死にたがっている狂った犬
もしかしてこの音は目覚まし時計の音か?
起きなくてはいけないのは僕か?
目を開いた。なんだ、もう四時か。バイトに行かなくちゃ。
体の疲れが取れてない。眠たい。
はぁ。心の中で溜め息をついた。
とりあえず、隣接した母のベッドに上半身を移動させると、なぜか充実感を得てしまった。
充実感が嬉しかったのだろう、頭の奥でワーッと歓声が起こり、住人たちがパーティーを開いた。寝ぼけている。
住人たちが楽しそうなので羨ましかった。そして手が届きそうにないので憎かった。
充実感が理解できなかったのでパーティーごと掻き消そうとした。次に、掻き消そうという思いを掻き消そうとした。
理解できない感情こそ大切にしようと思ったのだ。住人たちは儚いから憎い。憎くていとしい。
パソコンを長時間やってしまった後悔を大部分とする、充実感、ねたみ、うらみ、いとしさ。さらにそれらすべてを包み込む絶望感。
僕はピクリともせず、遠くを見るようなぼうっとした視線をカーテンに向けていた。
充実感や、住人たちや、住人たちに抱いた感情たちは、後悔の気持ちと絶望感に呑まれて消えようとしていた。
彼らは小さいが必死に生きている。何かを僕に訴えているのだろうか。彼らを保護したい。彼らを美しいと思った。
しかし美しいのは彼らではなく儚さだと気づいた。たとえば儚い絶望感は美しいはずだ。
だから大部分を占める絶望感こそ、いとしく思うべきだと思った。儚さを勝ち取ることができなかった絶望感は美しい。僕は絶望感に同情した。
小さい者たちの中の特に充実感は美しいけれど嫌いだ。今の僕には小さい者たちを受けとめられない。
本当は好きなのに打ち解けられない知り合いのように。充実感ははっきりしすぎていて僕は恥ずかしくなってしまう。
もう少しオブラートに包んでほしいのだ。もしくは完全にはっきりとしてしまうか。
充実感も変に僕を意識しているところがあって、僕に似て恥ずかしがり屋だ。
起きなくてはいけないのは僕か?
目を開いた。なんだ、もう四時か。バイトに行かなくちゃ。
体の疲れが取れてない。眠たい。
はぁ。心の中で溜め息をついた。
とりあえず、隣接した母のベッドに上半身を移動させると、なぜか充実感を得てしまった。
充実感が嬉しかったのだろう、頭の奥でワーッと歓声が起こり、住人たちがパーティーを開いた。寝ぼけている。
住人たちが楽しそうなので羨ましかった。そして手が届きそうにないので憎かった。
充実感が理解できなかったのでパーティーごと掻き消そうとした。次に、掻き消そうという思いを掻き消そうとした。
理解できない感情こそ大切にしようと思ったのだ。住人たちは儚いから憎い。憎くていとしい。
パソコンを長時間やってしまった後悔を大部分とする、充実感、ねたみ、うらみ、いとしさ。さらにそれらすべてを包み込む絶望感。
僕はピクリともせず、遠くを見るようなぼうっとした視線をカーテンに向けていた。
充実感や、住人たちや、住人たちに抱いた感情たちは、後悔の気持ちと絶望感に呑まれて消えようとしていた。
彼らは小さいが必死に生きている。何かを僕に訴えているのだろうか。彼らを保護したい。彼らを美しいと思った。
しかし美しいのは彼らではなく儚さだと気づいた。たとえば儚い絶望感は美しいはずだ。
だから大部分を占める絶望感こそ、いとしく思うべきだと思った。儚さを勝ち取ることができなかった絶望感は美しい。僕は絶望感に同情した。
小さい者たちの中の特に充実感は美しいけれど嫌いだ。今の僕には小さい者たちを受けとめられない。
本当は好きなのに打ち解けられない知り合いのように。充実感ははっきりしすぎていて僕は恥ずかしくなってしまう。
もう少しオブラートに包んでほしいのだ。もしくは完全にはっきりとしてしまうか。
充実感も変に僕を意識しているところがあって、僕に似て恥ずかしがり屋だ。
体はとまっている。動いている状態こそ不自然なのだ。
上半身を母のベッドに移動したということは、夢の終わりや、動くことや、絶望感で満たされた僕の人生を肯定したことになる。
犬を水に落としたら仕方なく泳ぐように、僕もそろそろ起き上がらなくてはいけない。
たとえこの人生を否定できたとしても僕は水中で手足をばたつかせずにいられるだろうか。
僕は全肯定でもなく全否定でもない気持ちで生きている。これが一番たちが悪いかもしれない。これでは生きることも死ぬこともできない。
犬は自殺ができない。僕だって同じようなものだ。自殺は選ばれた者しかできない。
自殺をするには、相当の能力と、恵まれた環境と、運が必要だと認めている。
持って生まれた優れたセンスと同じように自殺ができるかどうかは遺伝子によってあらかじめ決められているのかもしれない。
それに僕は、自殺をしても終わりではないという最悪の理屈をどちらかというと信じている。
永遠の生命というやつだ。永遠の生命は、自殺ができない一個の生命に似ている。
起きるしかないのだ。今日、僕がバイトに行くことは限りなく運命に近い。
ベッドを這い、なんとか母のベッドの端に座った。その状態で数分とまった。
「ギ……ギシュッ」
僕はそう呟いて、わりと普通に立ち上がろうとしたが、思っていた以上に疲労していたためゾンビのように立ち上がった。
