘には参加せずに
部室にこもって作戦会議となった。
他の子たちは勧誘活動を頑張ってくれていて、感謝してもしきれないや。
部長であるももの言葉に、私たちはうーんと考え込む。
「あと、7人だね。7ってデカイよねぇ」
「勧誘って言っても限界あるしなぁ」
「今11で、一人1人をノルマにしたら・・・・でも、うち友達いないしな」
みやは自分で言ってため息をついた。
確かにみやはいつもここにいるか、屋上にいるから友達はいないみたい。
そんなとき、ノックの音がして私たちはドアで視線をやった。
ももが、「はぁーい」と返事をしてドアを開けた。
そこにいたのは、2人。見覚えは・・・あんまりない。何年生かな?
「あ、あの・・・入部希望なんですけど、2人」
目鼻立ちくクッキリしたほうがそう言った。
あれ、誰かにちょっと似てる。誰かな?
「入部、できますか?」
後ろにいた、ちょっとボーイッシュな感じの子が聞く。
「もちろん!大歓迎だよーありがとう!」
ももが2人を部室に招きいれ、二人に握手を求めた。
2人はちょっぴり緊張しながら、手を差し出した。
私やみや、先輩は嬉しくてニコニコしながら顔を見合わせていた。
126 :&color(green){&bold(){名無し募集中。。。}}:2009/09/24(木) 01:05:55.20 0
&color(blue){>>124 }
第207回
◆
愛理と別れて、しばらく一人になっていろいろ考え事をして、
学校を出たのはもうかなり遅い時間だった。
舞ちゃん帰ったかなぁと思ったけど、校門へ近づくと2人は門に垂れかかって、そこにいた。
「よ、舞ちゃん千聖」
「遅い」
「ごめんごめん。きっと待ってるだろうなぁと思ったけど」
「じゃあ早く来てよ」
「んー・・・まぁごめん」
舞ちゃんはちょっと、いや結構怒っていて腕を組んでる。
千聖は舞ちゃんの後ろにいて、何も言わずそこにいる。
この2人はいつもそうだ。
舞ちゃんが暴走しそうになるまで、千聖は特に何も言わずにじっと後ろで見てる。
でも、いざ暴走するとダメだよってしっかり叱る。注意する。それが千聖だ。
お似合いだよ、この2人。
「もう東北へ帰りな。私は帰らない」
「だめ、一緒に帰ってもらう」
「帰ってどうすんの?私居場所ないよ」
「・・・・先輩たちもね、監督も舞美ちゃんに謝りたいって!
戻ってきて、それで・・・・それで・・・マネージャーになってほしいって!」
「・・・ふーん」
「お願い、舞美ちゃん!みんな反省してるんだ。だから・・・!」
「そういう問題じゃないんだよ、もう。ていうかほんといまさらすぎ。ばっかみたい」
「舞美ちゃんがいなくなって・・・ほんとにいなくなってみんなわかったんだよ!」
舞ちゃんは必死に言う。でも、いまさらそんなことを言われて素直に聞くバカがどこいるってんだ。
125 :&color(green){&bold(){名無し募集中。。。}}:2009/09/24(木) 01:05:14.62 0
第208回
「散々ひどいことしていなくなったらいなくなったで戻ってきて欲しい?バカにしてんの」
「・・・・お願い、舞美ちゃん」
「悪いけど、無理だよ。私はここに居場所を見つけたんだ。それを投げ出してまで
戻ろうとは思わない。もうすぐインハイなんだよ、早く帰りなさい」
「・・・・舞美ちゃん」
舞ちゃんは泣きそうな顔で見上げてくる。
ちょっと揺らぐ。でも、そんなことで流されるわけがない。
私の辛さを悲しみを誰がわかってくれるって言うんだ。誰もわかるはずがない。
走れないってわかったらポイっと捨てたくせに。
「舞ちゃん、私は舞ちゃんのことも千聖のことも好き。でも、戻れない。
それはいまさら戻っても私がみんなのこと許せないから。
走れない私には価値がない、意味がない。戻る意味がない。
マネージャーなんて私じゃなくたっていいでしょ。
みんなズルイって思わない?いまさらそういうこと言うのはズルイよ。
申し訳ないけど、戻らない。早く、学校へ帰りなさい」
舞ちゃんの目線に下げて、目を見て語りかける。できるだけ、優しく。
舞ちゃんは首を振りながら、泣きそうな顔をしながら聞いてくれる。
「・・・ごめん」
舞ちゃんの頭をガシガシを撫でると舞ちゃんは
「バカ」ってソレだけ言って泣き始めた。
