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 スネ夫は目の前に置いた卵を凝視していた。
 卵は時折揺れては止まることを繰り返す。
 何度も期待を裏切られながら、スネ夫はまだ諦めなかった。
 
 ポケモンの卵――育成所にあったのだから、ポケモンの卵と見て間違いは無い。
 そう思い当たると、スネ夫は自然と好奇心が湧いた。
 ポケモンの生まれる瞬間に立ち会えるという興奮。
 ゲーム画面を介して見てきたことが、現実として起きる。
 一度でいいから見ておきたい。
 その想いに駆られてスネ夫はその瞬間を待つと決めたのだ。
 
 「……あっ!」
 思わず声を上げるスネ夫。
 卵が一際大きく揺れだしたのだ。
 スネ夫は手を伸ばして、卵を掴もうとする。
 あと少しで卵に触れる……ほんの数センチでスネ夫の手が卵に触れる。
 
 だが、突然卵の揺れは止まった。
 直後に大きな音が育成所内に響き渡る。
 爆発のような衝撃音、そして地響きを伴う振動。
 「な!? なんだこの揺れはー!」
 スネ夫は叫びながら咄嗟に、卵に抱きついた。
 
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 ジャイアンと静香は振動に気づいた。
 「お、おい何だこりゃぁ!?」
 狼狽するジャイアンの横で静香も当惑していた。
 「わからない。でも、きっと近くで大きな力があったのよ!」
 その時、育成所の扉が勢いよく開く。
 見ると石蕗会員の一人が立っていた。
 「おい、お前ら早く屋上へ来い!
  会長が客人に襲われたんだ。とっとと相手を殺りに行くぞ!」
 会員はそう叫ぶと駆け出していく。
 残されたジャイアンたちは暫く呆然としていた。
 
 まず動き出したのはジャイアン。
 「何かよくわかんねーが、会長って白髪の爺さんのことだよな?」
 問いかけられた静香はたじろき、そして頷いた。
 「あの爺さんは、絶対悪い人じゃない。俺はそう感じた。
  見ず知らずの俺たちをわざわざ運んできたんだ」
 「……牢屋だけどね」
 少し離れたところから声が聞こえたので見ると、スネ夫が卵を抱えて膝をついていた。
 「それに僕らは侵入者として捕まったんだ。
  あの様子じゃなかなか逃げられそうにないけど、この混乱に乗じればどうだい?
  今なら簡単に逃げられ」
 「ふざけんな、この野郎!」
 ジャイアンは足元の卵を掴んでスネ夫に投げつけた。
 かなりのスピードで飛んだ卵はスネ夫の顔面に激突する。
 
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 「ん、何すんだよジャイアン!!」
 卵を払いのけ、鼻を覆いながらスネ夫は怒鳴った。
 「逃げるなんてできるかよ! 俺たちは世話になってんだぞ」
 「ふん。だからそれは捕まっただけだって言ってんだろ!」
 スネ夫は先ほど投げつけられた卵をジャイアンに投げ返した。
 放物線を描いて、卵はジャイアンの手に収まる。
 「それでも、俺たちにタイムマシンの事故を教えてくれた。
  状況がわかってない俺たちにいろいろ説明してくれただろ!」
 再び、ジャイアンは卵を投げ返す。
 卵は真っ直ぐスネ夫に向かって飛んでいく。
 「くだらねぇ」
 スネ夫は飛んできた卵を叩き落とし、そのまま立ち上がる。
 「僕は逃げるよ。そんなことをするほど感謝した覚えは無い」
 そう告げると、スネ夫は歩いて扉へ向かう。
 「……待てよ。スネ夫」
 ジャイアンは口調を抑えて話し出す。
 「もし、あの爺さんが俺たちを連れてこなかったら、俺たちはどうなっていた?」
 その問いかけに、スネ夫の体が止まる。
 「わけわからねぇまま、野生のポケモンに襲われてとっくに死んでた。そうだろ?
  お前だってわかるよな。
  だいたい、何でこんなことで争ってんだよ」
 ジャイアンはスネ夫に近づく。スネ夫はゆっくりと振り返り、ジャイアンを見据えた。
 「こんな状況だ。俺たちは一緒に巻き込まれた仲間だろ。
  少なくとも、のび太を見つけるまでは絶対死ぬわけにはいかないよな」
 ジャイアンの言葉は、スネ夫の耳にしっかり届いた。
 スネ夫は短く溜め息をつく。
 「しょうがない……行こうか!」
 