呟いている途中で、こんなことを呟いている場合ではないほど疲労していることを思い出し、呟く声は元気をなくしていき、
立ち上がった頃には射精後のような疲労が襲っていた。体から出なくてはいけない効果音を代理で呟いたのだ。
その効果音は操られた者が出す音だ。
操られているという前提があれば、肯定的な気持ちで体を動かせる。
つまり自分が動かしているのではないという責任転換によって生じるごくわずかな快感を動力にするのだ。
テーブルに置かれたテレビのリモコンを持ちもせず、まったく覇気のない指でボタンを押した。癒してくれる番組はないだろうか。
誰でもいい。テレビに映る誰かでもいい。
格言的な何かを望んでいる。諭してほしい。溺れている僕に浮き輪を投げてほしい。
ボタンの中心を押せてない指を、半開きの口をして眺めた。指は焦っていた。怒っていた。
9のボタンを押すと、砂嵐が画面に現れ、とろけかけた脳みそに嫌な一撃を食らわせた。脳みそでできた大地に針の夕立が降ったみたいだった。
仕度が済んだ。ドアを抜け、外廊下を通る。
上半身を母のベッドに移動したということは、夢の終わりや、動くことや、絶望感で満たされた僕の人生を肯定したことになる。
犬を水に落としたら仕方なく泳ぐように、僕もそろそろ起き上がらなくてはいけない。
たとえこの人生を否定できたとしても僕は水中で手足をばたつかせずにいられるだろうか。
僕は全肯定でもなく全否定でもない気持ちで生きている。これが一番たちが悪いかもしれない。これでは生きることも死ぬこともできない。
犬は自殺ができない。僕だって同じようなものだ。自殺は選ばれた者しかできない。
自殺をするには、相当の能力と、恵まれた環境と、運が必要だと認めている。
持って生まれた優れたセンスと同じように自殺ができるかどうかは遺伝子によってあらかじめ決められているのかもしれない。
それに僕は、自殺をしても終わりではないという最悪の理屈をどちらかというと信じている。
永遠の生命というやつだ。永遠の生命は、自殺ができない一個の生命に似ている。
起きるしかないのだ。今日、僕がバイトに行くことは限りなく運命に近い。
ベッドを這い、なんとか母のベッドの端に座った。その状態で数分とまった。
「ギ……ギシュッ」
僕はそう呟いて、わりと普通に立ち上がろうとしたが、思っていた以上に疲労していたためゾンビのように立ち上がった。
呟いている途中で、こんなことを呟いている場合ではないほど疲労していることを思い出し、呟く声は元気をなくしていき、
立ち上がった頃には射精後のような疲労が襲っていた。体から出なくてはいけない効果音を代理で呟いたのだ。
その効果音は操られた者が出す音だ。
操られているという前提があれば、肯定的な気持ちで体を動かせる。
つまり自分が動かしているのではないという責任転換によって生じるごくわずかな快感を動力にするのだ。
テーブルに置かれたテレビのリモコンを持ちもせず、まったく覇気のない指でボタンを押した。癒してくれる番組はないだろうか。
誰でもいい。テレビに映る誰かでもいい。
格言的な何かを望んでいる。諭してほしい。溺れている僕に浮き輪を投げてほしい。
ボタンの中心を押せてない指を、半開きの口をして眺めた。指は焦っていた。怒っていた。
9のボタンを押すと、砂嵐が画面に現れ、とろけかけた脳みそに嫌な一撃を食らわせた。脳みそでできた大地に針の夕立が降ったみたいだった。
仕度が済んだ。ドアを抜け、外廊下を通る。
家を出た瞬間、顔には仮面が張り付き、体にはギプスが装着された。
自転車を出す動作がぎこちない。へその辺りにある、ベルトの金具部分を掴んだ。
ベルトの位置を修正するふりをしているつもりだ。
こっそり中指をズボンのチャックに伸ばしてチャックが閉じているのを確認し、自転車に乗った。裏道を通る。
イヤホンから音が出てないことに気づき、MDの電源を入れた。いつもの曲が流れる。
辺りから浮いた僕。そんないつもの僕がいつもの道を通っている。どぶ川、専門学校、線路、マンション……、辺りが僕を圧迫する。
駐輪禁止区域に自転車を置いて駅ビルに向かった。ベルトを触りながら中指をズボンのチャックに伸ばした。チャックは開いてなかった。
駅ビルに入った。ズボンのチャックを確かめようか迷った。少し前に確かめた気がする。
それほど意識してやっているわけではないので記憶が曖昧だ。
毎日が似通っているから、確かめただろうという推測は、先日の今頃確かめたことから発生しているかもしれない。
確かめた後、「確かめたから、もう確かめなくていいよ」という具合に印象づけなくてはいけないのだ。おそらく家を出てすぐに確かめた。
その記憶は、少し前に確かめたという記憶よりは信頼できそうだ。
確か家を出て……、と回想を始めた。……ええと……確か家の前を歩いて………。
突然その回想作業をばかばかしく思い、同時に、チャックが大きく口を開けてブリーフが見えてしまっているイメージが僕を襲ったので、
大胆に人差し指をチャックに向かわせた。指は悲憤に満ちていた。チャックの質感がむなしく伝わる。
自転車を出す動作がぎこちない。へその辺りにある、ベルトの金具部分を掴んだ。
ベルトの位置を修正するふりをしているつもりだ。
こっそり中指をズボンのチャックに伸ばしてチャックが閉じているのを確認し、自転車に乗った。裏道を通る。
