けいおん!澪×律スレ @ ウィキ

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mioritsu

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投稿日:2009/12/26(土) 18:49:47

「うぅ、寒い……」

夜のうちに積もったのだろう、真っ白な雪に覆われた通学路。
まだ積もったばかりの粉雪を軽く巻き上げて吹きつける微風に乱された髪を手ぐしで整えながら、私は辺りを見回す。

朝の空に広がる澄んだ青と、その光を確実に反射してキラキラ瞬く地上の雪は確かに綺麗で、家から出てしばらくは見とれたりもしたのだけど、もう数分間ここで立ち尽くしている今の私には、その景色に感動するような気持ちより、寒さからくる苦痛の方が勝ってしまう。

私がこの寒い道端で、身体も動かせずに凍えている理由はただ一つ。
通学路の途中に“あいつ”が勝手に設けたいつもの待ち合わせポイントに、今日はまだ“あいつ”がその笑顔を見せに来ないからだ。
かといって置いていく理由も無ければ、“あいつ”がわざわざ学校を休む理由も無い。

大方寝坊でもしたんだろう、おはようの後にげんこつの一発でもくれてやろうかと軽い気持ちでその場に留まって早数分。
いい加減に遅刻も怖い時間になり、でも先に行くのもなんだか忍びない、後ろ髪を引かれる心情で歩き出そうとしたその刹那、

「澪っ、おはよ!」

狙ったようなタイミングで、“あいつ”こと律の声が通学路に響く。
冬の寒さなんて吹き飛ばしそうな、暖かい笑顔をたずさえて。

「おはよう、律。……遅いぞっ」
「悪い悪いっ」

ハネた後ろ髪を弄りながら自嘲する律に、私のげんこつは遂に持ち上がらなかった。なんだか負けた気分。



寒い寒いと愚痴をこぼしつつ学校へ向かう。
おろしたてのマフラーと、冬の空気の冷えた香りに今年の終わりを感じながら歩道の雪を踏みしめていると、すぐ隣を並んで歩く律がダッフルコートのポケットから取り出した小さなペットボトルが目にとまった。
開かれたキャップの色はオレンジ、ペットボトルを満たす緑茶が飲み口から湯気を上げる。

この寒さの中では相当に心強い味方だろうそれをゴクゴクと飲んでいた律は、羨ましそうな私の視線に気づいたのかペットボトルを差し出してくる。

「澪も飲む?温かいぞ~?」
「え、あ……」

その飲み口を見つめた私は、きっととてもわかりやすく動揺してしまっている。

友達との間接キス程度で恥ずかしがるなんて馬鹿らしいだろうか。それでも私はどうしようもなく意識してしまう。
私の飲みかけだって平気で口をつける律には、毎度いちいち顔を熱くさせられる。
同性の、それも幼なじみの律相手にこんな反応はひょっとしなくてもおかしいのかもしれないけど、自分はそういうお年頃なんだ、と納得しておきたい。
私のその小さな葛藤を知ってか知らずか、吐息のように小さく笑った律は、

「こんなこともあろうかと、ちゃあんと澪の分、買ってきてるんだよね私はっ。さあ、ありがたく受け取りたまえ」
「あ、ああ、うん。……ありがと」
「ふふっ」

いたずらに満足した子供のように無邪気に笑う律。ああさっきのアレ、絶対にわざとだろ。
恥ずかしさを押し流すように、受け取ったペットボトルの緑茶を一気にあおる。
今、私の頬が朱いとしたらそれはこの熱いお茶のせいですきっと。……なんだか負けた気分。



私がお茶で体を暖めている間に、律は再びコートのポケットをゴソゴソ。
次に取り出したのは、

「じゃじゃーん!ジャンボ肉まん!コンビニで今日からだったんだよね~」

白い包みに収まった、期間限定、毎年大人気のジャンボ肉まん。大きさは普通の倍以上はあるかもしれない。

「もしかして、今日遅かったのって……」
「ご名答っ、ラスト一個をなんとかゲットしてきたんだじっぇ痛っ~!?」

無言で放った私のげんこつを見事に頭で受け止め、お茶をこぼさず肉まんを落とさずに器用にリアクションをとる律。ペットボトルをポケットに戻し、空いた手で自分の頭をさすりながら抗議の眼差しを向けてきた。

「うう痛ぇ~~、ったく澪しゃんたら朝から快調ですこと」
「自業自得だ。せっかく待ってたのにっ……」
「あぁ、お、怒るなよ澪ぉ。ほら、澪にもあげるから、ね?」
「むっ……」

律は多少は申し訳なさそうに焦りながら肉まんを差し出してきた。勇ましく湧き上がる湯気の魅力に負けそうになりながらも、

「私は、いいよ。朝ご飯食べたし」

と断る。“お年頃”の私にジャンボ肉まんのカロリーは強敵すぎる。なにより、律のお楽しみを盗ってしまうのも気が引けた。



律は、本当に食べなくていいのか?と何度か私に確認をとってから、小さく肉まんの端から食べ始めた。
自分で断っておいてなんだが、負けっぱなしも癪なのでイヤミの一つも言っておこうか。

「朝からそんなの食べて、また太っちゃうぞ?」
「またって何だよまたって。でもそれはコワいな~、誰かが少し食べてくれれば太らずにすみそうなんだけどな」

ニヤニヤとこちらを見る律は、なんだか全部を見透かしているようにも思えて。本当、勝てそうにない。

「しょ、しょうがない、律がどうしてもって言うなら少しくらいは……」
「ほんと?へへっ、ありがと澪っ。それじゃ……、はい、半分こ」
「う、うん」

並んで歩きながら、温かい肉まんを二人で食べる。安物のコンビニ肉まんのハズなのに、今まで食べた中で一番をつけれるくらいに、

「美味しい……」
「だっろ~?冬はやっぱりこれだねえっ」



「でも良いのか?せっかくの肉まん、結局半分になっちゃったけど」

との私の言葉に律は得意気な顔で、わかってないね~澪ちゃんは、と言わんばかりに立てた人差し指をくるくる回す。

「肝心なのは量だけじゃないんだぞ~、どれぐらい美味しく食べたか、これが大事!」
「わかるようなわからないような」
「私は、澪と一緒に食べるのが一番美味しいと思った。で、結果は大正解でしたっ。澪は?」
「さ、さっき言ったろ。……美味しいって」
「じゃあ、二人とも大満足だな。さすがジャンボ肉まんっ」

既に自分の分を食べ終わった律は、まだ湯気を上げるだけ形が残る私の肉まんを見つめると、

「澪殿、隙ありっ」
「わっ、律!意地汚いぞっ」
「へへぇっ、美味し~」
「も、もうっ」

私は、かなり小さくなってしまった私達の肉まんを見つめてから、冷めないうちに一気に口に放り込む。
うん、美味しい。でもなんだか最後まで負けっぱなしな気分。

不思議と悔しくは無いけれど。



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