概要
戦闘に至るまでの背景
軍師現る
ソフィスの戦死から数日、国境を巡っての混乱は、
レイディックが
ラディアを派遣したことにより、ようやく落ち着きを取り戻していた。
そんな中、
レイディックは町で笛を嗜む少女と出会う。
レイディックは、その少女に
ソフィスへの鎮魂歌を頼み、少女もこれに応じて一曲披露した。
レイディックは礼として彼女を城に招く。純粋に鎮魂の唄に対しての礼という意味もあったが、この時代、各地を旅する吟遊詩人は貴重な情報源として各国にて重宝されていた事もあり、情報と引き換えに食事に招くことは別段珍しいことではなかった。
少女の名は
アレス。戦災孤児を集めて私塾を開いていた学者
エザリアンの弟子であった。
エザリアンの元で共同生活を送っていた子供たちは、成長すると自立するためにそれぞれ旅に出る。
アレスもその例に倣って各地を旅していた所であった。
会話を続けるうちに、彼女の才気に気付き始めた
レイディックは、しばらく
アレスを逗留させ、話し込んでいた。そんな中、
バルド国4万の軍勢が
ロードレア国首都を強襲して領土を二分させ、
ロー・レアルス国と挟撃しようと軍勢を派遣する。その報告を聞いた時、
レイディックは無意識のうちに
アレスに意見を求めた。これは単に会話のきっかけとして、聞いてみた程度に過ぎなかったのだが、彼女は「
バルド国の軍勢が
ゼノグリア山地に差し掛かる時、大雨と霧に襲われるでしょう。そこを奇襲すれば撃退が可能です」と答えた。
アレスは居ながらにして既に周囲の状況と天候を把握していた。おそらくは同じ
エザリアンの私塾で育った
隠密と共同で動き連絡をとりあい、彼女独自の情報網を持っていたのだろうが、個人の力で把握できる情報は限られている。この時期に
バルド国に情報網を集中させていたのは間違いなく
アレスの指示であったと思われる。
はたして
アレスが予期した通り、
ゼノグリア山地に差し掛かった
バルド国軍は、大雨と霧で一旦行軍を止めるが、そこを
アリガル部隊に襲われて散々に打ち破られた。(
ゼノグリアの戦い)
これをきっかけに
レイディックは
アレスを正式に軍師として招こうとするが、
アレスは自分より優れた男がいると、同じ私塾出身の
ヴェリアを推薦し、自らは副軍師の地位に留まった。
この報告を聞いた時、
ロー・レアルス国最前線に駐屯していた軍師
メファイザスは、本国で不穏な動きを見せる一派の掃討を口実に、
ロードレア国との決戦に向けて続々と軍勢が終結する中、一人最前線から後方へ移動する。
メファイザスも
エザリアン私塾の一人で、
ヴェリアの才能を知り尽くしていた。その男が今度の戦いで
ロードレア国の軍師として出陣する。それが意味する結末を予期した
メファイザスは、「次の手」をうつべく動き出していた。
一方
ロードレア国では、7月23日に
ロッド国から
ギザイアが使者として
ロードレア国に赴く。同盟を更に強固にするため、
ロッド国国主
リヴァイルシアと
レイディックの妹
シルフィーナの婚約話をまとめるためである。
この時点では
ギザイアは単なる使者であるが、後にこの男こそ
ロードレア国を傾ける存在になるとは知る由もなかった。
こうして8月3日に両国をあげた壮大な華燭の宴が行われるが、その一方、
ロー・レアルス国がついに動き始めた。
蜉蝣戦記の著者にして、後世ではなく、リアルタイムに彼らと接してきた
アルディアは、
アレスとの出会いは詳細に書き残しているが、
ヴェリアとの出会いについては簡潔に済ませている。
当初は
アレスとの出会いに匹敵するだけのページが出会い編として続いていたのに、そのページが原本から丸ごと破り捨てられていることが確認できる。
おそらく、晩年の
ヴェリアの堕落に失望した
アルディアが、自身の書いた本から、
ヴェリアとの出会いに関するページを破り捨てたと推測される。
その為、
レイディックと
ヴェリアの出会いは、その後の物語によって様々な形が存在する。
両軍の戦力
前哨戦
戦闘経緯 1日目
レザベリアス平原を舞台に、配置された両軍。
ヴェリアは、