イヤホンから音が出てないことに気づき、MDの電源を入れた。いつもの曲が流れる。
辺りから浮いた僕。そんないつもの僕がいつもの道を通っている。どぶ川、専門学校、線路、マンション……、辺りが僕を圧迫する。
駐輪禁止区域に自転車を置いて駅ビルに向かった。ベルトを触りながら中指をズボンのチャックに伸ばした。チャックは開いてなかった。
駅ビルに入った。ズボンのチャックを確かめようか迷った。少し前に確かめた気がする。
それほど意識してやっているわけではないので記憶が曖昧だ。
毎日が似通っているから、確かめただろうという推測は、先日の今頃確かめたことから発生しているかもしれない。
確かめた後、「確かめたから、もう確かめなくていいよ」という具合に印象づけなくてはいけないのだ。おそらく家を出てすぐに確かめた。
その記憶は、少し前に確かめたという記憶よりは信頼できそうだ。
確か家を出て……、と回想を始めた。……ええと……確か家の前を歩いて………。
突然その回想作業をばかばかしく思い、同時に、チャックが大きく口を開けてブリーフが見えてしまっているイメージが僕を襲ったので、
大胆に人差し指をチャックに向かわせた。指は悲憤に満ちていた。チャックの質感がむなしく伝わる。
エスカレーターに乗った。この頃エスカレーターが難しい乗り物に感じる。汚い物でもつまむかのように手すりに手を添えた。
人差し指と中指は軽く宙に浮かせた。手すりに触れている三本の指は他人への思いやりのつもりだ。
以前は指をすべてあげてしまうこともあったが、それではしっかりと握っている人たちに失礼だし、
「なんだあいつは」という視線で攻撃されてしまうかもしれない。考えすぎだとわかっているがそんな思考をとめられない。
尻ポケットに入っている財布に手を伸ばした。財布はうまく取れた。たまにポケットに引っかかってなかなか取れないことがあるのだ。
しかし財布を出すタイミングを間違えたみたいだ。早すぎる。財布がうまく取れた嬉しさのあまり何となくジェントルマンぶっていた僕は
崖から落とされた。これから財布に入っている切符を取り出し、早く取りすぎた切符を持って改札口に行かなくてはいけない。
切符は、絶妙なタイミング、つまり自然なタイミングで取り出さなくてはいけないのだ。僕は早く取りすぎた切符を意識するだろう。
切符を意識した僕は、腕を曲げて切符を運ぶだろう。僕は「切符を運ぶ人」になってしまう。人の自然な歩行は手を振る。
いやそれも固定観念のような気もするが、それを自然な歩行とすると、僕は一瞬自然でなくなってしまう。
自然でないと周りの人から変な目で見られてしまう。
人差し指と中指は軽く宙に浮かせた。手すりに触れている三本の指は他人への思いやりのつもりだ。
以前は指をすべてあげてしまうこともあったが、それではしっかりと握っている人たちに失礼だし、
「なんだあいつは」という視線で攻撃されてしまうかもしれない。考えすぎだとわかっているがそんな思考をとめられない。
尻ポケットに入っている財布に手を伸ばした。財布はうまく取れた。たまにポケットに引っかかってなかなか取れないことがあるのだ。
しかし財布を出すタイミングを間違えたみたいだ。早すぎる。財布がうまく取れた嬉しさのあまり何となくジェントルマンぶっていた僕は
崖から落とされた。これから財布に入っている切符を取り出し、早く取りすぎた切符を持って改札口に行かなくてはいけない。
切符は、絶妙なタイミング、つまり自然なタイミングで取り出さなくてはいけないのだ。僕は早く取りすぎた切符を意識するだろう。
切符を意識した僕は、腕を曲げて切符を運ぶだろう。僕は「切符を運ぶ人」になってしまう。人の自然な歩行は手を振る。
いやそれも固定観念のような気もするが、それを自然な歩行とすると、僕は一瞬自然でなくなってしまう。
自然でないと周りの人から変な目で見られてしまう。
自然な人なら切符を早く出してしまっても意識せずに手を振って歩くだろう。でも改札口から遠くも近くもない位置で切符を出したとしたら、
手を下げた歩行をしてしまうと、改札口に切符を入れるためにすぐに手をあげなくてはいけない。
手を下げるか下げないかの線はどこに引いたらいいのだろう。とても判断に迷うような位置で切符を出してしまったらみんなはどうするのだろう。
みんなは、脳が無意識的にどちらかに決めてくれるのだ。僕の脳はそういうことをほとんど決めてくれなくなった。
面倒だから勝手にやれ、という具合だ。終いには呼吸する方法も考えなくてはいけなくなるのではないだろうか。
財布の、カードを入れる部分にさしてある切符に手を近づけた。回数券だ。財布に目をやりながら歩行者をよけるのはかなり難しい。
二枚以上の切符を取り出さないようにするため、カード入れの中で、一枚の切符を二度も強く擦る。
二枚取り出してしまった僕のイメージが僕を襲う。
一枚を財布に戻し、もう一枚は手に持っておく、そんな簡単な作業がやけに複雑そうに感じる。慎重に一枚取り出した。
親指の第一間接が逆方向に少し曲がるほど強く切符をつまんでいた。そんな親指を一瞬、鑑賞した。
腕や肩まで緊張していて脇を開きすぎていることに気づいた。
一枚の切符を運びながら改札口に向かう。ふたつの不自然が重なりとろけ合って出たまろやかなにおいのようなものが僕の肩を叩いたから、
