概要
戦闘に至るまでの背景
遅れてきた英雄というものがいる。
類稀な才能を持ちながら、戦乱の時代に身を乗り出した時、既に国の大勢が決まり、自らの才能を持て余す者、または評価されない者、そして才能を開花させつつも結果を出すには時間があまりにも限られた者。
シャリアル国の若き将
ルーは、後に登場する
リディと並んで「遅れてきた英雄」の代名詞となる。
その彼が始めて歴史に登場したのがこの時である。この頃
ロードレア国は、
ロッド国に大勝し、次の矛先は
シャリアル国に向けられていた。
シャリアル国は、国境に4万の軍勢を集結させ迎撃の体勢を取る。
レイディックはこれに対して
アルヴァドスに第一陣をまかせ、彼に国境を攻撃させ、自らは密かに国境の拠点
フェルス城を奪おうとしていた。
2月26日、
フェルス城を任されていた
ゾルデスクは、若き将
ルーから
レイディックは国境に軍勢を向けると見せかけて、この城を狙いに来ると告げられて衝撃を受けていた。しかも、
ゾルデスクの決断を待たずに、
ルーは既に軍勢を集結させていた。
ルーは、
レイディックが長期的な準備をして軍勢を派遣した割には、兵站の拠点がない事に疑問を持ち、国境軍は囮で、この城を狙っている事に気付いた。さらにその目的が拠点確保である以上、下手に城から打って出ず、篭城して時間を稼ぐべきだと述べた。
2月29日、
レイディックの策に不安を覚えた
アレスが、
レイディックの元へ赴いた。
ロッド国での捕虜虐殺の一件があってから、
レイディックに意見することを配下の将は避け始めていたが、
アレスはあえて真正面から自重を促した。この策が見破られていた場合、国境軍と城攻め軍を同時に失うこととなる……と。しばしの沈黙の後、
レイディックは、確かにリスクが高いと、
アレスの意見を受け入れて、城攻めを諦めて撤退を命じた。
両軍の戦力
アルヴァドスの乱
3月25日午後1時30分、先の戦いで軍勢を失っていた
アルヴァドスは、本陣から大量の兵を補充すると、更に
アルガード、
ファルザスの2将を呼び寄せた。
この報告を聞いた
アレスは、若干の不安を感じていた。軍勢が扇状に広がってしまい、どこか一箇所でも破られれば本陣まで一気に攻め込まれる事を懸念していた為である。
シャリアル国境守備部隊は、数を集めたものの、それを統率する将はいなかった為、
アレスの考え過ぎではあったのだが、これは実戦を潜り抜けた者が本能的に感じる直感であったのかもしれない。ただ、その危険性の内容は大きく異なっていたが……
アレスは自らの軍勢を大きく動かし、部隊を後退させ、扇状の中心点に移動した。どの部隊に急変が起きても駆けつけれる体勢を維持したのである。
午後3時38分、
ロードレアの若獅子と呼ばれる
アルガード、
ファルザスが武功を上げていた頃、
アルヴァドスはこの若き2人に戦線を任せて、軍勢を立て直すために一旦後退すると告げる。
レイディックの旗揚げから従ってきた大先輩に最前線の戦線を任され、若い彼らは感動にも似た感情で奮戦した。
午後4時17分、
アレスは自らの軍勢から兵800を裂いて、副将
ルガッツに本陣への増援に向かわせた。
慎重を通り越したこの命令に、これまで一度も
アレスに逆らったことのない
ルガッツが、はじめて反論するが、
アレスの必死の形相を見て、兵800を率いて本陣へと向かった。
同じ頃、本陣へと向かう
アルヴァドス。その彼の脳裏に様々な過去が流れては消えていく……
691年の反乱鎮圧事件。
それは、小さな反乱鎮圧であった。
アルヴァドスは先発隊を率いて反乱軍と戦ったが、一向に
レイディック率いる後続部隊が到着せず、彼の部隊は壊滅した。
ラディアが独断で援軍を送った為、
アルヴァドスはかろうじて生還したが、反乱軍の将が
アルヴァドスと同郷だった事から、自分も反乱に加担していると疑い軍勢を送らなかったと
アルヴァドスは思い込み、自分を見殺しにしようとした
レイディックに不信感を覚えていた。
ロッド国遠征時における無慈悲な
レイディックの振る舞い、彼の命令により
アルヴァドスは捕虜を虐殺する任務を実行した。
今回の遠征においても、作戦の突然の変更により、彼は国境で自らの部隊を半壊させた。(ただし、これは彼自身が独断先行した為でもある)
午後5時42分……
軍勢を大きく迂回させ、本陣を見下ろす位置についた
アルヴァドス。