アレスにムゥルの森に火を付ける様に指示する。火を避けて
レザベリアス平原に移動したところを待ち伏せする為である。しかし、真の目的は更に次の段階であった。この火攻めによる誘き出し作戦は、
カルディスに見破られる事を見据えていた。
ヴェリアは謀略による前哨戦の段階から、とにかく
カルディスに「自分は相手の策をことごとく見破っている」と思わせ、
カルディスが自分こそ主導権を握っていると思わせた形で戦いを進めていく様に仕向けていた。見破られることを前提にしながら、簡単すぎても疑念を招く、
カルディスの器を測った上での、この絶妙のさじ加減を
ヴェリアは見事にやり遂げていた。
8月22日、
アレスが望む風がなかなか吹かず、予定より遅れながらも、火攻め部隊がムゥルの森に火をつけ、この炎が
ロー・レアルス国軍の後方を襲う。
カルディスは瞬時にして待ち伏せを見抜き、
ゼノス部隊に逆に突撃を命じた。この突撃で待ち伏せ部隊を「演じていた」
アリガル部隊が予定通り演技の後退、これに呼応して
ロードレア国軍が全軍守備を固める。必要以上の深追いを避けた
ゼノスだが、初戦の戦果は十分、
カルディスも全軍を押し上げ、
ロードレア国軍は逆に徐々に後退、ローザメナス山地へと布陣していく。
戦闘経緯 2日目
互いの布陣は大きくその配置を変えていた。一言で言うならば
ロードレア国軍は、ローザメナス山地まで押し込まれ、
ロー・レアルス国軍は追い詰めたという形となる。しかし、地形は
ロードレア国軍がはるかに優勢な上、全ては
ヴェリアの仕掛けた罠であったことに、勝ちに乗っていた
ロー・レアルス国軍はまだ気づいていない。
決戦2日目の朝、
カルディスは
ゾイに先陣を任せると、彼を
ロードレア本陣に、
ゼノス部隊を
ラディア部隊へと出陣させた。
この戦いでは、
ゼノスが自ら名乗り出て、
ラディアに一騎討ちを要求する、2ヶ月前の戦いで敗れた遺恨を晴らすための独断行動だが、この時代、名乗りを上げての一騎討ちは、合戦の華だったこともあり、特に珍しい光景ではなかった。
ゼノスの猛攻には、さすがの
ラディアも支えきれず、勝負はあったかと思われたが、これを
バイアラスが救出。
ゼノスは自らの武勇に絶対の自信を持ち、二人同時に相手をすると宣言、この壮絶な戦いを合図に各地で交戦が開始される。一騎討ちを終え、それぞれの軍勢指揮に戻った
ラディア、
バイアラス。
ゼノスも今度は軍勢をもって正面から激突。
ヴェリアの策により、
ラディア・
バイアラス部隊は後退し、追撃してきた
ゼノスを石の下敷きにして打ち破る。
ラディアは、「軍師の策でなければこんな戦いは絶対したくなかった」とつぶやいたという。
しかし、
ゼノス本人は不死身とも見紛う生命力でこの罠を掻い潜り、
バイアラスがこれを食い止める為踏みとどまり、両軍は泥沼の戦いへともつれ込む。(
ゼノスはこの戦いで一時生死不明となり、
メファイザスの政変後に再び姿を現すこととなる)
一方で、
ゾイを中心とした主力部隊は、
アリガル部隊を突破、
ボルゴス部隊も突破して、
ロードレア国軍を追い詰めていく。更に
リヴァドル部隊から「
ロードレア国軍本陣で混乱発生」という報告を受けた
カルディスは、これこそ内通の約束をしていた
ロゥズの働きだと確信。
ゾイ、
リヴァドル部隊に総攻撃を命じる。更にこれが罠だったとしても対処できる様に、
レザリア部隊、
ドルトン部隊の進軍速度を落とさせる周到さも見せる。
ロードレア国軍本陣に一気に迫る
ゾイだが、ここまで守りに徹していた
ロードレア国軍が突如として反撃、
ゾイ部隊を完全に包囲して壊滅させる。この戦いで、建国時代から苦楽を共にした
ゾイを失った
カルディスは、彼にしては珍しく取り乱し、戦死の報告を信じようとしなかった。
しかし、
ロードレア国軍が更に後退したと聞かされると、今度は復讐の表情を見せ、
ゾイの弔いも兼ねた追撃を命じる。
戦闘経緯 6日目
これまでの動から、一転して静の戦いが始まる。
山頂に陣を構えた
ロードレア国軍は、完全に守りの体勢をとり、
カルディスも容易に手が出せなくなった。
