概要
ヴェリアの堕落
ヴェリアの大遠征は、彼にとって生まれて始めての真の敗北であった。大遠征に失敗した
ロードレア国軍は、軍としての統率も失ったまま本国へ戻ってゆく。
ロー・レアルス国軍の追撃、更には略奪が行われた占領地での民衆たちの反乱によって、撤退していく
ロードレア国軍のいくつかの部隊は壊滅したものの、大敗の割には比較的かなりの部隊が無事本国へ撤退することができた。
だが、
ヴェリアは、本国で
アレス戦死の報告を聞くと、呆然としたまましばらく諸将の呼びかけに答える事はなかったという。
天才軍師、そして
ロードレア国国主としての
ヴェリアの人生は、この瞬間終わりを告げた。
この後も、彼の肉体は生き続けるのだが、それまでの
ヴェリアとはもはや別人と成り下がった彼に多くの歴史家は失望し、小説ではこの遠征で
ヴェリア自身も戦死し、ここで物語を最終回とするものも多くみられた。
蜉蝣戦記の著者である
アルディアも、これ以後の
ヴェリアには冷たい評価を下し、
ヴェリアと
レイディックの出会いの章を破り捨て、彼は
ロードレア国を滅ぼす元凶とすら指摘した。
常に中立のペンを持ち続けた彼女にしては、珍しく感情のこもった文章であるが、後年
アルディア自身も別の書籍で、そこに関しては後悔を以下の様に述べている。
「まだ若き頃の
ヴェリアとであった時、この男が歴史を動かしてくれるという高揚感と期待感を感じていた。それが裏切られた気持ちで、思わず感情を走らせてしまった……」と。実際、これ以後は再び「中立」に徹した文章に戻っている。
その
ヴェリアは、
アレス戦死を聞いた日から酒量が目に見えて増え、酒に逃避しはじめたのは明らかだが、2月7日に街角で一人の少女と出会う。
その少女こそ、皮肉にも
ヴェリアがかつて
ロードレア国国主を巡って争った
デイズの娘で、
ヴェリアの策により親を失い孤児となっていた
ルフィである。
驚くほど
アレスに似た彼女と
ヴェリアの出会い、それが単なる恋愛であれば、胸をときめかす運命の出会いとして美談で済んだであろう。しかし、これこそが、
ロードレア国を滅ぼす出会いと呼ばれる禁断の邂逅であった。
この後、
ヴェリアは酒と
ルフィに溺れ、彼女の言うことを真に受けて実行することとなる。
だが、この二人が偶然出会ったのなら、話が少々出来すぎている気がする。
そこで、後世に囁かされたのが「復讐説」である。
ルフィは最初から
デイズの旧臣、または
ルフィ自身の意思により、
ヴェリアを惑わすために意図的に近づいたという説である。
その説の真偽はわからないが、
ルフィが稀代の悪女として歴史に名を残すことだけは紛れもない事実である。
メファイザスの逆遠征
ロードレア国軍を完全に撃退した
ロー・レアルス国軍。
今度は
メファイザスが、
ロードレア国への大規模な逆侵攻を行うため、連日軍議を重ねていた。
しかし、6月からはじまった軍議は、一向に結論の出ないまま夏を迎える。
メファイザス自身が出兵に乗り気ではなかったためである。何度話し合いを重ねても、これだけの大規模な遠征を実行に移すことはできなかった。それは、自分が動けば
ベルザフィリス国も呼応して動くことがわかっていた為である、
ヴェリアはそれを見据えて、
ベルザフィリスに自分の力を見せつけ、留守に動けば真の罠が動くという疑心暗鬼にまで落とし、備えを万全にしてから大遠征を実行に移した。
しかし、今の
メファイザスには、そこまで
ベルザフィリス国を封じ込める自信はなかった。
遠征を行う構想力、実行力、そして
ベルザフィリス国に対する威圧において、自分が
ヴェリアに勝てないことを
メファイザスは悟ったのである。
戦場においては勝利したものの、戦略構想においては自分はまだ
ヴェリアに勝っていない事を自覚した彼は、勝利の余勢に乗る諸将の士気を挫かない為、一応遠征の決意はするが、その軍事目的は、
ヴェリアの大遠征で奪われた都市の奪還と、国境の威圧に留まった。
その一方、ここで
ロードレア国軍が一気に本隊を投入すれば、
ロー・レアルス国軍を撃退し、
ベルザフィリス国軍と呼応しての侵攻も可能な状況になる。急ぎ
バイアラスをはじめとする諸将が
ヴェリアに出陣を促す。
しかし、11月26日に行われた軍議でその案は却下された。
軍議の席に突如現れた
ルフィが「
ベルザフィリス国と
ロー・レアルス国が戦い始めたのだから、相打ちして果てるまで見守りましょう」と言い、
ヴェリアはもはや覇気を失い空ろとなった目で「
アレスならそう言う、今は動かないことだ」と言い、軍議を終わらせた。
バイアラスは去っていく二人を見て、呆然としていた。そして、
アレスがそんなことを言うはずがないと洩らすと、静かに軍議の席を立ったという。
この時、
ルフィの可愛がっていた愛鳥が風邪をひいていた為、
ヴェリアを外へ出したくなかった
ルフィがその様な発言をしたと言われている。
国主がこの有様では、兵士達の軍規も失われていた。
ロードレア国軍兵士は、大遠征の後遺症から、日に日に積もる不信感と不安により徐々に暴走がはじまり、かつての統率のとれた動きは既になく、自国領土ですら兵士達の略奪行為が見られ始めていた。
ベルザフィリス国軍は、
ロー・レアルス国軍が思いのほか早く自分たちに軍勢を差し向けてきた事から、結局にらみ合いとなり大きな戦いはなく、この三つ巴の国境決戦は、「対峙したまま決戦なく引き上げる」という、不思議な終わり方を迎えた。
戦いの結末
決戦なく終わった戦いだが、この後、
一月の別離酒が起きる等、
ロードレア国は、戦った結果ではなく、戦わなかった結果として、内部から崩壊していくこととなる。
最終更新:2011年12月15日 01:24