不自然がたくさん重なったなら、もっと甘く、もっと殺伐と僕の輪郭をずらすだろうと思った。そう僕は、歩いているとき、
エスカレーターに乗っているとき、自転車に乗っているとき、すべてで不自然を感じていた。家にいるときですら怪しい。
つまり特に意識してなかっただけで、歩く不自然は数秒前からあったのだ。歩く不自然が切符を運ぶ不自然に負け、塗り固められたのだ。
改札口に切符を入れた後も、切符を運ぶ不自然の余韻は残った。切符を運ぶ不自然の発生した原因や存在理由について思考した。
手を下げた歩行をしてしまうと、改札口に切符を入れるためにすぐに手をあげなくてはいけない。
手を下げるか下げないかの線はどこに引いたらいいのだろう。とても判断に迷うような位置で切符を出してしまったらみんなはどうするのだろう。
みんなは、脳が無意識的にどちらかに決めてくれるのだ。僕の脳はそういうことをほとんど決めてくれなくなった。
面倒だから勝手にやれ、という具合だ。終いには呼吸する方法も考えなくてはいけなくなるのではないだろうか。
財布の、カードを入れる部分にさしてある切符に手を近づけた。回数券だ。財布に目をやりながら歩行者をよけるのはかなり難しい。
二枚以上の切符を取り出さないようにするため、カード入れの中で、一枚の切符を二度も強く擦る。
二枚取り出してしまった僕のイメージが僕を襲う。
一枚を財布に戻し、もう一枚は手に持っておく、そんな簡単な作業がやけに複雑そうに感じる。慎重に一枚取り出した。
親指の第一間接が逆方向に少し曲がるほど強く切符をつまんでいた。そんな親指を一瞬、鑑賞した。
腕や肩まで緊張していて脇を開きすぎていることに気づいた。
一枚の切符を運びながら改札口に向かう。ふたつの不自然が重なりとろけ合って出たまろやかなにおいのようなものが僕の肩を叩いたから、
不自然がたくさん重なったなら、もっと甘く、もっと殺伐と僕の輪郭をずらすだろうと思った。そう僕は、歩いているとき、
エスカレーターに乗っているとき、自転車に乗っているとき、すべてで不自然を感じていた。家にいるときですら怪しい。
つまり特に意識してなかっただけで、歩く不自然は数秒前からあったのだ。歩く不自然が切符を運ぶ不自然に負け、塗り固められたのだ。
改札口に切符を入れた後も、切符を運ぶ不自然の余韻は残った。切符を運ぶ不自然の発生した原因や存在理由について思考した。
当然その思考の回答がすぐに出るわけもなく、「改札口を通ること自体もなかなか不自然だな」と新たな思考を始めた。
僕はときに不自然の発掘をおこなうのだ。発掘作業に取りかかったので回答を出そうとする思考は中断した。
中断といっても再開することは少ない。発掘作業が進むにつれ、再開しようという気持ちは薄れていったが、
発掘作業をやめようとはしなかった。
再開しようという気持ちが消えかけたので、半無意識的にいたわった。前を通る性的な女性に思考は掻き乱され、
発掘欲求たちは消された。いたわりは消されたことにより思い出となり、存在していたときよりも存在感を増し、意識にわりとはっきり上った。
発掘欲求は思い出にならなかった。なぜなら発掘欲求は儚くなく、復活させるのが容易で、そもそも完全には消えてないからだ。
僕はときに不自然の発掘をおこなうのだ。発掘作業に取りかかったので回答を出そうとする思考は中断した。
中断といっても再開することは少ない。発掘作業が進むにつれ、再開しようという気持ちは薄れていったが、
発掘作業をやめようとはしなかった。
再開しようという気持ちが消えかけたので、半無意識的にいたわった。前を通る性的な女性に思考は掻き乱され、
発掘欲求たちは消された。いたわりは消されたことにより思い出となり、存在していたときよりも存在感を増し、意識にわりとはっきり上った。
発掘欲求は思い出にならなかった。なぜなら発掘欲求は儚くなく、復活させるのが容易で、そもそも完全には消えてないからだ。
思い出になって初めて、存在していたことに気づいたのは無意識的美的感情だ。いたわりの気持ちはごく小さく、
僕はその儚さに無意識的に美しさを感じていたのだ。小さないたわりと、
それよりもさらに小さな無意識的美的感情が性的感情に踏み潰されて消え失せたことと、
彼らが死という最上のアクセサリーを獲得したのに意識にわずかに上っただけだったという儚さをはっきり認識したときアートを感じた。
その大きな美的感情は、意識に上ることもできなかった感情たちを察することにより深みを増した。しかし大きな美的感情すら、
性的感情に寿命を縮められて、あっという間に死んでしまった。それほどの大きさなら、寿命を延ばし、
性的感情から守ってやることもできただろうが、僕は性的感情の味方をしてしまったのだ。
ぴっちりとしたスカートがその下のパンティーを浮き立たせている。女性を近くから見ようと足を速めた。かなり女性に近づいた。
階段をおりきってしまったので、いつもの乗車ポイントに行かなくてはいけない。これがまた不自然なおこないだ。近づきたいのに遠ざかる。
いまや不自然は僕の大部分を支配している。母のベッドに上半身を移動したのが不自然の始まりだ。いや、眠りから覚めたのが始まりだ。