あーあ・・・と思いながら抱き寄せて泣かせてあげた。納得するまで泣いてくれればいい。
私にはそうするしか他なかった。
千聖は小さく、「明日、帰る」それだけ言ってまた黙った。
207 :&color(green){&bold(){名無し募集中。。。}}:2009/09/26(土) 01:17:32.48 0
&color(blue){>>125 }
第209回
「2人は何年生?」
部室に招き入れられた入部希望の二人に聞く友理奈先輩。
みやも興味津々だ。
そういえば、みやは、前はあんまり他人に興味ない人だったのに。
こうして勧誘やらやっているうちにちょっとずつ変わってきた。
うん、なんだかちょっと嬉しいな。
「え、っと、私は2年で・・・」
「私は1年です」
「へぇ、じゃあ、うちとみやが同級生だ。よろしく」
先輩は、目鼻立ちのクッキリした方と握手をした。
みやも、それに続く。
「じゃあ、1年生は私と同級生だ。よろしくね」
1年生だと言った方に手を差し出すと、結構強い力で握り返された。
ちょっと、カッコイイなぁ・・・・髪も短めで男の子みたい。
背は、私と同じかもう少し高いのかな。
「って、名前だ、名前」
ってももが言う。そうだ、すっかり忘れてた。
私たちは一人ずつ自己紹介をした。
そして、二人の番。
「吉川って言います、2年の7組」
「あぁ!吉川さんかー、7組の秀才」
先輩はあ!って顔をしてそう言った。知ってるんだ?
「そ、そんなんじゃないです。学年一番は熊井さんだし」
「いやいやわかんないよ、へぇ、吉川さんなんだー。名前しか知らなくてさ!ほんとよろしくね」
先輩は、嬉しそうにそう言う。・・・むぅ。どうせ私は成績よくないですよーだ・・・。
208 :&color(green){&bold(){名無し募集中。。。}}:2009/09/26(土) 01:18:47.81 0
&color(blue){>>207 }
第209回
「私は、北原と言います。1年1組です」
「え、1組って・・・・スポーツクラスじゃ?」
そう、わが校は学年ごとに1組がスポーツクラスと決まっている。
ちなみ、2組からだいたい6組までが普通のクラス。
みやともも、私もここだ。
一方先輩や吉川先輩は少数精鋭のだいたい7~9組の特進コースだ。
ちなみにちなみにどうでもいいけど、
あの生徒会長は3年の特進理系コースでダントツ一番の成績。
…・勝てませーん。到底無理です。
「あぁ、・・・まぁ、そうなんですけど。きっかが一緒に入れって」
「え、ちょ、さーや余計なこと言わないの!」
「はいはい・・・・一応、陸上部と掛け持ちです。アリなんですよね?」
「陸上・・・か。」
舞美ちゃんのことを思い出す。
平気かな。舞美ちゃん辛くなったりしないかな・・・・でも、まぁしょうがないか。
そういうこと言っていられるほど余裕がないんだ。
「うん、掛け持ちはありだよ。でも、無理はしないでね」
この中で唯一の3年生であるももがそう言った。
「あ、はい。それは平気です」
淡々としてるなぁ、この子。とても同い年には見えない・・・・。
私はドジも多いし、何かに必死になると周りが見えなくなる。
でも、きっとこの子はそういうことなんてなさそうだ。
…・同級生として、ちょっと憧れちゃうなぁ。カッコイイし。きっと人気あるんだろうなぁ。
なんて、考えながら雑談に興じていた。
209 :&color(green){&bold(){名無し募集中。。。}}:2009/09/26(土) 01:19:32.74 0
&color(blue){>>208 }
第210回
「でね、りーちゃん、カッコイイんだよー北原さん!」
「へぇーでも、きっとみやのほうがカッコイイもん」
「みや?ていうかホント仲良くなってるよね。なんかあったの?」
お昼休みも終わって、授業の合間、新しい仲間の話をしていた。
りーちゃんはうんうん聞きながらも実のところ、みやの話がしたいみたいだ。
だから、私から話を振ってあげる。
「ううん、ただ・・・みやは優しいんだよ。すっごく優しいから」
「そうだね、みやは優しすぎて勘違いさせちゃうから」
「ふーん・・・・・勘違いかぁ」
りーちゃんはふと考え込むような仕草をして動かなくなった。
