受験を終えた三年生は、それぞれアンケートというものに答えるように言われている。
例えば、『志望校を決めたのはいつ頃でしたか?』『一日の勉強時間は?』
『受験に際して何か心掛けたことはありますか?』というような質問群だ。
三年生の回答は、来年の三年生――つまり今の二年生の進路指導に役立てられるとか。
私もその一つ上の先輩が答えたアンケート結果を読んだ覚えがある。
『受験に際して何か心掛けたことはありますか?』というような質問群だ。
三年生の回答は、来年の三年生――つまり今の二年生の進路指導に役立てられるとか。
私もその一つ上の先輩が答えたアンケート結果を読んだ覚えがある。
そんなわけで、今日の最後の授業は一時間使ってこのアンケートに答えるというものだった。
三年生は自由登校なのだけど、卒業式も近いので今日は全員登校している。
律は退屈そうに一番前の席に座っているし、唯もムギも皆揃っている。
質問自体は三十問ほどあって、なかなかに大変そうだと私は思った。
三年生は自由登校なのだけど、卒業式も近いので今日は全員登校している。
律は退屈そうに一番前の席に座っているし、唯もムギも皆揃っている。
質問自体は三十問ほどあって、なかなかに大変そうだと私は思った。
すでにN女子大に私を含む軽音部メンバーは合格している。
そんな受験の体験を、私はなんとか思いだしながら質問に答えていくことにした。
そんな受験の体験を、私はなんとか思いだしながら質問に答えていくことにした。
第一問。得意教科は何ですか。
第二問。苦手教科は何ですか。
第三問。部活は何をやっていましたか。
第四問。本格的に勉強を始めたのはいつ頃からですか。
第五問……――
第二問。苦手教科は何ですか。
第三問。部活は何をやっていましたか。
第四問。本格的に勉強を始めたのはいつ頃からですか。
第五問……――
何気ない質問ばかりだけど、私は結構真面目に答えていっていたので、時間を割いてしまった。
ふと時計を見ると、残り二分。やばい、放課後に提出しなきゃいけなくなる。
私はあと八問ほど残っていることを悟ると、急いで鉛筆を走らせた。
ふと時計を見ると、残り二分。やばい、放課後に提出しなきゃいけなくなる。
私はあと八問ほど残っていることを悟ると、急いで鉛筆を走らせた。
二十四問。面接の時……――あ、これは私には関係ない。
二十五問。赤本は何冊使いましたか。えっと、三冊だったかな。
テキパキと答える。よし、この調子だと全部答えることができそう。
二十五問。赤本は何冊使いましたか。えっと、三冊だったかな。
テキパキと答える。よし、この調子だと全部答えることができそう。
二十六問。
受験生活で、支えになった人はいますか。それは誰ですか。
手が止まった。
同時にチャイムが鳴った。
同時にチャイムが鳴った。
■
書き終わったら職員室に持ってきてねと先生に言われた。
放課後になったので、教室はがやがやと騒がしくなる。
放課後になったので、教室はがやがやと騒がしくなる。
「なんだ澪ー、終わらなかったのか?」
「け、結構真面目に書いてたからなっ」
「け、結構真面目に書いてたからなっ」
律が近寄ってきてからかうようにそう言った。
私は律の顔を見ると急にドキッとして、ちょっと言葉が安定しなかった。
いつも通りかもしれないけど、ちょっとぶっきらぼうに返事をしてしまう。
唯とムギも近くにやってきて、笑いかけてきた。
私は律の顔を見ると急にドキッとして、ちょっと言葉が安定しなかった。
いつも通りかもしれないけど、ちょっとぶっきらぼうに返事をしてしまう。
唯とムギも近くにやってきて、笑いかけてきた。
「結構難しいものね」とムギ。
「じゃあ部室には先に行ってるね」と唯が言った。
「じゃーな澪。早く来いよー」と最後に律が付け加える。
「じゃあ部室には先に行ってるね」と唯が言った。
「じゃーな澪。早く来いよー」と最後に律が付け加える。