いや、そんな線引きはどうでもいい。この分類する癖はどうにかならないだろうか。分類なんて幼稚な遊びだ。
「分類とは何ですか?」
男の面接官が僕に聞いた。
空想の中の僕は履歴書の趣味の欄に「分類」と入れたのだ。
「……わからないんですか? ばかですね。そんなんじゃ面接官の資格ないじゃないですか。クビですよ、クビ。いや、リストラ。家族いるんでしょう? 今、職を失うとつらいからねぇ。ほら」
僕は相手の胸の下辺りを触った。
「や、やめてください」
立場が逆転し、僕は胸の大きな女の子を面接していた。
「いや、これも面接だからさ」
「あ、はい……あっ……で、でもっ……」
「大丈夫だから。君なら大丈夫だから。胸、大きいね」
「あっ」
「結構好きでしょ。こういうの」
「いえ、そんなことは……」
「大丈夫。君は凄くかわいいから」
彼女の頬にキスした。いい香りだ。脂ぎった気持ち悪い禿のおっさんになりきった。こっちが醜いほど興奮する。
五分ほど空想は続いた。勃起してしまい恥ずかしくなった。電車の窓から冷ややかな風景を眺めた。
イヤホンから同じ曲ばかり流れていることに気づき、リピートを解除した。
勤務地の駅に着いた。体を動かそうとすると、体が硬直していたため不自然に動き出した。動き出す動作は難しい。
人ごみが、数学の計算のように僕を追い詰める。とても計算が間に合わない。半ば投げやり状態で進む。
それに、天才であり特別であるはずの僕がとるべき完璧な歩き方を考えてしまう。女性には歩く姿だけで惚れられなくてはいけない。
そんな考えだと歩行はぎこちなく変なリズムになる。それを修正して、なんとかみんなと同じ歩き方にしつつ、
歩行者をよけないといけないのでへとへとになってしまう。助けて、と心の中で呟いた。顔面は無表情だけれど、
わずかに微笑んでいるような気がした。
歩道橋を歩く。手すりのない状態を想像した。不思議なものだ。
手すりには触らないのに手すりは絶対に必要なものなのだ……関係ないことを考えている。海で溺れているのに関係ないことを考えている。
僕はその儚さに無意識的に美しさを感じていたのだ。小さないたわりと、
それよりもさらに小さな無意識的美的感情が性的感情に踏み潰されて消え失せたことと、
彼らが死という最上のアクセサリーを獲得したのに意識にわずかに上っただけだったという儚さをはっきり認識したときアートを感じた。
その大きな美的感情は、意識に上ることもできなかった感情たちを察することにより深みを増した。しかし大きな美的感情すら、
性的感情に寿命を縮められて、あっという間に死んでしまった。それほどの大きさなら、寿命を延ばし、
性的感情から守ってやることもできただろうが、僕は性的感情の味方をしてしまったのだ。
ぴっちりとしたスカートがその下のパンティーを浮き立たせている。女性を近くから見ようと足を速めた。かなり女性に近づいた。
階段をおりきってしまったので、いつもの乗車ポイントに行かなくてはいけない。これがまた不自然なおこないだ。近づきたいのに遠ざかる。
いまや不自然は僕の大部分を支配している。母のベッドに上半身を移動したのが不自然の始まりだ。いや、眠りから覚めたのが始まりだ。
いや、そんな線引きはどうでもいい。この分類する癖はどうにかならないだろうか。分類なんて幼稚な遊びだ。
「分類とは何ですか?」
男の面接官が僕に聞いた。
空想の中の僕は履歴書の趣味の欄に「分類」と入れたのだ。
「……わからないんですか? ばかですね。そんなんじゃ面接官の資格ないじゃないですか。クビですよ、クビ。いや、リストラ。家族いるんでしょう? 今、職を失うとつらいからねぇ。ほら」
僕は相手の胸の下辺りを触った。
「や、やめてください」
立場が逆転し、僕は胸の大きな女の子を面接していた。
「いや、これも面接だからさ」
「あ、はい……あっ……で、でもっ……」
「大丈夫だから。君なら大丈夫だから。胸、大きいね」
「あっ」
「結構好きでしょ。こういうの」
「いえ、そんなことは……」
「大丈夫。君は凄くかわいいから」
彼女の頬にキスした。いい香りだ。脂ぎった気持ち悪い禿のおっさんになりきった。こっちが醜いほど興奮する。
五分ほど空想は続いた。勃起してしまい恥ずかしくなった。電車の窓から冷ややかな風景を眺めた。
イヤホンから同じ曲ばかり流れていることに気づき、リピートを解除した。
勤務地の駅に着いた。体を動かそうとすると、体が硬直していたため不自然に動き出した。動き出す動作は難しい。
人ごみが、数学の計算のように僕を追い詰める。とても計算が間に合わない。半ば投げやり状態で進む。
それに、天才であり特別であるはずの僕がとるべき完璧な歩き方を考えてしまう。女性には歩く姿だけで惚れられなくてはいけない。
そんな考えだと歩行はぎこちなく変なリズムになる。それを修正して、なんとかみんなと同じ歩き方にしつつ、
歩行者をよけないといけないのでへとへとになってしまう。助けて、と心の中で呟いた。顔面は無表情だけれど、
わずかに微笑んでいるような気がした。
歩道橋を歩く。手すりのない状態を想像した。不思議なものだ。
手すりには触らないのに手すりは絶対に必要なものなのだ……関係ないことを考えている。海で溺れているのに関係ないことを考えている。
僕たちはまずラジオ体操をする。
「今日も元気に配達体操をいたしましょう!」
