けいおん!澪×律スレ @ ウィキ

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mioritsu

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だれでも歓迎! 編集

今日は律が私の家に泊まりに来る日だ。
金曜日。土日は学校休みだし、「しゅくだい多いし、澪しゃまに手伝ってほしいなー、なんて…」とか言われたら
「はいはい。ちゃんとノートと教科書ぐらいは持って来いよ」と言わざるを得ないだろ………どうせ夜遅くまで居座って「もうこんな時間だしぃ~」とか言って泊まってくんだし。
律は私の承諾を得るや否や、いつもの待ち合わせ場所で「ちょっと待ってて!!」と言い残すと大急ぎで帰宅しバッグをパンパンに膨らまして制服のまんまやってきた。
肩で息をしながら「ごめんごめ~ん」って言いながら駆けてくる律、可愛い。でも「まったく…先、行くぞ」とか、ちゃんと待ってた癖にツンツンする自分がもどかしい。
「待ってよみお~」なんて言いながら私のブレザーの裾を掴む律を、私は我が家へ誘った。
「おっじゃまっしまーす!!」
私より先に玄関に飛び込んだ律の声が私の家に響く。
「あら、りっちゃ~ん。いらっしゃい」
ママがさも当たり前の様に律を出迎える。
「ただいま。先に宿題済ますから…ジュースとかは部屋の前に置いといてくれればいいから」
「はいはい」
「あと、今日さ。律泊まってってもいいかな?律の方はOKもらってきてるんだけど…」
「あら、そうなの?」
「御迷惑はお掛け致しませんっ!」
「当たり前だろ…ママ、ダメかな?」
「ええ、大丈夫よ。先週は澪がりっちゃんの家にお世話になったし、ママからもりっちゃん家に連絡しておくわ」
「ホントに!?」
「お世話になりますっ!!」
律は一礼すると私の部屋に一目散に駆けて行った。
「人の家で走るなよ!」
私は律の後ろ姿に注意を喚起して
「ありがとう、ママ」
ママ……もとい。お母さんに一声掛けてから階段を上る律を追った。


「えーと、数学と科学とー」
律は部屋に入るなりバッグから教科書やらノートやらを手際良くテーブルに並べた。
乱雑に見えてもちゃんと私の分のスペースも空けてある。大雑把に見えても気配りは人一倍効くものだから敵わない。
だが、私は足りない宿題に気付く。
「お、よしよし…って、古文の宿題もあっただろ?」
私がテーブルに広がったり重なったりした教科書やらノートやらを見て突っ込むと
「ふっふっふー。古文の宿題は簡単だから授業中に済ませてあるんだゼっ!!」
俗に言う「やれば出来る子」な律はソレをちゃんと済ませていた。
私は半信半疑で見直してやったが、やっぱりちゃんと済ませていた。
「金曜日だしー、お泊まりだったらな~♪なんて考えてたらあっという間だったぜい!!」
まぁ嬉しい台詞と誇らしげに立てた親指。はいはい、とあしらいながらも笑みが溢れる。本当に可愛い幼馴染み……そして恋人、だ。
私達はブレザーを脱ぎハンガーに掛ける。いつかの休日に律とデートに出掛けた時に百円ショップで仕入れた青と黄色のハンガー。
ちょっとした回想が脳裏を過った。
「私は青使うから、澪は黄色使えよー」
「えー?私、青がいい」
「いいじゃんいいじゃん!お互いの好きな色使おうよっ!どうせ三本ずつあるし!」
「…それもそうだな」
そういう訳で三本セットのハンガーを都合2セット購入したのだった。
三本ずつという事で、一本だけ交換して、互いの部屋にある。


「じゃあ、数学から始めるぞー」
私が何か指摘する度に飽き始めてる表情だったり、むっつかしい表情をしたり
「解けた!!」とコドモみたいな可愛らしい表情をしたりしながら、律の宿題は進んだ。
「おーわった!!」
宿題を済ませると解放感に溢れた表情を、律は浮かべていた。
ソコで私はバッグの傍らに置いた携帯のランプの点滅に気付く。
宿題の邪魔になると思って着信音もバイブもオフにしといたんだった。
私の恋人もその点滅に気付いていた。
「ムギじゃないかー?」
恋人が指摘すると大当たり。
「超能力者か…」
小声で呟きメールの受信箱を確認すると
『歌詞、「失恋」とか、どう?』
こんな内容。


