概要
ヴェリアの大遠征とは、
蜉蝣時代の戦乱の中で、
アルファ703年2月から、704年10月(全軍の帰還終了までなら705年1月)まで行われた、
ロードレア国による
ロー・レアルス国への大進軍である。
当時の戦史の常識では考えられない規模の大遠征となった。
戦闘に至るまでの背景
ヴェリアにとってこの遠征は、
メファイザスと決着をつけるまで決して帰国しない覚悟で、
ロー・レアルス国を併合し、そのまま天下統一まで一気に加速する最大のチャンスと考えていた。
実際、
蜉蝣時代の終焉を見ても、大勢力同時の均衡した状態も、一度バランスが崩れると、そこから一気に加速する傾向にある。
ヴェリアが目指していたのは単なる大規模兵力を動員した他国への侵攻ではなかった、戦乱を終わらせる意味も込めた壮大な構想の元行われる大遠征であった。
703年6月17日~国境突破戦
戦闘経緯
5月24日、盛大なる出陣式の後、隊列をそろえて出陣した
ロードレア国軍。
最初に戦火を交える事となったのは、6月17日の国境突破時であった。とはいえ、相手は国境守備部隊が二つの陣地から出陣して合流した兵力800、時間稼ぎにもならないこの微弱な抵抗を
ナッシュ部隊が粉砕し、そのまま遠征軍は
ロー・レアルス領土内へと進入を開始した。
6月26日、はじめて
ロー・レアルス国軍がまとまった抵抗を見せたのは、
ゾッグを総大将とする兵力3万の部隊であった。
ロー・レアルス国軍の目的が、遠征で伸びきった
ロードレア軍を遮断して各個撃破することは目に見えていた。
ヴェリアは、この遠征で一度もその隙を見せず、逆に相手が先に痺れを切らせて決戦を挑んできたところで決着をつけるという戦法を大前提としていた。
この
ゾッグとの戦いも、完膚なきまでに叩く必要があった
ヴェリアは、
バイアラスと
リディという
ロードレア国最高の将をもって、
ゾッグ部隊撃破を任せた。
バイアラスと
リディが、個人的に繋がりをもったのはこの頃からだと言われているが、静の
リディと動の
バイアラスは戦場でも見事に噛み合い、
ゾッグ部隊を難なく撃破、本格的に敵国の領地へと侵入を開始した。
704年8月3日~侵攻戦
戦闘経緯
ロードレア国軍は、
ロー・レアルス国への侵入を続けていた。
ネルヴァ城、
レイアル砦、
メネシア砦も落とし、大きな戦いで6回、小さな戦いなら記録に残っているだけで20回という連戦の全てに勝利した
ロードレア国軍は、ひたすら進撃を続けていた。
さすがの大兵力も、城に篭られると一度の戦いに時間を要する事があったが、それでも、ここまでは
ヴェリアの計画と時間的にも進軍ルート的にも、それほどの誤差はなく進んでいた。
ロー・レアルス国の次なる防衛陣は、
ゾッグ、
ドゥバ、
ドルトンといった将が、部隊を2手に別けて遠征軍を挟み撃ちにする体勢をとった。これに対して
ヴェリアも軍を二手に別けてあたることとなる。
軍を二手に別けて対峙した矢先、
アレス部隊である事件が起きていた。
この時点で、既に遠征から1年に及ぶ戦いが続いており、流石に兵士達の疲労を蓄積させたのか、3名の兵士が部隊を離れて近隣の村で略奪行為を行っていた。すぐさま囚われた兵士達。軍律では、即座に死罪であったが、国を出てから苦楽を共にした兵士達を自らの手で罰する事が
アレスにはできなかった。
しかし、兵士達は逆に
アレスに食って掛かり、上層部が勝手に決めた事になぜ自分たちがここまで付き合わなければならないのだと問い詰める。この兵士の叫びに返す言葉を見つけられなかった
アレスだが、
ナッシュがその場で
アレスの制止を振り切って軍律に乗っ取り兵士達を斬り捨てる。
更にこの3日後、
アレスの副将の一人
ワイズ自らが、近隣の村で略奪を行う相談をしていたところを
リディに見つかる。発覚を恐れて
リディに斬りかかる
ワイズだが、逆に喉元に槍を突きつけられると、今度は一転して必死に弁明。今部隊内に不協和音を残すのは
アレスの望むところではないはず、ここは見逃してくれと
リディに哀願する。確かに兵士の略奪の件もあった為、この時内部に火種を残すのは
アレスに心労をかけるだけだと判断した
リディも、
ワイズから槍を引くと、何も言わずに去っていった。
こうして兵士だけではなく、一部の将にまで不穏な動きが見え始めた
ロードレア国軍だが、戦場においては変わらず勝利を収めていた。
8月14日に
ゾッグ、
ドゥバ部隊を、21日に
ドルトン部隊をそれぞれ撃破した