このラジオ体操のカセットテープが欲しい。センスの悪さは度を越すと芸術になるのだ。
――以前見た研修のビデオもよかった。五人での機械のチェックの場面で、リーダーが「六番異常なし!」と叫ぶと、
みんなで円陣を組んで人差し指を頭上で合わせて同じように叫んでいた。彼らの指と指が触れていたら気違いの域だと思ったが触れてなかった。
心の中で笑い転げた。いや、正確には、笑い転げた自分を想像しただけ、に近い。どちらにしてもその笑いは悲しさを昂進させた。
……ラジオ体操をするとき、なぜかみんないつもと同じ位置でやる。声がイッてるおじさんは僕の三メートル左斜め前。
若いのに乞食みたいな人は三メートル左。僕は一番後ろの右端。
日勤のおばさんとコンビを組んで入力作業をした。荷物を乗せる板をおばさんと片付けに行ったときおばさんが話しかけてきた。
「泊りだよね?」
「あ、はい」
「こんなの一晩中やってたら頭おかしくなっちゃうね」
「ええ」
「今日も元気に配達体操をいたしましょう!」
このラジオ体操のカセットテープが欲しい。センスの悪さは度を越すと芸術になるのだ。
――以前見た研修のビデオもよかった。五人での機械のチェックの場面で、リーダーが「六番異常なし!」と叫ぶと、
みんなで円陣を組んで人差し指を頭上で合わせて同じように叫んでいた。彼らの指と指が触れていたら気違いの域だと思ったが触れてなかった。
心の中で笑い転げた。いや、正確には、笑い転げた自分を想像しただけ、に近い。どちらにしてもその笑いは悲しさを昂進させた。
……ラジオ体操をするとき、なぜかみんないつもと同じ位置でやる。声がイッてるおじさんは僕の三メートル左斜め前。
若いのに乞食みたいな人は三メートル左。僕は一番後ろの右端。
日勤のおばさんとコンビを組んで入力作業をした。荷物を乗せる板をおばさんと片付けに行ったときおばさんが話しかけてきた。
「泊りだよね?」
「あ、はい」
「こんなの一晩中やってたら頭おかしくなっちゃうね」
「ええ」
僕は苦笑いの顔を作り、心の中で「もう狂ってます」と言った。正確には、そんなことを考えたら面白いなと思った。
何もない僕に、「もう狂ってます」と書かれたふわふわの吹き出しを入れるのだ。僕はそうやって僕の物語を作る。
同時にどこかで物語が読まれる。
そんなわずかな会話を終えると、おばさんが気を使いだした。
「おばさんこの時間で終わりだから座って番号打ってなさい」
僕が椅子から立ち上がり、おばさんと場所を交代しようとするとおばさんはそう言った。
立って荷物をベルトコンベヤーに置いていく作業のほうが疲れるのだ。
「いいッスよ」と遠慮したが「いいから、いいから」と言うので甘えさせてもらった。板に高く積まれた重たい荷物を真剣におばさんは置いていく。
何の感情もない機械を羨ましく思った。
一回目の休憩時間が来た。それほどしたくはなかったが、トイレに行っておこうと思った。三つの便器の内、
右側に先客がいた。僕は嫌々、便器の前に立った。阿部さんが入ってくるのがわかった。阿部さんは雰囲気だけがかっこいい。
堂々としているので、とても苦手だ。劣等感を抱いてしまうのだ。この前、予期せぬ場所に阿部さんがいただけで泣きそうになってしまった。
阿部さんは真ん中の便器の前に立った。こんな場所でみんなが性器を出しているなんてありえないことだ。
横目を使えば相手の性器が見える距離だ。横目を使われているかもしれない。阿部ならありえる。阿部はすぐにシャーッと出し始めた。
僕は緊張して出なかった。僕は祈った。出てください。出ろ。出るがいいわ。いいえ、おしっこならいくらでも出すがいいわ……。
プライバシーを無視した男子トイレの作りをうらんだ。僕は自分の性器の先を見つめ、
自分にも聞き取れないくらいの声でブツブツと何かを呟いた。狂った僕を見てほしいからそんなことをしたのかもしれない。
狂っているなら出せないことが自然ともいえる。阿部さんが手を洗い、出ていくとようやく出せた。
〝出るがいいわ〟と頭の中で女性語になったのはふざけていたわけではない。
コンビニに食べ物を買いに行った帰り道で、道を歩いていることを思い出した。我に返るのとは少し違った。
何もない僕に、「もう狂ってます」と書かれたふわふわの吹き出しを入れるのだ。僕はそうやって僕の物語を作る。
同時にどこかで物語が読まれる。
そんなわずかな会話を終えると、おばさんが気を使いだした。
「おばさんこの時間で終わりだから座って番号打ってなさい」
僕が椅子から立ち上がり、おばさんと場所を交代しようとするとおばさんはそう言った。
立って荷物をベルトコンベヤーに置いていく作業のほうが疲れるのだ。
「いいッスよ」と遠慮したが「いいから、いいから」と言うので甘えさせてもらった。板に高く積まれた重たい荷物を真剣におばさんは置いていく。
何の感情もない機械を羨ましく思った。
一回目の休憩時間が来た。それほどしたくはなかったが、トイレに行っておこうと思った。三つの便器の内、
右側に先客がいた。僕は嫌々、便器の前に立った。阿部さんが入ってくるのがわかった。阿部さんは雰囲気だけがかっこいい。
堂々としているので、とても苦手だ。劣等感を抱いてしまうのだ。この前、予期せぬ場所に阿部さんがいただけで泣きそうになってしまった。