と、言うのも今日の部活動の終わり際。各々の楽器を片付けてる最中に
「あ、澪ちゃん。今、新曲何曲か書いてるんだけど…」
ムギが切り出した。「新曲!?」と部室がにわかに沸いた。
「しっとりとしたバラードとか、どうかしら?」
「おお!新しいね!チャレンジだね!!」
何気に眉毛を逆さのハの字にして迫り来るムギと釣られてテンションが上がる唯。
「確かにホッチキスみたいなスロー気味なのはありますけど、直球なバラードってありませんよね。いいんじゃないですか?」
梓が賛同すると律は
「しっと~りとしたバラードとか、叩けん!!」
腕組みしつつ、明らかに拒否していた。
「まあまあ…とりあえず、来週にはちゃんと出来上がると思うから。歌詞、お願い!!」
「チャレンジだよ!りっちゃん!!みおちゃん!!!」
律をなだめつつ、更に私に迫り来るムギ。と、唯。
「あぁ…分かったから、二人とも離れてくれ」
気圧されつつ私は承諾した。
「まぁ……まだ曲も聴いてないしな。よし、やってみるか!」
律もなんとかやる気にはなったようだ。
「唯ちゃんと梓ちゃんはリフだけでも考えておいてくれればいいかしらね。キーとイントロのコードは…」
「リフ……リフだね!!がんばるよ!!」
「今、リフって何の事か一瞬忘れてましたよね…」
「じゃあ、澪ちゃんもりっちゃんも。お願いね♪来週には譜面も持って来るから♪」


こんなやりとりがあって、ムギから歌詞のテーマについての提案がメールで届いた訳だ。
「失恋、か…」
「おお…」
私と律は携帯の画面を見て思わず声を上げた。そして律は
「バラードで、更に失恋……正に新境地!!」
立ち上がり拳を握り締めた。ざっぱーん、と波が打ち上がる東映のオープニングのような背景が良く似合う気合いの入った表情。
「でさ、律」
「ん?」
「実際バラードとか、どうなの?叩ける?」
「ん~。一応勉強しようとは思っててさ」
律はガサゴソとバッグからCDやらDVDやら、ドラムマガジンやらを取り出した。話の流れからバラードやスローテンポに関する音源や記事等のソレだろう。
「性に合わないな~とか思ってたけど、良い機会かなぁと」
それぞれの真新しさから、買い揃えてはあるけど未だに手は伸びていない。そんな様子が手に取れた。
「とりあえず、私は歌詞書いてみるね」
「よし!その間、バラードのドラムってヤツを研究してみるぜ!」
「頼むよ、律。バラードでドラム走るとか、致命的だと思うからさ…」
「は、はいっ…」
するとまた私の携帯のランプが点滅。
『晩御飯。部屋の前に置いといたよ』
ママから……いや、お母さんからのメールだった。何かと気を遣ってくれる。
そういえば晩御飯すら済ませてなかった事に気付いた。
『ありがとう、ママ』
私はメールの返信を早々に済ませ
「律、晩御飯だって」
「あ、忘れてた」
「部屋の前に置いといたみたいだから、取って来るね」
晩御飯を取りに行こうと立ち上がった。すると
「今私が食べたいのは…」
悪戯っぽい気配が背後に現れた。
「みおちゃんだぁ!!」
がばぁっ!!と背後から抱き着こうとする律を私は振り向き様に真正面からがばぁっ!!と受け止める。
ばふっ
「…ぁって、あれ?」
おそらく背後から抱き着こうとした律は面食らっただろう。
目の前には私のワイシャツ越しの胸。
「よしよし」
私は胸に埋まった明るい茶髪の律の頭を撫でる。
「ゴハン食べて、歌詞書いてから、な?」
「……はーい」
律は上目使いでちぇっ、お見通しかよ。と言った表情で返事をした。
残念がる律の顔があまりにも可愛いもんだから、デコにキスしてやった。
「ひゃっ!?」って驚いた顔に人差し指でちょんってやって「おあずけ」って言ってあげた。拗ねる律、可愛い。
私は拗ねる律を引き剥がしテーブルの傍に座らせ、晩御飯を取りにドアに向かった。
「あ、律。今日はチャーハンだ」
「チャーハンかぁ…」
「…くだらない駄洒落考えなくてもいいからな」
「うん…難しいからやめとく」
律の考えている事はお見通し、というか自然に分かってしまう。声とか、仕草とか、表情とかで。
お盆をテーブルに置いて、律と私。それぞれの前にチャーハンとスープを並べた。
「よし、いただきます!!」
手を合わせる律に合わせて私も手を合わせる。何度も繰り返している光景。
この私の部屋でも、食卓でも、律の部屋でも、律の食卓でも。
何度繰り返しても心中には「なんか…夫婦っぽいよな…」と照れている私が居た。
無論、口になど出せやしないが。