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 「武さん、スネ夫さん!」
 静香が声を掛けて走ってきた。
 後ろに数体のポケモンを連れてきている。
 「客に来た人はポケモンを使って襲ったに違いないわ。
  でなきゃあんな振動が起こるはずないもの。
  さぁ、相手がポケモンを使っているんだから、こっちもポケモンで応戦よ!」
 そう意気込むと、静香は後ろに連れたポケモンを振り向く。
 その中からストライクを引っ張り出すとジャイアンに押し出した。
 「武さんにはこの子がぴったりだと思うわ」
 ジャイアンはそのストライクをしげしげと眺めた。
 「なぁ、しずちゃん。これってさっき俺をぶった斬ろうとした奴じゃ」
 「ええ、ちょっと血の気が多いの。
  でも大丈夫。バカみたいに速く走るしバカみたいに力が強いのよ、この子。
  ホント、バカが使っても攻撃してりゃ十分戦えるのよ! あなたにぴったりでしょ?」
 何か喚いているジャイアンを無視して、静香はスネ夫にもポケモンを押しやる。
 「ほら、スネ夫さんにぴったりなのはこの子よ」
 黒い羽で空中に浮かぶそのポケモンは、ズバットだった。
 「うわ……ズバットかぁ。懐かしいな。
  でもどうして僕にぴったりなの?」
 「ええ、この子は『さいみんじゅつ』を覚えてるし『どくどく』の技マシンも使ったの。
  『ちょうおんぱ』も使えたはずよ。混乱させ、眠らせ、毒浴びせるのがあなたの戦法だったじゃない!」
 スネ夫は遠い記憶を思い出した。
 攻撃しか出来ないのび太やジャイアンをノーダメージで潰す自分。
 手も足も出ない相手を嘲る自分の高らかな笑い声。
 「そうか。そういえばそうだった。
  ふふ、ありがとう。しずちゃん。僕らしさを思い出したよ」
 微笑みあう二人に対して、ジャイアンはさらに恐れを感じるのであった。
 
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 ジャイアン、スネ夫、静香はそれぞれのポケモンを従え、一際騒がしい部屋へ突入した。
 応接室――扉にはそう書かれていた。
 粉塵が巻き起こり、三人は足を止める。
 怒声や喚き、唸りが一度に鼓膜を貫く。
 「お、おい! あれは」
 スネ夫は上空を指す。
 どうやら破壊されたらしい天井から、鋼の羽と青年の姿が望めた。
 堂々とした顔立ちの青年が、青の髪を靡かせエアームドの上に佇む。
 その目からは明らかな侮蔑が感じられた。
 「バブルこうせん!」
 
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 室内にいた会員の一人が自分のポケモンに指示した。
 無数の泡が噴出されて鋼煌めくエアームドに接近する。
 だが、青年は動じなかった。
 泡はエアームドの装甲に突撃し、虚しく破裂を繰り返す。
 「き、効いてない!?」会員の絶望的な叫びが響く。
 「いや、攻撃は届いているよ。ちゃんと……でもね」
 青年は含み笑いで顔を歪める。本性が垣間見えた瞬間だった。
 「弱すぎるんだよ。全員。
 ……相変わらず温いな」
 青年が見下す先には、会長の白髪がある。
 
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 会長は床で横になっていた。
 相当負傷した様子で、青年を見上げるのも辛そうだった。
 もっとも、外面的な事情のみでは無いのかもしれない。
 