ロードレア国軍は、二手に別けた軍勢を再び結集させ、更に進軍を開始した。
704年9月7日~リアーズ秋の陣
戦闘経緯
僅かに何かが変わりつつあった、それでも遠征は続けられた。
ゆっくりと、しかし確実に領地を拡大し、城を落とし、突き進んできた
ロードレア国軍。対する
ロー・レアルス国軍は、
メファイザスから、徹底的に防衛に徹しろとの命令が行き届き、
ロードレア国軍の進軍速度を遅らせることには成功したが、根本的な解決を見出せないまま戦局はここまできた。
勿論、この間にも
メファイザスは、
ロッド国、
ベルザフィリス国を動かす策を水面下で行っていたが、
ヴェリアと
アレスの1年にも及ぶ準備は、防衛に対しても完璧で、
シルヴァスをはじめとする本国残留部隊が、あらゆる事態に対する対処法を託されており、その隙をみせなかった。
しかし、ここにきて
ロー・レアルス国軍は、ついに
ゼノスを総大将とした本格的な迎撃部隊を派遣する。
その背後には
メファイザスを総大将とした兵力数十万が集結中という報告を聞いた
ヴェリアは、これこそまさに待ち望んでいた展開になったと、嬉々として軍勢を布陣させていた。
疲れを知らない遠征軍に、相手が痺れを切らして自ら決戦を挑んでくる。これこそが
ヴェリアの描いた最高のシチュエーションであった。
だが……現実は、疲れを隠している遠征だったことにこの時点で気付いている者はまだ少なかった……
いかに猛将
ゼノスを総大将としているとはいえ、兵力の差は歴然としていた。
ゼノス自身もそれは熟知し、本隊集結までの時間稼ぎをするつもりでいた。
ヴェリアは、本隊と合流する前に一気に決着をつけようと、
バイアラス、
アルガード、
リディ、
ファルザス部隊を突撃させ、時間稼ぎすら許さない波状攻撃を仕掛けた。
だが、
ヴェリアの思惑とは裏腹に、戦局は思ったより進まず、結局兵力の差で、
ゼノスを撃退するものの、
ロードレア国軍も当初の予想以上の損害を出していた。
兵士達の疲労はもはや極度に達し、この戦いの後、長雨により食料配布が一時滞り、ついに我慢できなくなった一人の兵士の暴走からはじまった略奪は、二人、三人、そして一個部隊へと連鎖的に広がっていった。
兵士の疲労は、最初から計算にはいっていた。しかし、すべてを「計算」で片付けようとしていた
ヴェリアは、この時代まだ前例のなかった長期間の遠征によって発生する、兵士達の心神喪失、厭戦気分、故郷への思いといったものまでは理解していなかった。勿論、兵士たちの慰安所も作ってはいたが、20万を越す兵士たちを常時満足させられるわけもなく、もはや軍令でも防ぎきれなくなった略奪に対して、
ヴェリアは兵士の感情を戦場に向けさせる為、
メファイザス本隊との戦いは避けつつも、更に南へ軍を進めようとした。
勝利が兵士達の糧になると
ヴェリアは信じていたが、この時兵士の不満は、実質的な物欲や性欲でしか満たすことはできなかった。その違いに
ヴェリアは気付いていなかったのか、もしくは気付きながらも認めようとしなかったのか……
アレスは一旦占領地を整理して兵を本国へ戻すことを提案するが、成功すれば歴史的な快挙となるこの大遠征、一度出陣した以上、兵を引き上げるという事に
ヴェリアは抵抗を感じてこの案を却下する。それでも引き下がらない
アレスに対して、
ヴェリアは激しく叱責。その姿にかつての変貌していく
レイディックの姿が重なり合わさって見えた
アレスは、絶望感を感じていた。
それを口にした
アレスを
ヴェリアは殴りつけるが、
リディが間に割って入る。
ヴェリアは、
アレスに別働隊を率いて
ジース砦を奪う様に命じ、決戦から外してしまう。
アレスは、
リディにある策を授けて、自らの部隊だけで要所である
ジース砦へ出陣していくこととなる。
704年10月26日~リアーズ冬の陣
戦闘経緯
メファイザスの出現によって後退した
ヴェリア軍は、その後
リアーズ平原でにらみ合いの状態となった。
数ではまだ
ロードレア国軍が勝っていたが、ヴェリアが最も警戒した
メファイザスが相手だっただけに、彼も迂闊に自分から動くことを避けていた。
その間に
メファイザスは、
ロードレア国軍に対して夜襲、奇襲、将への引き抜き工作を行っていた。
ロードレア国軍の兵士が既に疲労の極地に達していたのに対して、
ロー・レアルス国軍は交代制によって、常に兵士の気力が十分であった。
もはや攻撃に移るしかなくなった
ロードレア国軍は、12月8日、例年より早く小雪が舞い散った