晩御飯を済ませるなり律は「デザートいただきまーす!」と私に抱き抱き着こうとして私にあしらわれ「はいはい」と拗ねて正座する。
私は空になった食器を台所へ運び、入れ替わりにオレンジジュースとアップルジュースを持って部屋に入る。
「ジュース持ってきたよ。オレンジとアップル。どっちがいい?」
「澪」
「じゃあ私、オレンジジュースにするね」
「…じゃあアップルのほう」
拗ねっぱなしの律。可愛い。


さて、「失恋」をテーマに歌詞を書いてみようという事で。私は机に向かっている。
律にはヘッドフォンを与え、バラードのドラミング研究に没頭してもらっている。
DVDを見ながら左右の手をパタパタさせつつ、胡座を掻いている左右の足をリズミカルに動かしているその表情は真剣そのもの。
私が惚れただけあり、良い顔をしている。どんなに見つめていても、飽きない。
時折見せる「あっ」と言う表情。何か間違えんだろう。
ソレを何回か繰り返して、没入して、身体全体でリズムを取りながらどんどん凛々しくなる表情。
つい見惚れてしまいそうになり「はっ」と気を取り直して私は机に向き直る。私は歌詞を書かなければいけないんだった。
歌詞を書くのも楽では無いが、これだけ明確なテーマがあれば書きやすい……かと言えばそうでもない。
何せテーマが「失恋」。
更に曲調はしっとりとしたバラード。「恋愛」でなら幾らでも書けるだろうが「失恋」ではまるで意味が違う。
私が書く歌詞や詩には大概、律が介在していた。
感情とか、風景とか、律が居ると何かと想像しやすい。
明らかに特別な感情(まあ……要は愛情…)を抱いているから「表現したい!」という欲求に直結しやすいのかなーなんて思ったり。
ソコで「失恋」である。
バラードで失恋ソング、なんて掃いて捨てる程ある訳で。
「書こうと思えば書ける!!」と部室では思ったが、思考に律がちょこちょこ出てくる。しかも御本人がすぐソコに居る。
なーんか頭をモヤモヤしながらペンを走らせたり、止めたり、走らせたり、止めたりを繰り返す。


思いが巡りに巡りながら「上手く行かないな…」と心の声で呟いた所で
「んん~っ」
律がヘッドフォンを外して伸びをした。目が合った。
「澪ー。調子はどーだ?」
「んー、ぼちぼち、かな」
私も椅子から立ち上がり、伸びをした。そしてさりげな~く律の後ろに回り込む。
「そっかぁ。まぁ失恋ソングとか初挑戦だしなー」
律はDVDデッキに手を伸ばそうとした。
ぎゅっ
「ぅわっ!?」
私はしゃがみ込み、律の背後から抱き付いた。
「な、なに!?」
完全に不意を突かれた律。驚いてちょっと高い声。
「……」
肩越しに腕を回して沈黙する私。
「…どうしたー?澪」
律は少し私にもたれて質問してきた。優しい声。
サラサラの髪が鼻の頭にちょっとこそばゆい。いい匂い。
「失恋って考えててさ…」
「うん…」
「色々思い出してたら、律とくっつきたくなった」
「うん」
優しい声。
「………」
「………」
続く沈黙。

「………色々、思い出した?」
優しい声が沈黙を落ち着かせた。私が回した腕を撫でる手が暖かい。
「うん…」
「聞かせてよ」
「……うん」
「…何?」
「…たくさん、失恋してきたなぁって思って」
「あぁ…」
やっぱり優しい声。
以前の律なら「え!?」とか言いそうだったけど。
「失恋した相手ってさ。全部律なんだ」
「うん」
「なんかさ。律が誰かと仲良くしてたりさ。バレンタインでチョコ貰って喜び勇んで部室に入って来たりさ。その度に焼きもち妬いて、勝手に色々思い込んで、勝手に落ち込んで…」
「うんうん」
「中学の時もさ。男子と仲良く話してたりCD借りたり、たまたま二人で居る所見掛けたり」
「うんうん」
「そのたんびに「あぁー律、私の事好きじゃないのかなぁ」って落ち込んで、一人でこの部屋で泣いて」
「うん」
「律に彼氏が出来たーとか噂流れた時もさ。何か必死になって。気が気じゃなくなって」
「うん…」
「…でも、その度に律ってちゃんとフォローしてくれたもんね」
「…そだね」
「律のイタズラで「演技でしたー」なんて言われた時は殴ってやろうかと思った時も、あったけどな」
「いつも殴ってますけど…」
「どっちにしろ、自業自得だろ?」
「はい…」
優しい声がちょっとしゅんとした。
ぎゅっ
「でもまあ」
「ん?」
「今こうやって一緒に居られるから幸せ、かな」
「んー」
抱き締めると律は身体を捩らせくすぐったそうにした。
「ねぇ、律」
「んー、何?」
「律は失恋した事、無いの?」
「んー…」
愚問と言えば愚問。これだけ長い間一緒に居れば私と同じような理由で、失恋した相手は私なんだって分かってる。
「聞きたいな、律の失恋話」
「ん~」
後ろから抱き締めていても律の難しそうな表情は分かる。
「私だって、こんなに話したんだよ?」
「むー…」
「律が話してくれたらぁ~良い歌詞書けそうなんだけどなぁ~」
私はわざとらしく抱き締めた律をユサユサと揺らした。
「しょうがないな…」
仕方無さそうに律は話し始めた。