 「ストライク、あの鳥切り裂け!」
 ジャイアンは感情の赴くまま叫ぶ。
 目の前で倒れる恩人の姿が、ジャイアンの心の衝動となったのだ。
 微かな振動音、そして緑の疾駆が銀色めく怪鳥へ迫る。
 ジャイアンの目は、鎌がエアームドに届く瞬間を捕らえ――
 「ぇ……?」
 これもまた『瞬間』。
 
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 「ジャイアン!」「武さん!」
 二人の叫びが聞こえる。
 ジャイアンは恐る恐るめを開けた。
 鋼の刃が自分の喉元の寸前で静止している。
 まるで時間が止まったようで、僅かに塵が舞っているだけ。
 沈黙が痛い。
 「う、ぅわ!」
 ジャイアンは慌てて腰を抜かし、尻餅をつく。
 その時何かが右手に触れ、怯えからの瞬発力で振り向いた。
 「ス、ストライ……ク」
 さっきまでジャイアンの背後にいたそれは、四肢と羽を無造作に広げて倒れていた。
 
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 僅かに息をしているものの、動く気配はない。
 もはや虫の息なのだろう。
 「……ふん。ガキか」
 エアームドの上では青髪の青年がジャイアンを見据えていた。
 「おい、爺さん! ここはいつから育児所になったんだ?」
 青年の言葉が室内に響き渡る。
 会長は少し呻いただけだった。
 「会長!」
 なす術が無く右往左往していた会員達が、急いで会長に駆け寄る。
 それを見て、青年はなお嘲笑した。
 じゃあな、爺さん。もう用は無い」
 