「自らが仕える主を誤り、そのために自らの生涯を貶めることは本意にあらず……」
この時
アルヴァドスは、
レイディック本陣に自らの軍勢を突撃させた。
この時代の兵士はそれほど教育されてはおらず、部隊の将がここを攻撃しろと言えば、そこにいるのは敵だと信じ込んでいた。
そのため、
アルヴァドス部隊のほとんどの兵士が、反乱に加担していることを知らないまま
レイディック本陣へと強襲した。
アルヴァドス部隊の将も、表立って反抗すればその場で殺される異様な雰囲気に逆らえず、また、戦乱の時代においては国主よりも自分の直属部隊の将に忠誠を誓う者も多く、
アルヴァドス本人も部隊内でそれなりの人望があった為、部隊は一斉に
レイディック本陣へと攻撃を仕掛けた。
これは、名もなき将にとって、国主の栄達は直接自分に関わる部分が少ないが、直属の将軍が栄達すれば、それはダイレクトに自分に見返りが返ってくる為である。
レイディック部隊は総兵数こそ8000であったが、それは大部隊の合計兵数であり、いくつかの小部隊に分散して外敵から本陣を守る様に配置されていた為、
レイディックが自ら引き連れた兵はおよそ2000。内部から攻め込んできた
アルヴァドス軍12000の前では一瞬にして崩壊していき、本陣防衛に駆けつけた
ルガッツも討ち取られた。
アルヴァドスは、
レイディックが逃げ込んだ森に火を放ち退路を断った上で、
シャリアル国に伝令を流し、これを国境守備部隊の指揮をとるために到着した
ルーが知ることとなり、彼はそれまで烏合の衆だった国境守備部隊を一瞬にしてまとめあげると、
ロードレア国軍を一気に追撃していく。
退路もなく、援軍もなき
レイディック。
覚悟を決めた彼は「思えば、人の人生など瞬きのようなもの」と自嘲の笑みを浮かべると、「
アルヴァドス、貴様如きに我が剣をやる訳にはいかない」と言い残して、自ら炎の中に身を投げた。
この時代、名のある将を討ち取った証として、その将の剣を掲げる風習があった為、
レイディックは自らの愛剣と共に炎の中に姿を消した。
アレスの撤退戦
アルヴァドスは反乱を起こしたが、
シャリアル国に寝返った訳ではなく、あくまでも
ロードレア国軍の内乱部隊という立場であった。
この時点で、
ルーがあえて
アルヴァドスを攻撃する理由はなく、逆に
アルヴァドスを「そう動くしかない」状態に持ち込むことで、見事に
ロードレア国軍残存部隊の包囲網の一部に取り込む。
気を失っていた
アレスが目を覚ましたのは夕方であり、既に日が翳っていたため、攻撃にうつるのは翌日の朝と思われた。
アレスはしばらくの思考の末、決意を決めると、兵士達に皆を必ず故郷へ帰すと約束し、その証として自らの美顔に護身用の小刀で傷をつけた。
アレスの左頬の傷はこれ以後消えることはなく、彼女の代名詞となる。
3月26日深夜0時、
アレスはまず
ファルザスに兵700、
メネヴァに兵460を与えて、それぞれ
アルヴァドス部隊と
シャリアル国軍へと向けさせる。
包囲網を敷き、早朝の攻撃開始を待ちわびていた彼らは、
ロードレア国軍の突然の攻撃に一瞬は戸惑うものの、夜の闇を利用しての脱出は想定の範囲内だった為、落ち着いて迎撃体勢をとる。
この時、
ファルザス、
メネヴァ部隊は素早く部隊を4つにわけ、そのまま引き返していく。
シャリアル国軍と
アルヴァドス軍は、お互いを敵軍と誤認して攻撃を開始、同士討ちを始める。
しばらくたち「
アレスの同士討ちに仕掛けられたのが気付かないのか、既に
アレスは南へと落ち延びたぞ!」と将が叫びはじめ。この声に漸く同士討ちに気付いた
アルヴァドスは、ここで
シャリアル国と問題を起こせば、
ルーの気が変わり、まだ
ロードレア国軍として認識されている自分達も一瞬にして殲滅の対象になるという恐怖もあり、急ぎ軍勢を南へと派遣する。
まさか、同士討ちを教えてくれた者が
アレスの手のものとは気付かないまま、
アルヴァドスは包囲網を開けてしまう。
後は手薄となった北側から
アレスは部隊をまとめて本国へと帰国した。
アレスの撤退を知った
アルヴァドスは、
ルーの報復を恐れて自らも
ロードレア国方面へと撤退していく。その報告を聞いた
ルーは「彼はこのまま消えるべきだ、もし再び天下取りの野心を持てば、一年と持つまい」と呟き、自らも軍勢を引き上げさせた。これが初陣とはとても思えない、熟練の名将の如き采配だった。
戦いの結末
最終更新:2011年12月17日 02:27