律が話してくれた失恋話は予想通り……と言うか、私の失恋話そのまま。「私」を「律」に置き換えただけだった。
大きな違いはその悶々とした感情が表に出たり出なかったり、感情表現の仕方がちょっと違ったりした位。性格の違いと言うかなんというか。
律はたくさん、たくさん話してくれた。
大変だったんだぞー?なんて言われたり、ホントお互い様だよなぁって笑ったり。あの時は、ホンッットごめん!!ってあらためて勘違いを謝ったり。
たくさん話した。
つまるところ、私も律も「何で私はアイツの事こんなに思ってるのにアイツは気付かないんだー!!」ってモヤモヤしながらも気持を伝えられずに居たって所か。
実際は私と律が思い合ってたってだけ。
そんなモヤモヤを経て、互いに思いを伝えて今の恋人同士になったんだけど、ソレはソレとして。
「失恋っつーかさー」
ふぅ、と溜め息を付くように話す律。
「ん?」
「澪がどんどん離れてくんじゃないかー、なんて思った事もあったんだぜ?」
「へぇ」
「中学の時とかさ。特に」
「なんで?」
「澪に身長抜かれてさ。身体も女性って感じに成長してさ」
「あぁー…」
なんか、そんな事言われてもこそばゆいというかくすぐたいというか何と言うか。
「ふふっ…男子にも女子にも騒がれてさ。私とは変わらずに仲良くはしてたけど、やっぱり寂しくはなってたかなぁ…」
「そうなんだ…」
「…つーかさ。なんでそんなに身長伸びたんだよ?」
「わ、私に聞くなよ!」
「だって身長伸びたのは澪じゃん」
「聞かれても困るし」
「確かにその身長ならベースも映えるよなーとか思ってるけどさ」
「あ、あぁ、ありがとう」
「昔はそんなに身長差無かったのになぁ…」
律はちょっと拗ねた表情を浮かべてるな、と私は察知した。


「んー…、ソレはね」
私は一旦腕をほどいて律を回れ右させた。きょとん、と顔に書いてある。可愛い。
ぎゅっ
「律を、優しく包んであげなさいって。神様が私を大きくしたんじゃないかなー?」
私は腕を一杯に伸ばして律を包みこむようにして抱き込む。
「うわっ…」
律の驚きの声が私の胸の中に埋もれた。
すーはー、すーはー
私から見えるのは律の明るい茶髪と黄色いカチューシャ。
少し苦しいのか息遣いが聞こえる……と、間もなく律の顔がにょきっと現れた。
頭ごと抱えたせいかちょっと髪が乱れた。
「みお、いい匂い」
上目使いでからかってきた。
「…当たり前だろ?」
私は律の乱れた髪を右手で撫でつつカチューシャを外した。
「わっ、なにっ」
左手で律の頭ごと抱え込む。
慌てる律を見下ろしてから右手をテーブルに伸ばしてカチューシャを置く。
「律とくっついてたいんだから…律が嫌な匂いなんか、しないよ」
カチューシャを外された茶髪は少し素直になった。
サラサラの髪を右手でよしよし、とまた撫でてみる。
「…~っ」
私の胸の中で悔しがる律の顔が目に浮かぶ。
かばっ
私の右手を押し退けて前髪が下りた律が現れる。やっぱり可愛い。
でも表情はちょっと怒ってる。
ぎゅっ
逆に抱き付かれた。両腕を私の背中へ回してキツく、キツく抱き締めてきた。
私もおかえし、とばかりに抱き締めてみた。
「……澪が悪いんだからな」
律は耳元で呟くと左手をほどき、私の両膝の裏に回してきた。
「わぁっ!?」
そのまま立ち上がる律。私の身体が宙に浮いた。
「な、何するんだよ!?」
思わず律にしがみつく私を見つめながら、律は無造作な前髪も凛々しく、事も無げに言った。
「ん?お姫様だっこ」
「お姫様って…逆だろ!?」
2年の時の学園祭でのロミジュリの件もあり、思わず突っ込んだ。
「それに…私、重いし…」
私は、ダイエット中だった。部室でお茶しながら食べるお菓子やケーキが美味しくて美味しくて……って、そういう事じゃなくて。
律は軽々と私を持ち上げていた。そして
「澪が私を包んでくれるお姫様なら、私は澪を守ってあげる王子様、かな?」
王子様が悪戯っぽい笑顔で語り掛けて来た。
仕返しが成功して「してやったり」な笑顔。
「それに私、ドラマーだし。お姫様なんか軽い軽い!」
あぁ、そーいやそーか……でもそんな軽いとか言える体重じゃないし……とか考えてたら急に律、つまり王子様が愛しくなった。