あれ・・・・まさかりーちゃん本気でみやのこと・・・・いやまさかねぇ。
でも、まさかだったらどうしよう?いや、どうしようってどうもできないけど・・・
◆
「で、仲良くなれそうなの?夏焼さんと」
「うんー・・・わかんない。でも、近づけただけでいいんだ」
「なにそれ、そんなことで巻き込んだの?」
「まぁ、怒んないでよ。・・・・これからだよ、これから」
「あっそ・・・まぁ、好きにしてよ」
「ちょ、さーや待ってよー!」
すごくイライラする。何が夏焼だ。あんなの、どこがいいだ。
あれと仲良くなりたいがために入部するなんてバカらしい。
昔から頭のよかったきっかがする行動とは思えないほど、バカらしい。
…・でも、わかってる。こう、イライラするのは私が・・・・いや、今はまだ止めておこう。
24 :&color(green){&bold(){名無し募集中。。。}}:2009/09/22(火) 02:16:09.68 0
&color(blue){>>23 }
第201回
誰も見舞いには来なくなり、かろうじて入学の決まった舞ちゃんや千聖が来てくれるだけで。
新しいキャプテンが決まって、私は病室で一人蚊帳の外で。
一緒に汗を流して、一緒に努力してきた仲間のはずなのに。
私が勝手にそう思ってきただけなのかな。信頼されるキャプテン・・・って一体なんだったんだろう。
私の理想って・・・・なんだったのかな。
陸上以外何もなかった私の高校生活。
友達も陸上部以外にはいない。
…‥やっぱり、走れない私には価値がない。ここにいる意味はない。
怪我が治ったら、歩けるようになったら実家へ帰ろう。
愛理と同じ学校に行きたい。
…・私の心の支えになってくれた、中1当時の愛理の笑顔。
その笑顔が見たくてたまらなかった。
そのために、私は辛いリハビリを耐え抜いた。
手術から何ヶ月か経って、なんとか歩けるようになった私は退院して寮に戻った。
けれど、みんなよそよそしかった。そうりゃそうだ、走れない矢島舞美なんて
価値がないから誰も興味がないんだから。
それにもう退部してる。ここに私の居場所はない。私は学校近くのアパートへ引っ越した。
引き止めてくれたのは舞ちゃんと千聖だけだった。
悲劇のヒロインってこういう感じかな。
凋落の一途。
25 :&color(green){&bold(){名無し募集中。。。}}:2009/09/22(火) 02:16:50.23 0
&color(blue){>>24 }
第202回
あと少し、あと少し我慢すればちゃんと歩けるようになる。
そうしたら帰る。愛理に会いに、帰る。
私はそれだけを胸に、学校へ通った。
友達もいないクラス。3年になってクラスを変わってきた私、
怪我した私に寄って来る人はいなかった。
どこにも私の居場所なんてなかった。それでも、我慢できたのは愛理のおかげで。
そして、私は6月いっぱいで転校した。
誰にも言わずに2年と少しを過ごしたあの街をあとにした。
未練はない。ただ、早く愛理に・・・・会いたかった。
◆
「・・・・ってなわけで」
「そっか」
「楽しい話じゃないでしょ」
「なんかさ」
「ん?」
「ジェットコースターみたいだね。」
「・・・そうだね。でも、長かった。何十年もそうだったみたいに」
「ね、」
「ん?」
私は膝の上をポンポンと叩いて舞美ちゃんのシャツを引っ張った。
「ここ、いいよ」
「熊井ちゃん怒るよ」
「今日は許してくれる、きっと」
「そう、じゃあお言葉に甘えて・・・」
舞美ちゃんはそう言いながら、私の膝の上に頭を置いた。
舞美ちゃんのサラサラの髪が少しだけくすぐったい。
26 :&color(green){&bold(){名無し募集中。。。}}:2009/09/22(火) 02:17:36.66 0
&color(blue){>>25 }
第203回
「・・・・ばかだよ、舞美ちゃん」
私は舞美ちゃんの髪を撫でながら、声をかけた。
「なにが?」
「価値がない、なんて。そんなの・・・・悲しいよ」
「でも、そうなんだよ。スポーツで進学するってそういうことなんだ」
「うん、わかってるでも・・・」
「ありがとう、そう言ってくれるだけで嬉しいよ」
「ごめんね、辛い話させて」
「言わなかった私がいけないんだ、それだけ」
舞美ちゃんそう言って黙り込んでしまう。