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 エアームドは羽ばたき、青年を連れて浮上する。
 
 スネ夫は飛び立つ背中に向けてズバットを向かわせようとしたが、脇から手が出る。
 静香がスネ夫を制したのだ。
 「な、何だよ。しずちゃん!
 早く追わなきゃ」
 「ダメよ。何となくだけどわかるでしょ?」
 遠ざかる青年を静香は青い顔をして見つめた。
 「小賢しい手を使っても無駄よ。
 あの人にはとても……勝てないわ」
 スネ夫は反駁を加えようとしたが、言葉が無かった。
 静香の言葉が事実だからだ。
+
+----
+
+ジャイアンは飛び去っていくエアームドの姿をぼんやり見つめていた。
+足元のストライクはぴくりとも動かない。
+(死んだんだ……俺のせいで)
+ジャイアンは愕然とし、虚ろな目で亡骸を見下ろした。
+(俺がここへ来なければ……こいつは死ぬことはなかった)
+
+ジャイアンは戦うためにここへ来た。
+その心には好奇心――ポケモンを使役して戦うことができるという考えがあった。
+いろいろと言葉で飾ったが、本心はそれだけだ。
+恩返しとかそんなのよりもまずはただ楽しそうだから来たのだ。
+
+今、その代償をジャイアンは感じた。
+屈みこみ、震える手でストライクの体を包む。
+もう冷たくなっていた。
+「……ごめんよ。ストライク」
+ジャイアンの言葉もまた、震えていた。
+罪悪感がジャイアンの体に圧し掛かった。
+ストライクを包む腕が一層力を増す。
+(俺が、ここへ来なければ……こいつは死ななかった)
+
+ほどなくして、スネ夫と静香が寄ってきたが、状況は変わらなかった。
+会員たちが集まり、会長と倒れているポケモンたちを運んでいく。
+ジャイアンたちもその後を追った。
+
+----
+
+「すまないことをした……」
+会長が苦しそうな声を搾り出す。
+ここは医務室――部屋の中には三人の人間。
+ベッドで寝ている会長、その脇でスネ夫と静香が立っていた。
+医務室長は会長の命令で外にいる。
+「君たちを巻き込むつもりはなかったんだ。本当に」
+「謝る前に、教えてください」
+静香が切り込んだ。「いったいさっきの襲撃はなんだったのです?」
+「……話さなければなるまい。ところで、大柄な少年はどこへ?」
+こちらにはスネ夫が答えた。
+「どうも傷心らしくて……外に出ています」
+会長は一瞬不審そうな顔をしたが、すぐに思いつめた表情に戻る。
+「仕方あるまい。後で彼にも話しておいてくれ。
+ さっきの青年の名はダイゴ――私の息子だ」
+
+石蕗会には、ずっと対立していた組織があった。
+だが石蕗会現会長は相手にある話を持ちかけた――「和平を結ぼう」と。
+その証として会長は自分の息子を、相手のグループのボスに養子として出した。
+ボスは子供がいなかったため、この証を受け入れた。
+ところが、相手は会長が考えているよりずっと狡猾だった。
+「奴らはダイゴを完全にコントロールしてしまった。
+ 何故かはわからん。だが、あいつらの持つ何かがダイゴを変えてしまったのだ。
+ 敵組織の名は榊グループ――理由は他にもあるが、我々は奴らを壊滅させなければならない」
+
+既に何かを察したスネ夫と静香にとって、その組織名は聞き逃せるものではなかった。
+
+----
+
+「さ、サカキって……」
+スネ夫はうっかり口に出す。
+「そうだ。表で多くの子会社を所有している大グループだ」
+運良く、会長は意味をはきちがえてくれた。
+その隙にスネ夫は静香と目をあわす。
+静香も驚いた目でスネ夫に目線を向けていた。
+(そういえばここの名前も石蕗――ツワブキ。会長の息子はダイゴ)
+(ポケモンがいる世界だけど、どうしてそんなところまで……)
+二人の思考は一致した。
+
+ポケモンの世界の人間が現実世界に干渉している。
+これが何を示しているか、二人はまだわからなかった。
+
+「どうしたかね? 二人とも」
+会長が訝しげな目を向けてくる。
+「あ、あの僕ら」
+喋ろうとするスネ夫の前に、静香は手を出す。
+「ちょっと……武さんのことが気になっていただけです。
+ 話がよければ、もう行ってもいいでしょうか。武さんのところへ」
+会長はゆっくりと頷いた。
+「いいだろう。だが、一つだけ話を聞いてくれ」
+
+----
+
+この建物は岩場で囲まれている。
+その外側には森、なかなか入り込みづらい地形となっている。
+当然外へ出るのも難しいだろう。
+その岩場の真ん中で、ジャイアンは森を見据えていた。
+(……俺、どうしてここにいたんだろ)
+ジャイアンはぼんやり考えていた。
+(俺はここにいられないよな。