ぎゅうっ
お姫様だっこのまま、王子様の首に回した腕で抱き締める。
ぎゅううっっ
「………お姫様っ、ソレはちょっと苦しいッ…」
「ご、ごめんっ!」
見事に首が極っていた。思わず腕を放す私。
ばっ
「あっ」
「あっ」
腕を放せば私の上半身が少し自由になる、すなわち少し宙に浮く、落ちそうになる。
がしっ
王子様が右腕で私の背中をキャッチした。
「あっぶね~…」
「…ごめんね」
ちゅっ
ホッとする王子様に軽く抱き付き、頬にキスをした。
「ありがとうの、キス」
「…っ!!」
見つめながら声を掛けるとみるみる間に王子様の顔が紅潮していく。
何か照れてるのか悔しそうなのか……色んな感情が混ざってる様子だけど、前髪と相まってなんだかんだでカッコ可愛い。すると
くるっ
どさっ
がっ
王子様はベッドに私を横たわらせ、私の両手を両手で塞いだ。
押し倒された、みたいな体勢。
垂れた王子様の前髪が私の顔に触れそうで、触れない。そんな体勢。

…そうだ。

「……」
「…何の真似?」
王子様のさっきのままの表情が瞼の向こう側に見える。
「…お姫様」
「…お姫様?」
「王子様のキスで目覚める、お姫様」
目を瞑ったままで何を喋ってるんだって自分でも思うけども。
王子様をからかうのは、面白い。


………………。
静寂の中、部屋にはDVDデッキが作動したままで微妙な機械音が響く。
私には王子様の心臓の音が聞こえた気がした。
そして瞼の向こうの王子様は意を決したような表情をした。

スッ

王子様の前髪が私の前髪と頬に下りて。
王子様の制服のリボンが私の制服のリボンに。
重なった瞬間。

ピタッ

私は隙を突いて左手をほどき、人差し指の腹を王子様の唇に当てた。
「…っ」
「……」
呆気に取られた王子様の表情が瞼の向こう側に見える。
目は閉じてるけど、私の左手の人差し指はドンピシャで私の唇と王子様の唇を遮ったらしい。
「……そういえば、まだ歌詞書いてないしなぁ…」
目を瞑ったまま左を向いておあずけ、と意思を示してみる。
「……目、閉じたままじゃ歌詞も書けないでしょ?」
王子様は空いた右手を私の顎に添えて、お嬢様の顔を正面に向けて

やさしくくちづけた。

無論、私に抵抗の余地は無い。
「……」
王子様の唇は、温かい。
そして、舌でぺろっとすると、甘い。
「……」
「……」
唇は離れたけど私は、目を開かない。
そのまま、王子様に話し掛ける。
「……ねぇ」
「なに?」
「王子様のキスって、白雪姫だよね」
「たしか……うん」
「私、白雪姫じゃないからなぁ」
「え?」
「別に一回のキスで目覚める訳じゃないしなぁ」
「…じゃあ……もっと、キスしてみよっかな…」
王子様はベッドに散らかった私の髪ごと私を抱き抱えると、また、くちづけてきた。
王子様ったら、大胆。

サラッ

また、王子様の前髪が頬に触れる。

つーか、こんな見え透いた駆け引きとか、くだらないよなぁ、とか思うけど。
王子様にくちづけられたらどうでも良くなった。
「ん…」


何回目のくちづけで瞑った目を開いたとか憶えてないし。
ずぅっとくっついてたからワイシャツ越しの体温だけはやたら憶えてて。
肝心の歌詞は…土日に仕上げようって考えてはいたけれど。
失恋ソングじゃなくなったら……ごめんな、ムギ。


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