阿部さんは真ん中の便器の前に立った。こんな場所でみんなが性器を出しているなんてありえないことだ。
横目を使えば相手の性器が見える距離だ。横目を使われているかもしれない。阿部ならありえる。阿部はすぐにシャーッと出し始めた。
僕は緊張して出なかった。僕は祈った。出てください。出ろ。出るがいいわ。いいえ、おしっこならいくらでも出すがいいわ……。
プライバシーを無視した男子トイレの作りをうらんだ。僕は自分の性器の先を見つめ、
自分にも聞き取れないくらいの声でブツブツと何かを呟いた。狂った僕を見てほしいからそんなことをしたのかもしれない。
狂っているなら出せないことが自然ともいえる。阿部さんが手を洗い、出ていくとようやく出せた。
〝出るがいいわ〟と頭の中で女性語になったのはふざけていたわけではない。
コンビニに食べ物を買いに行った帰り道で、道を歩いていることを思い出した。我に返るのとは少し違った。
二回目の作業時間が始まって少し経ったところで西条さんがいないことに気づいた。
あれ? 西条さんがいない。西条さんがいたときの雰囲気と少し違う。
バイトが始まるとき、みんなで集まって社員の話を聞くのだが、そのときに辞めたはずの西条さんがいたはずなのだ。
「辞めたんじゃなかったんだ」と心の中で呟き、喜んだのだ。西条さんも人とあまり喋らないので、僕の存在を目立たなくしてくれる。
しかし西条さんを見たのは、バイトにくる前に見た夢の中でだと気づいた。夢と現実がくっついたみたいで少し気持ちよかった。
僕は笑みをこらえていた。何が嬉しいのか自分でもわからない。最近よくバイト中にこの笑みに襲われる。
愛想笑いが自動化したのかもしれないし、仕事を無意識で楽しんでいるのかもしれない。どちらも違うような気もする。
バイトに行きたくないという悩みが解消された嬉しさかもしれない。完全には解消されないのだろうが、
来てしまっているのだから、そういった悩みがあると矛盾してしまうので、必然的に消えるのだろう。
それか、それら三つの説はすべて正解で、ひとつひとつは笑みを作らせるほどの力を持ってないが、
三つ同時に存在することにより初めて笑みの原因となったのかもしれない。僕はこの笑みを呪っているから、
愛想笑いの自動化説を信じているのだろう。その説はほかのふたつが霞んでしまうほど嫌いだからだ。いや、違うな。
この変な安堵感と充実感はなんだろう。おおげさかもしれないが、すべてやりとげてしまったような気さえするのだ。
バイトという束縛に開放感を覚えてしまっているのだろうか。バイトをしているだけなのに、してやった感があり、
天下でも取ったつもりになっている。滑稽だ。
あれ? 西条さんがいない。西条さんがいたときの雰囲気と少し違う。
バイトが始まるとき、みんなで集まって社員の話を聞くのだが、そのときに辞めたはずの西条さんがいたはずなのだ。
「辞めたんじゃなかったんだ」と心の中で呟き、喜んだのだ。西条さんも人とあまり喋らないので、僕の存在を目立たなくしてくれる。
しかし西条さんを見たのは、バイトにくる前に見た夢の中でだと気づいた。夢と現実がくっついたみたいで少し気持ちよかった。
僕は笑みをこらえていた。何が嬉しいのか自分でもわからない。最近よくバイト中にこの笑みに襲われる。
愛想笑いが自動化したのかもしれないし、仕事を無意識で楽しんでいるのかもしれない。どちらも違うような気もする。
バイトに行きたくないという悩みが解消された嬉しさかもしれない。完全には解消されないのだろうが、
来てしまっているのだから、そういった悩みがあると矛盾してしまうので、必然的に消えるのだろう。
それか、それら三つの説はすべて正解で、ひとつひとつは笑みを作らせるほどの力を持ってないが、
三つ同時に存在することにより初めて笑みの原因となったのかもしれない。僕はこの笑みを呪っているから、
愛想笑いの自動化説を信じているのだろう。その説はほかのふたつが霞んでしまうほど嫌いだからだ。いや、違うな。
この変な安堵感と充実感はなんだろう。おおげさかもしれないが、すべてやりとげてしまったような気さえするのだ。
バイトという束縛に開放感を覚えてしまっているのだろうか。バイトをしているだけなのに、してやった感があり、
天下でも取ったつもりになっている。滑稽だ。
三回目の作業時間が始まった。
積み込み作業をした。流れてくる荷物をどんどん荷台に積んでいく。
家での時間は、もはやバイトの休憩時間であり、僕は常にバイトをやっているようなものだ。
何日も何日も荷物を運ぶ。僕と機械の差がなくなっていく。荷物が絶え間なく流れてくる。
荷物が何万、何億と同じ場所を通ることによって機械の塗料が削られ、下の鉄まで削られた。
何万、何億と荷物を運ぶことによって僕の何かが削られた。鉄の傷はみんなの思い出だ。
ペンギンが長い年月、海への決められたルートを通ることにより岩に爪跡を作るように。
何代ものペンギンが住むことによって岩の上にできたフンの地層。僕らの思い出はうんこの結晶だ。
ラジオ体操の音が聞こえてきた。遅番が来たのだ。
休憩室への決められた道を歩いていると、あるイメージが浮かんだ。土の上の魚だ。飛び跳ねないといけない、と思った。
積み込み作業をした。流れてくる荷物をどんどん荷台に積んでいく。