私は三人の――律の後ろ姿が教室から出て行くのを、ちょっとモヤモヤしながら見ていた。
溜め息を吐いてアンケート用紙に目を落とす。
溜め息を吐いてアンケート用紙に目を落とす。
支えになった人。
受験生活で、支えになった人はいますか……。
支えに……。
受験生活で、支えになった人はいますか……。
支えに……。
考えれば考えるほど、律の顔が浮かんでくる。
教室は、帰ろうとする人や部室へ顔を出してみると言う人で溢れてる。
皆ほとんど受験が終わってるから、心持穏やかだった。
会話が弾んでるのもその証拠。
教室は、帰ろうとする人や部室へ顔を出してみると言う人で溢れてる。
皆ほとんど受験が終わってるから、心持穏やかだった。
会話が弾んでるのもその証拠。
でも私は一人だけ席について、頬杖を突いて唸っている。
この二十六問目だけが、悩ましかった。
この二十六問目だけが、悩ましかった。
受験生活で私を支えたのは、家族や友達……。
だったらそう書けばいい。きっとそういう答えを学校は望んでる。
だったらそう書けばいい。きっとそういう答えを学校は望んでる。
だけど、本当に私を支えたのは――律だったんだ。
律は私を頼ってばかりだったけど、でも私は楽しかった。
律が点数上がって喜ぶのを見ると嬉しかったし、何より律の笑顔は本当に可愛くて。
一緒に勉強したり、一緒に学校に行ったり、お泊まり会で二人だけで勉強したり。
別に受験生活じゃなくて、年がら年中そうだけど、でも。
本当に、律がいてくれてよかったって思うんだ。
律が点数上がって喜ぶのを見ると嬉しかったし、何より律の笑顔は本当に可愛くて。
一緒に勉強したり、一緒に学校に行ったり、お泊まり会で二人だけで勉強したり。
別に受験生活じゃなくて、年がら年中そうだけど、でも。
本当に、律がいてくれてよかったって思うんだ。
……でも、そう思うのは、私の心の中だけにしよう。
先生や学校のアンケートに、律の名前を書くの、ちょっと忍びないものな。
心の中で思っておけば、それで……。
先生や学校のアンケートに、律の名前を書くの、ちょっと忍びないものな。
心の中で思っておけば、それで……。
私は自分に言い聞かせるように笑い、二十六問目に『友人』と書いた。
■
質問に全部答え終わって、職員室へ赴いた。
ところがさわ子先生はいなかった。
まあ直接じゃなくても、先生の机の上に置いておけばわかるかな。
そう思って先生の机に行き、アンケートを机の上に置こうとした。
が。
ところがさわ子先生はいなかった。
まあ直接じゃなくても、先生の机の上に置いておけばわかるかな。
そう思って先生の机に行き、アンケートを机の上に置こうとした。
が。
「ん……?」
先生の机の上には、当たり前だけど、さっき回収した皆のアンケートがまとめて置いてあった。
――律は、最も支えてくれた人、誰って書いたんだろう。
そんな疑問が湧き上がった。
キョロキョロ辺りを見回す。先生はたくさんいるけど、誰も私を気にしていない……。
キョロキョロ辺りを見回す。先生はたくさんいるけど、誰も私を気にしていない……。
見ちゃ駄目だ。大切なアンケート……見るべきじゃない。先生がいないからって!
と心では思っているのに、私の指はゆっくりそのアンケートの束に伸びていた。
名前のところだけ見ながらペラペラとめくり、律の分を探す。
もう収まりがつかなかった。
と心では思っているのに、私の指はゆっくりそのアンケートの束に伸びていた。
名前のところだけ見ながらペラペラとめくり、律の分を探す。
もう収まりがつかなかった。
あった……。三年二組、田井中律。
――息を呑んで、ゆっくりと二十六問目に目を落とす。
『澪』
数秒。いや数十秒、息が止まった。
そして、自分でもわかるぐらい顔が熱くなってきたのがわかった。
そして、自分でもわかるぐらい顔が熱くなってきたのがわかった。
ば、ばばばばば、馬鹿馬鹿、もう恥ずかしい! 馬鹿律!