「・・・・ねぇ、価値がないなんて言って欲しくないよ」
「どうして」
「舞美ちゃんは優しくて、お人好しでかっこよくて・・・・私の大切な幼馴染だよ。
それだけで大きな価値だよ。早く走れることなんて大したことじゃない。」
「ダメだよ愛理」
「え?」
「そういうこと言うと、本気で好きになるよ?」
舞美ちゃんは私の顔を見上げてそう言う。
「・・・ば、ばかこっちはマジメなのに!」
やけにマジな顔でちょっとだけドキっとした。
「でもまぁ・・・・ありがとう」
「う、うん・・・・」
気付けば、空は真っ赤で。
舞美ちゃんは私の膝の上で空を見上げていた。
どんなこと、考えているんだろう。想像もつかないや。
その顔は綺麗で、私はぼーっと見惚れてしまっていた。
66 :&color(green){&bold(){名無し募集中。。。}}:2009/09/23(水) 01:12:07.93 0
&color(blue){>>26 }
第204回
「愛理」
「ん?」
「先に帰っていいよ。ここは心地がいいからもう少しいたいんだ。
それに・・・・きっと校門には舞ちゃんがいるだろうから」
「・・・わかった。じゃあ、また明日」
「うん、バイバイ・・・・あの、ごめん、自分から言わなくて」
「いいの。もう、気にしてない。」
「そっか、ありがとう」
「バイバイ、舞美ちゃん」
舞美ちゃんと別れて、屋上を出た。
階段をゆっくりと下りていく。
舞美ちゃんの話が頭の中をグルグルと巡る。
「愛理」
「・・・・先輩」
屋上から出てはじめにある、階段の踊り場。
友理奈先輩が壁にもたれかかって腕を組んで立っていた。
髪のせいで表情はよく見えない。
でも、その立ち姿はとっても綺麗だ。
「終わった?」
「はい」
「・・・今度、うちにも膝枕してよね」
先輩はちょっと恥ずかしそうにそう言って、照れてた。
「へっ、あ、いや、あれは!」
「今日は、今日だけは許す」
「・・・・ありがとうございます」
67 :&color(green){&bold(){名無し募集中。。。}}:2009/09/23(水) 01:12:48.80 0
&color(blue){>>66 }
第205回
「・・・・ま、正直妬いたけど・・・」
「妬いてくれるだけで、私嬉しいですよ?」
私が先輩の手をとって長い指に触れながらそう言うと
先輩は下を向いて小さな声で言う。
「・・・だって」
「えへへ・・・・先輩、帰りましょ?」
「うん」
先輩は頷いて、私の手を握ってくれた。
暖かい手。大きな手。優しい手。
舞美ちゃんのことは今すぐに整理もできない。
だけど、こうしていると心は乱されない。
…ゆっくり、舞美ちゃんと向き合おう。・・・そう、決めた。
そして、私は、私たち文芸部は部室を賭けてもっと頑張らなくちゃいけない。
いっぱいいろんなことがあるけど、それが一番重要・・・かもしれない。
りーちゃんも入ってくれたけど、まだ目標の人数は達成できていない。
時間だって、あと2週間・・・テストもあるから実質10日くらいだけ。
…・なんとか、しなきゃ。
部員は今11人。あと、6人。
いや、17を上回らなきゃいけないから・・・あと7人。
厳しい・・・・。
124 :&color(green){&bold(){名無し募集中。。。}}:2009/09/24(木) 01:04:34.21 0
&color(blue){>>67 }
第206回
「さて、いよいよヤバイんだけどどうする?」
舞美ちゃんの話を聞いた次の日のお昼休み。
私と、ももと、みやと、先輩の4人は勧誘には参加せずに
部室にこもって作戦会議となった。
他の子たちは勧誘活動を頑張ってくれていて、感謝してもしきれないや。
部長であるももの言葉に、私たちはうーんと考え込む。
「あと、7人だね。7ってデカイよねぇ」
「勧誘って言っても限界あるしなぁ」
「今11で、一人1人をノルマにしたら・・・・でも、うち友達いないしな」
みやは自分で言ってため息をついた。
確かにみやはいつもここにいるか、屋上にいるから友達はいないみたい。
そんなとき、ノックの音がして私たちはドアで視線をやった。
ももが、「はぁーい」と返事をしてドアを開けた。
そこにいたのは、2人。見覚えは・・・あんまりない。何年生かな?