家での時間は、もはやバイトの休憩時間であり、僕は常にバイトをやっているようなものだ。
何日も何日も荷物を運ぶ。僕と機械の差がなくなっていく。荷物が絶え間なく流れてくる。
荷物が何万、何億と同じ場所を通ることによって機械の塗料が削られ、下の鉄まで削られた。
何万、何億と荷物を運ぶことによって僕の何かが削られた。鉄の傷はみんなの思い出だ。
ペンギンが長い年月、海への決められたルートを通ることにより岩に爪跡を作るように。
何代ものペンギンが住むことによって岩の上にできたフンの地層。僕らの思い出はうんこの結晶だ。
ラジオ体操の音が聞こえてきた。遅番が来たのだ。
休憩室への決められた道を歩いていると、あるイメージが浮かんだ。土の上の魚だ。飛び跳ねないといけない、と思った。
四回目の作業時間が始まった。
彼らの目が近くにあるとき、胸は締めつけられる。胸の奥からの具体的な痛みだ。
酸素が足りないのを感じ、大きく吸い込むと、胸の奥にある血の腫瘍が破裂しそうになるので途中で息を小さくする。
腫瘍が視線に反応して締めつけを発生させているのだろうか。締めつけが腫瘍を発生させたのだろうか。
腫瘍が実際にあるかわからないが、血液がたまり、その周りに薄い膜が張っていて、
深呼吸で膜が破れて中の血液が体内で飛び散るイメージが浮かぶ。腫瘍は心臓のようなもので、もしかしたら心臓かもしれない。
腫瘍は、作業中、特に疲れてきたときに刺すような強烈な痛みをくれることがある。痛みは数秒続くのでその間はジッとしている。
首の異常な凝りもあり、これらは警備員をやっていた頃からのものだ。
生まれつきの鼻詰まりに加え、腫瘍も呼吸を妨害するからたちが悪い。腫瘍は鼻詰まりの症状を浮き立たせ、呼吸のリズムを狂わす。
鼻詰まりが原因なのか、体全体にも詰まった感じがある。それに、なんだか体全体が凝っている。こんな状態で作業をしていると、
ここは地獄なのだなと納得してしまう。
体が汚い。塵や埃が体に張り付く。パンツの中が蒸れて性器が痒い。しかし性器を掻くどころか、位置すら変えられない。
みんなの目があるからだ。一体こんなこといつまで続くのだろう。小さい頃から偉人になるものだと思っていたので、
こんなちんけなバイトをやっているのが嘘みたいだ。
午前零時四十五分。ここから二時間の仮眠時間に入る。みんなはこの時間になると、まず夜食を食べる。
ゲップの人が小走りで休憩室に向かった。最初に電子レンジを使いたいからだ。
ゲップの人はゲップをたくさんしながら僕と同じ海苔弁を食べる。彼は小さな海苔弁を半分残す。
朝の最後の休憩時間に食べるのだ。半分残された海苔弁を何度か見たことがある。
白身魚のフライや、から揚げといったメインのおかずは一口も食べてなく、竹輪や、きんぴらごぼうや、
おかかで半分ごはんを減らしてあった。おいしいものは最後にとっておくタイプだ。気持ち悪い。半分の海苔弁を食べる楽しみが、
朝までゲップの人を働かす気力になっているかと思うと、他人事とはいえないただならぬ危機感を覚える。
彼らの目が近くにあるとき、胸は締めつけられる。胸の奥からの具体的な痛みだ。
酸素が足りないのを感じ、大きく吸い込むと、胸の奥にある血の腫瘍が破裂しそうになるので途中で息を小さくする。
腫瘍が視線に反応して締めつけを発生させているのだろうか。締めつけが腫瘍を発生させたのだろうか。
腫瘍が実際にあるかわからないが、血液がたまり、その周りに薄い膜が張っていて、
深呼吸で膜が破れて中の血液が体内で飛び散るイメージが浮かぶ。腫瘍は心臓のようなもので、もしかしたら心臓かもしれない。
腫瘍は、作業中、特に疲れてきたときに刺すような強烈な痛みをくれることがある。痛みは数秒続くのでその間はジッとしている。
首の異常な凝りもあり、これらは警備員をやっていた頃からのものだ。
生まれつきの鼻詰まりに加え、腫瘍も呼吸を妨害するからたちが悪い。腫瘍は鼻詰まりの症状を浮き立たせ、呼吸のリズムを狂わす。
鼻詰まりが原因なのか、体全体にも詰まった感じがある。それに、なんだか体全体が凝っている。こんな状態で作業をしていると、
ここは地獄なのだなと納得してしまう。
体が汚い。塵や埃が体に張り付く。パンツの中が蒸れて性器が痒い。しかし性器を掻くどころか、位置すら変えられない。
みんなの目があるからだ。一体こんなこといつまで続くのだろう。小さい頃から偉人になるものだと思っていたので、
こんなちんけなバイトをやっているのが嘘みたいだ。
午前零時四十五分。ここから二時間の仮眠時間に入る。みんなはこの時間になると、まず夜食を食べる。
ゲップの人が小走りで休憩室に向かった。最初に電子レンジを使いたいからだ。
ゲップの人はゲップをたくさんしながら僕と同じ海苔弁を食べる。彼は小さな海苔弁を半分残す。
朝の最後の休憩時間に食べるのだ。半分残された海苔弁を何度か見たことがある。
白身魚のフライや、から揚げといったメインのおかずは一口も食べてなく、竹輪や、きんぴらごぼうや、
おかかで半分ごはんを減らしてあった。おいしいものは最後にとっておくタイプだ。気持ち悪い。半分の海苔弁を食べる楽しみが、
朝までゲップの人を働かす気力になっているかと思うと、他人事とはいえないただならぬ危機感を覚える。
このwikiの更新情報RSS