誰もいないのに私一人恥ずかしくなって、口をわなわなさせ始めてしまった。
なんで私の名前堂々と出せるんだよ……う、嬉しいけど……。
誰もいないのに私一人恥ずかしくなって、口をわなわなさせ始めてしまった。
なんで私の名前堂々と出せるんだよ……う、嬉しいけど……。
「秋山さん」
「えっ、あ、はい!」
「えっ、あ、はい!」
いきなり名前を呼ばれたので、驚いて条件反射にアンケートの束を机に戻す。
振り向くとさわ子先生が立っていた。
振り向くとさわ子先生が立っていた。
「何してるの?」
「あ、いえ。なんでも、ないです」
「あ、いえ。なんでも、ないです」
どうやらアンケートを盗み見ていたのはバレてないみたいだった。
しかし、律が私の名前を二十六問目に出してくれていたことへの嬉しさで、高揚している。
先生が「何をニヤついているの?」と聞いてきた。どうやら顔に出ていたらしい。
なんでもないですとまた言うと、先生は首を傾げた。続けて先生は言う。
先生が「何をニヤついているの?」と聞いてきた。どうやら顔に出ていたらしい。
なんでもないですとまた言うと、先生は首を傾げた。続けて先生は言う。
「アンケート出しに来たんでしょう?」
私はまだ自分の分のアンケートを手に持ったままだった。
はい、と先生が手の平を差し出してきた。渡せば私はもう用はない。
ただ、私はすぐに先生にそのアンケート用紙を渡すことができなかった。
はい、と先生が手の平を差し出してきた。渡せば私はもう用はない。
ただ、私はすぐに先生にそのアンケート用紙を渡すことができなかった。
高揚は冷めて、冷静すぎるくらいに自分の回答を見直す。
もう恥ずかしさもなくなっていた。
もう恥ずかしさもなくなっていた。
律は、私が支えになったと堂々と恥ずかしげもなく書いてくれたのに。
私は……私は、恥ずかしいからって友人って濁しちゃうの?
本当に律が支えになってここまでこれたのに、それも隠しちゃうのか私。
私は……私は、恥ずかしいからって友人って濁しちゃうの?
本当に律が支えになってここまでこれたのに、それも隠しちゃうのか私。
『澪』――。文字が頭に思い浮かぶ。
律は、あの質問に、間髪いれずに私の名前を書いてくれたんだろうか。
何の迷いもなく、私の名前を書いてくれたんだろうか。
律は、あの質問に、間髪いれずに私の名前を書いてくれたんだろうか。
何の迷いもなく、私の名前を書いてくれたんだろうか。
学校側は望んでないとか、心の中でとか言い訳してた私が恥ずかしい。
支えになった人はいますか。います。それは誰ですか。
支えになった人はいますか。います。それは誰ですか。
誰ですか――。
それは。
「先生、鉛筆貸してください」
「いいけど、何するの?」
「いいけど、何するの?」
「回答、一つだけ書き直します」
■
アンケートをまとめなきゃいけない。
澪ちゃんが一番最後だったから、これで全員ね。
私は一人一人のアンケートを整理し始めた。
澪ちゃんが一番最後だったから、これで全員ね。
私は一人一人のアンケートを整理し始めた。
……――
【第二十六問】
受験生活で、支えになった人はいますか。それは誰ですか。
受験生活で、支えになった人はいますか。それは誰ですか。
A、澪
「りっちゃんったら、ここでも澪ちゃんの名前を……まあ当たり前か」
【第二十六問】
受験生活で、支えになった人はいますか。それは誰ですか。
受験生活で、支えになった人はいますか。それは誰ですか。
A、律
「さっき書き直したのこれね。もう、ラブラブじゃないの」
おわる。
- 二人の絆が伝わる -- アクティブ (2012-02-10 17:32:20)