「あ、あの・・・入部希望なんですけど、2人」
目鼻立ちくクッキリしたほうがそう言った。
あれ、誰かにちょっと似てる。誰かな?
「入部、できますか?」
後ろにいた、ちょっとボーイッシュな感じの子が聞く。
「もちろん!大歓迎だよーありがとう!」
ももが2人を部室に招きいれ、二人に握手を求めた。
2人はちょっぴり緊張しながら、手を差し出した。
私やみや、先輩は嬉しくてニコニコしながら顔を見合わせていた。
126 :&color(green){&bold(){名無し募集中。。。}}:2009/09/24(木) 01:05:55.20 0
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第207回
◆
愛理と別れて、しばらく一人になっていろいろ考え事をして、
学校を出たのはもうかなり遅い時間だった。
舞ちゃん帰ったかなぁと思ったけど、校門へ近づくと2人は門に垂れかかって、そこにいた。
「よ、舞ちゃん千聖」
「遅い」
「ごめんごめん。きっと待ってるだろうなぁと思ったけど」
「じゃあ早く来てよ」
「んー・・・まぁごめん」
舞ちゃんはちょっと、いや結構怒っていて腕を組んでる。
千聖は舞ちゃんの後ろにいて、何も言わずそこにいる。
この2人はいつもそうだ。
舞ちゃんが暴走しそうになるまで、千聖は特に何も言わずにじっと後ろで見てる。
でも、いざ暴走するとダメだよってしっかり叱る。注意する。それが千聖だ。
お似合いだよ、この2人。
「もう東北へ帰りな。私は帰らない」
「だめ、一緒に帰ってもらう」
「帰ってどうすんの?私居場所ないよ」
「・・・・先輩たちもね、監督も舞美ちゃんに謝りたいって!
戻ってきて、それで・・・・それで・・・マネージャーになってほしいって!」
「・・・ふーん」
「お願い、舞美ちゃん!みんな反省してるんだ。だから・・・!」
「そういう問題じゃないんだよ、もう。ていうかほんといまさらすぎ。ばっかみたい」
「舞美ちゃんがいなくなって・・・ほんとにいなくなってみんなわかったんだよ!」
舞ちゃんは必死に言う。でも、いまさらそんなことを言われて素直に聞くバカがどこいるってんだ。
125 :&color(green){&bold(){名無し募集中。。。}}:2009/09/24(木) 01:05:14.62 0
第208回
「散々ひどいことしていなくなったらいなくなったで戻ってきて欲しい?バカにしてんの」
「・・・・お願い、舞美ちゃん」
「悪いけど、無理だよ。私はここに居場所を見つけたんだ。それを投げ出してまで
戻ろうとは思わない。もうすぐインハイなんだよ、早く帰りなさい」
「・・・・舞美ちゃん」
舞ちゃんは泣きそうな顔で見上げてくる。
ちょっと揺らぐ。でも、そんなことで流されるわけがない。
私の辛さを悲しみを誰がわかってくれるって言うんだ。誰もわかるはずがない。
走れないってわかったらポイっと捨てたくせに。
「舞ちゃん、私は舞ちゃんのことも千聖のことも好き。でも、戻れない。
それはいまさら戻っても私がみんなのこと許せないから。
走れない私には価値がない、意味がない。戻る意味がない。
マネージャーなんて私じゃなくたっていいでしょ。
みんなズルイって思わない?いまさらそういうこと言うのはズルイよ。
申し訳ないけど、戻らない。早く、学校へ帰りなさい」
舞ちゃんの目線に下げて、目を見て語りかける。できるだけ、優しく。
舞ちゃんは首を振りながら、泣きそうな顔をしながら聞いてくれる。
「・・・ごめん」
舞ちゃんの頭をガシガシを撫でると舞ちゃんは
「バカ」ってソレだけ言って泣き始めた。
あーあ・・・と思いながら抱き寄せて泣かせてあげた。納得するまで泣いてくれればいい。
私にはそうするしか他なかった。
千聖は小さく、「明日、帰る」それだけ言ってまた黙った。
207 :&color(green){&bold(){名無し募集中。。。}}:2009/09/26(土) 01:17:32.48 0
&color(blue){>>125 }
第209回
「2人は何年生?」
部室に招き入れられた入部希望の二人に聞く友理奈先輩。
みやも興味津々だ。
そういえば、みやは、前はあんまり他人に興味ない人だったのに。
こうして勧誘やらやっているうちにちょっとずつ変わってきた。
うん、なんだかちょっと嬉しいな。
「え、っと、私は2年で・・・」
「私は1年です」
「へぇ、じゃあ、うちとみやが同級生だ。よろしく」
先輩は、目鼻立ちのクッキリした方と握手をした。
みやも、それに続く。
「じゃあ、1年生は私と同級生だ。よろしくね」
1年生だと言った方に手を差し出すと、結構強い力で握り返された。
ちょっと、カッコイイなぁ・・・・髪も短めで男の子みたい。
背は、私と同じかもう少し高いのかな。
「って、名前だ、名前」
ってももが言う。そうだ、すっかり忘れてた。
私たちは一人ずつ自己紹介をした。
そして、二人の番。
「吉川って言います、2年の7組」
「あぁ!吉川さんかー、7組の秀才」
先輩はあ!って顔をしてそう言った。知ってるんだ?