そんな中、山頂から出陣の合図である鬨の声が上がり、すぐさま迎撃の準備をとる
ロー・レアルス国軍。しかし一向に
ロードレア国軍は動かない。鬨の声の発生位置を探ろうにも、山々に木霊した声は、どこから発せられているのか見当もつかず、結局
ロー・レアルス国軍は姿の見えない敵を警戒したまま時間だけが過ぎる。
こんなことが三日三晩続き、山頂から見下ろされた
ロー・レアルス国軍は徐々に疲労を蓄積していった。将兵の疲れに、決戦を焦った
カルディスは、自ら敵陣を視察、山の地形を見事に利用した布陣から、正面からの攻撃を断念すると、ローザメナス山脈の名前の由来ともなっているローザメナス山に目をつけた。
8月27日、篝火、キャンプ、旗を残したまま、全軍を3ルートにわけ、闇夜に乗じて密かに移動した
カルディスだが、見渡しのいい高地に到着した
カルディスは、そこで信じられないものを見せられる事となる。
大木を使って作られた「墓」であり、そこには
カルディスの名が刻まれていた。
その瞬間、
カルディスは全てを悟った、すべては自分をここにおびき寄せる策だったことに……そして、草むらから次々と姿を現す伏兵が、一斉に火矢を放った。
8月27日深夜、
カルディスはこの地で完全包囲され、炎の中で壮絶な戦死を遂げた。
この戦いの特徴は、両軍あわせて数十万という大合戦だったにも関わらず、
ヴェリアは袋の中の石からたった一つの玉を掴むかの様に、
カルディス本隊だけを最初からターゲットとしていた。
ロー・レアルス国は
カルディス個人の強烈な個性によって保たれた部分がある。彼さえ討てば、あとは
ロー・レアルス国は内紛を起こし弱体するというのが
ヴェリアの狙いであった。
巨大な国を正面から討つより分裂させて各個撃破する。次の段階を見据えた
ヴェリアの策であった。
だが、この策だけは、もう一人の「先を見据えた男」
メファイザスによって実現を妨げられる事となる。
戦いの結末
この後、
レイディックの東征により、
ロー・レアルス国の北東部は完全に切り取られた。
カルディス戦死により混乱が続いていた
ロー・レアルス国だが、北東部を切り捨てる事により、新たな国境最前線を建て直し、
ロードレア国軍をそれ以上は侵入させず、ようやく落ち着きを取り戻した。
次に
ロー・レアルス国の新たなる国主探しが始まる。
カルディスの叔父
ブウゲイドが候補として上がる。叔父とはいっても、養子に出されていた彼は、
カルディスと直接の面識もなく、最近では
カルディスの叔父という立場すら、捏造だったのではないかと言われている。
ともかく、彼を国主として担ぎ出し傀儡として自らが国を操ろうとしていた一派がいた事は確かである。その中心人物が
ゾルドと
リィドであったが、
ブウゲイドを招いたまさにその日、突如城に潜入した兵士達によって彼らは討ち取られる。
そこに姿を現したのは、
カルディスの軍師を務めた
メファイザスであった。
彼は色めき立つ他の将を制して、自らが
ロー・レアルス国を継ぐと宣言する。
ブウゲイドを平民として一応の礼節をもって軟禁。既に多くの将に根回しがされていた
メファイザスのクーデターは思いのほか簡単に成功することとなる。
翌年の1月3日には、レザベリアスの戦いで戦死したと思われていた
ゼノスが奇跡の生還を果たし、
メファイザスの元へ姿を現す。
カルディス信望者でもあった彼は、
メファイザスの裏切りともとれるこの行為を許せるはずもなく、早速彼に面談する。だがその問いを待つより早く
メファイザスは、彼に逆に問いかけた。
カルディスの望みは一族の繁栄か、それとも乱世の終結か、一族の繁栄を目指すなら血族である
ブウゲイドを立てて私を討つがよい。乱世の終結ならば私と共に
カルディスの遺志を継ぐがよい……と。
そう言われると、
ゼノスは熟慮の末、
メファイザスの旗下に入るしかなかった。まさに相手の性格を熟慮した上の
メファイザスの説得術であった。
そもそも乱世では血統より実力が重視されている。
メファイザスが国主となることを望む将が多かった事も事実であった。
最終更新:2011年12月04日 23:29