御剣と冥にハアハアする@ Wiki 2009 > 10 > 22

ホテルの窓を見下ろすと、活気に溢れる街並みが見てとれる。
再統一されたばかりのコードピア公国で、御剣は気乗りしないパーティの支度を整えていた。
海外研修で各国を飛び回る中、社交も業務を円滑に進める為にも重要だ。これも仕事の内だとわかっていても、腹の探りあいや派閥争いは苦手だった。
だが、今日は心踊る事もある。久方ぶりに冥をエスコートしてのパーティだ。ご婦人方のアプローチを避けられるし、何より冥のドレス姿が楽しみだった。
着なれぬタキシードに付けたクラバットを整えていると…

「レイジ、お待たせ」
待ちわびた人の声がする。化粧室から現れた冥は──

「なぜその格好なのだ!?」
胸元のリボンにブローチ。パフスリーブのブラウス。黒のミニスカート。鞭こそないもののいつもの法廷と変わらぬ姿で立っていた。
「…仕方ないでしょう。ドレス持ってこなかったんだから」
視線をそらし反論する冥。指摘を予想していたのか、はたまた自分でもこの服装に不満なのか…居心地が悪い時に見せる袖を掴む癖を見せる。
御剣は思わず指をつきつけた。
「異議あり!このホテルのにも服屋はある。時間がないのだ、買いに行くぞ」
「ちょ、ちょっとレイジ!」
「異議は認めない」


何のかんのと異議を申し立てる冥を無視してショップに連れこみ店員に「この店で一番いいドレスを身立ててくれ」と引き渡す。店員に取り囲まれた冥は観念したように試着室へ消えていった。
いつもの服装だって充分に魅力的ではある。だが、年頃の娘らしくお洒落を楽しんでもよいではないか。
とりすました顔の淑女達が醜く他人をこきおろす事を普段なら何とも思わないが、もし冥がスーツ姿でいる事で何か言われでもしたら…私は少しばかり職権を乱用してしまうかもしれん。
それに冥に勝る美しさなどありはしない。ならばキチンと評価されて然るべきではないか───
試着を待つ間にそこまで思考を巡らせ、御剣は思わず苦笑してしまった。どうやら自分でも思っていた以上に冥のドレス姿を楽しみにしていたらしい。

そうこうしている内に試着室から女性店員の歓声が漏れてくる。曰く「よくお似合い」だの「お綺麗」だの…ありきたりのセールストークだが、お世辞ばかりではない筈だ。
店員に背中を押されて現れた冥は…予想以上だった。
シンプルなデザインと上質の素材が冥の品の良さを一層引き立てる。日本人離れした白い肌、普段はカッチリしたスーツに守られている背中も惜しげもなく露にし、腕や肩も……
いや、右肩だけは、冥が自身の手でしっかりと握って隠していた。店員は酷く辛そうな冥の表情に気付く事なくアクセサリーを探しに離れていく。
「冥……」
「……あの服で、いいでしょう?肩は、出したくないの…」

───銃創。ようやくそこに思い到る。自分の迂濶さが許しがたい。
「そんな顔しないで。これは私の検事としての言わば勲章よ。だからわざわざ残しているの」
「ならば…」
「でも、これを見る人はそうは思わない。バカみたいに見つめて、バカバカしく同じ事を尋ねてくるわ。傷跡を見て不快に思う人だっているでしょう……だから、せっかくだけどこの服は着れないわ」
ワンショルダーならまだ着れたんだけど、と悲しげに店内を見渡す冥。ホテルのショップにはそれ程の品ぞろえはなかった。その視線は、冥の本心を物語る。───本当は、綺麗なドレスが着たい、と。

「冥、それが気に入ったか?」
「…レイジ、だから私は…」
「右肩さえなんとかなれば、その姿でパーティに出席したいと思うか?」
「………そんなの、無理よ」
「無理ではない、発想さえ逆転すればよいのだ」

私の発言の意味が分からず不安そうな冥を小物類の売り場に誘う。薄手の細長いショールを取って、右肩に巻き付ける。リボン結びは少々不揃いになったがそこにコサージュも沿え、鏡の前に立たせた。
「どうだ?隠すのではなく、より美しく飾るのだ。悪くないアイデアだと思うが」
肩から流れるショールがゆらゆらと揺れ、シンプルなドレスにワンポイントの華を沿える。鏡の中の冥が、クスリと笑った。
「まさかレイジにコーディネイトの才能があるなんて、ね」
「お誉めに預かり光栄だが、どうする?このまま精算するにせよ着替えるにせよ、急がねば間に合わない」
見上げた時計の針は既にパーティの開始時間に迫っていた。
「ダメよ」
鏡を一度覗いてから、冥は自信タップリの笑顔を見せて宣言する。
「これじゃ、メイクを直さないと。それから…同じコサージュを髪につけたいわ」
いつの間にか脇に控えていた店員を呼び、私から離れていく冥を見守る。
仕方ない、女性の支度には手間取るものだ。それに、パーティなど取るに足らぬ。
冥の笑顔こそ、何よりも美しく魅力的で、何物にも変えがたい私の喜びなのだから。