リアーズ平原にて、
ロー・レアルス国軍との決戦に及んだ。
相手に決戦を挑ませるという大前提を捨てて、自ら決戦を挑む側となっていた事に
ヴェリア自身気付いていたのかは謎であるが、多くの歴史家が、この戦いこそ「
ロードレア傾国の戦い」と呼んでいる。
兵力はほぼ互角であった、
ヴェリアと
メファイザス、二人の将としての器も互角であった。
だが、戦いとは結局は兵士達が血を流して行うのである。智将がいかなる策を立てようと、勇将がいかに果敢に攻めようと、それに続く兵士がいなければ全ては徒労に終わる。
リアーズ冬の陣は、まさにその戦いの代表的なものであった。
ロードレア国軍の兵士は、もはや戦う前から士気で負けていた。それでも午前中の決戦では、持ちこたえていたが、昼過ぎになると
ゼノス部隊の突撃によって前衛は崩壊。更に、
シャリアル国滅亡により、
ロー・レアルス国の将となっていた
ルーが、
アルガード部隊を撃破、
ファルザス、
ナッシュも、
ドルトン部隊は壊滅させるものの、徐々に後退、かろうじて持ちこたえていた
バイアラス部隊も、
ガイズ、
ゾッグ部隊を撃破するが、
ゼノスをはじめとする複数部隊による波状攻撃によって突破される。
ゼノスが
ヴェリア本陣にまで迫り、
ヴェリアは、全軍撤退を決意せざるを得なくなる。
このときばかりは、
ヴェリアの奇策も、
バイアラスの勇猛も、何一つ輝くことはなかった。
その兵法は
メファイザスを凌ぎ、天才の名をほしいままにした
ヴェリア。だが、彼は兵士の命さえ駒として扱うあまりに、兵士がもつ望郷の念を計算することを怠り、
リアーズ冬の陣で大敗を喫した。
メファイザス、
ゾルデスク、
ガルダ、
ゼノス部隊に囲まれた
アレスだが、本隊が
ロードレア国に撤退できることをこれで確信し、彼女は自らの策が
メファイザスに通じた事にひとまず安堵のため息をついた。
だが、
ワイズは自身の保身を考え、味方を撤退させるためとはいえ自分たちを捨て駒にした
アレスに殴りかかる。その場は他の副将が制して収まったが、
ワイズは12月11日の夜、
アレスを餌に降伏しようと寝室に忍び込む。だが、悲鳴を聞いて駆けつけた将によって
ワイズは討たれた。
この一件で、
アレスは、自分自身も、
ヴェリアと同じく、将兵を追い詰めていたことに気付き、自らの運命を悟り、最後の策を実行することとなる。
12月15日、
アレスは
メファイザスの降伏勧告を受諾する。
その日の夜、
ジース砦は冷え込んでいた。そんな中、
アレスは、副将が部屋に戻ることを促すのも聞かず、いつまでも雪の舞い散る夜空を眺めていたという。
翌日、
アレスは降伏を申し出て、単身
メファイザスと会見を開いた。
元々兄妹弟子だった二人である。会見はスムーズに始まったが、昨日の雪もあり、
アレスは体調が思わしくなく、時折激しい咳をしていた。
会談が始まってしばらくたつと、
アレスの咳はいよいよ激しくなりうずくまる。兄弟子として彼女の体調を心配し、
メファイザス席を立って近づいた瞬間、
アレスは服の中に隠し持っていた懐剣を抜いて
メファイザスに突き立てる。
アレス最期の策は、
メファイザスと刺し違えるものであった。
メファイザスは、
アレスの性格を熟知していた為、このような捨て身の肉弾戦を仕掛けるなど夢にも思わず、策においては完全に
アレスに敗北した。だが、悲しい事に
アレスの細腕で彼の命を奪うことは不可能であった。
寸前の所で彼女の懐剣を持った右腕は
メファイザスに抑えられる。
メファイザスは、それでも
アレスをなんとしても部下にしようとしたが、主に懐剣が突き立てられるのを見て、周囲の護衛兵が反射的に
メファイザスの制止も聞かず
アレスを斬る。
軍師でありながら、その小さな体に傷は耐えなかった薄幸の白儀牙
アレスは、二人の兄弟子の間で翻弄されて散っていった。
アレスは、自身が国の為に私心を捨てる覚悟とそれを裏づけする数多くの実績をもっていた。
だが、彼女は自身を過小評価する事も多く、自らが至高の場所に到達していた事に気付かないまま、他の者も同じ高みに到達できると誤解していたのかもしれない。
兵士や
ワイズの反乱は、彼女の築き上げた理想を崩壊させるには大きすぎる出来事であった。
ジース砦は、その後降伏勧告を拒絶し、城兵全員が
アレスに殉じて討死を遂げ、ここに大陸の歴史にかつてなかった
ヴェリアの大遠征は、大陸の歴史に大敗北として刻み込まれる結末を迎えた。
最終更新:2011年12月14日 13:46