+ だって、俺部外者だし、ポケモン死なせちまった……)
+森からは野生のポケモンたちの存在を感じる。
+木々のゆれ、うなり声、その他にもいろいろな要素があった。
+ジャイアンは吸い込まれるように、森へ向かっていく。
+
+「駄目だよ。そっちいっちゃ」
+突然声を掛けられ、ジャイアンは振り向いた。
+年若な少年だ。背丈はジャイアンの顎ほどしかない。
+緑色の髪が木の葉のように靡いていた。
+「森にはいっちゃいけないって、いつも会長に怒られるんだ」
+少年はジャイアンに歩み寄ってきた。
+近くで見るといかに少年の顔が青白いかがわかる。
+「おい、お前なんだよ」
+ジャイアンは少年を睨みつけ、歯をむき出しにした。
+「俺の邪魔すんな! 俺は勝手にここから出て行くんだからな」
+「そうもいかないよ。僕はそういう人たちを止めるように言われているんだ。
+ 言い忘れてたね。僕の名前はミツルだよ」
+
+----
+
+「僕もね、昔ここから出ようとしたことがあるんだ。
+ そしたら会長に捕まって説得されて……それで森番になったんだ」
+少年は親しげに話しかけてきた。
+ジャイアンは眉を吊り上げ、背中を向ける。
+「森番だか何だかしらねえが、俺は勝手に出て行くぞ!」
+そういうとジャイアンは駆け出した。
+(あいつそんなに体力ある風じゃなかった。撒くのは簡単だろ)
+勝利に近いものを感じ、ジャイアンは笑い出す。
+「楽しそうだね」
+すぐ傍で声が聞こえ、ジャイアンはハッと振り向く。
+ミツルの顔が目に入った。
+「お、お前どうやって――!」
+ジャイアンはミツルが跨るものに気づいた。
+燃え盛る炎を纏い、ジャイアンを悠々と追い越していく。
+「よしよし、早いぞポニータ!」
+ミツルの褒め声でそのポケモンの正体がわかった。
+「き、きたねーぞ! ポケモン使いやがって」
+立ち止まってジャイアンが抗議する。
+「? そっちもポケモン使えばいいじゃん」
+ポニータが足を止め、ミツルがジャイアンに首を傾げた。
+「俺は持ってねえんだよ」
+ジャイアンは言葉を吐き捨てた。
+「えぇ~!? ポケモンも持たずに逃げようとしたの」
+予想以上にミツルが反応する。
+
+----
+
+「それはいくらなんでも無理だよ~!」
+ミツルが腹を抱えて笑い出す。
+「僕が逃げようとした時は3匹くらい連れて行ったんだけど、それでも捕まったんだよ?
+ それなのに1匹も持たないでなんて……くく」
+身を震わせるミツルだったが、不吉な音をきいてた。
+『ガシッ』と。
+ミツルは恐る恐る背後を見る。
+ジャイアンが炎の尻尾を掴んで立っていた。
+「よぉ~くも俺様を笑ったなぁああ!!」
+ジャイアンの唸りとともに、ポニータが引きずられていく。
+「な、おい何で!? ポニータの尻尾は持ち主以外には熱いのに」
+怖気づいた声を出すミツル。
+「へ、俺を誰だと思ってやがる。俺はジャイアン、ガキ大将だぜぇえ!」
+「ほのおのうず」
+ミツルの一言で、ポニータの尻尾の火が逆巻き、ジャイアンを包み込んだ。
+「ぐぅおわぁあああ!!」
+ジャイアンの絶叫が響き渡る。
+「あはは、安心しなよ! ポケモンの攻撃で死ぬことは」
+『ガシッ』――ミツルの顔が強張る。
+炎から突き出た腕が、ミツルの肩を鷲づかみにした。
+弾け飛んで消える炎の中から、ジャイアンが飛び出す。
+自由な方の腕に拳を作って。
+
+----
+
+「お~い、ジャイアン!」
+遠くから誰かが呼んでいる。
+ジャイアンは動きを止めた。
+拳がミツルの顔面の数ミリ前でピタッと停止する。
+「スネ夫か?」
+大きく手を振ってジャイアンは自分の位置を示した。
+その脇でミツルが膝をつき、崩れ落ちる。
+「ジャイアン、大切な話があるんだ」
+スネ夫は駆け寄ってきた。
+「結構大変なことになったよ。僕たちはここを去らなきゃならない」
+その言葉をきいて、ジャイアンがため息をつく。
+「おい、きけよ。ミツル! 俺は結局ここ出なきゃ――おい、しっかりしろよ」
+ジャイアンは地面で息を上がらせるミツルの頭を叩いた。
+「……まって、こいつがミツル?」
+スネ夫が言う。
+ジャイアンはきょとんとして、頷いた。
+「ああ。そういやお前らは知らないよな。俺も会ったばかりで」
+「そう。でもすぐ知り合いになれるよ。
+ 僕たち、ミツルと一緒に旅に出なきゃなんだ」
+ますます首を傾げるジャイアン。
+それはミツルも同じだった。
+「とりあえずこっち来てよ。しずちゃんが待ってるから」
+ミツルがポニータをボールにしまってから、スネ夫が二人を誘導していった。
 
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