「そ、そんなんじゃないです。学年一番は熊井さんだし」
「いやいやわかんないよ、へぇ、吉川さんなんだー。名前しか知らなくてさ!ほんとよろしくね」
先輩は、嬉しそうにそう言う。・・・むぅ。どうせ私は成績よくないですよーだ・・・。
208 :&color(green){&bold(){名無し募集中。。。}}:2009/09/26(土) 01:18:47.81 0
&color(blue){>>207 }
第209回
「私は、北原と言います。1年1組です」
「え、1組って・・・・スポーツクラスじゃ?」
そう、わが校は学年ごとに1組がスポーツクラスと決まっている。
ちなみ、2組からだいたい6組までが普通のクラス。
みやともも、私もここだ。
一方先輩や吉川先輩は少数精鋭のだいたい7~9組の特進コースだ。
ちなみにちなみにどうでもいいけど、
あの生徒会長は3年の特進理系コースでダントツ一番の成績。
…・勝てませーん。到底無理です。
「あぁ、・・・まぁ、そうなんですけど。きっかが一緒に入れって」
「え、ちょ、さーや余計なこと言わないの!」
「はいはい・・・・一応、陸上部と掛け持ちです。アリなんですよね?」
「陸上・・・か。」
舞美ちゃんのことを思い出す。
平気かな。舞美ちゃん辛くなったりしないかな・・・・でも、まぁしょうがないか。
そういうこと言っていられるほど余裕がないんだ。
「うん、掛け持ちはありだよ。でも、無理はしないでね」
この中で唯一の3年生であるももがそう言った。
「あ、はい。それは平気です」
淡々としてるなぁ、この子。とても同い年には見えない・・・・。
私はドジも多いし、何かに必死になると周りが見えなくなる。
でも、きっとこの子はそういうことなんてなさそうだ。
…・同級生として、ちょっと憧れちゃうなぁ。カッコイイし。きっと人気あるんだろうなぁ。
なんて、考えながら雑談に興じていた。
209 :&color(green){&bold(){名無し募集中。。。}}:2009/09/26(土) 01:19:32.74 0
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第210回
「でね、りーちゃん、カッコイイんだよー北原さん!」
「へぇーでも、きっとみやのほうがカッコイイもん」
「みや?ていうかホント仲良くなってるよね。なんかあったの?」
お昼休みも終わって、授業の合間、新しい仲間の話をしていた。
りーちゃんはうんうん聞きながらも実のところ、みやの話がしたいみたいだ。
だから、私から話を振ってあげる。
「ううん、ただ・・・みやは優しいんだよ。すっごく優しいから」
「そうだね、みやは優しすぎて勘違いさせちゃうから」
「ふーん・・・・・勘違いかぁ」
りーちゃんはふと考え込むような仕草をして動かなくなった。
あれ・・・・まさかりーちゃん本気でみやのこと・・・・いやまさかねぇ。
でも、まさかだったらどうしよう?いや、どうしようってどうもできないけど・・・
◆
「で、仲良くなれそうなの?夏焼さんと」
「うんー・・・わかんない。でも、近づけただけでいいんだ」
「なにそれ、そんなことで巻き込んだの?」
「まぁ、怒んないでよ。・・・・これからだよ、これから」
「あっそ・・・まぁ、好きにしてよ」
「ちょ、さーや待ってよー!」
すごくイライラする。何が夏焼だ。あんなの、どこがいいんだ。
あれと仲良くなりたいがために入部するなんてバカらしい。
昔から頭のよかったきっかがする行動とは思えないほど、バカらしい。
…・でも、わかってる。こう、イライラするのは私が・・・・いや、今はまだ止めておこう。
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