けいおん!澪×律スレ @ ウィキ

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mioritsu

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「ポケットビタミンで~す。」
「こんにちは~。」
「どうぞお試しくださ~い。」
道の脇で試供品と笑顔を配っているバイトの女性たち。
それに見向きもせずに、何かにおびえるように歩いている女子高生がいた。
(またあの時間がやってくる…。)
カチッカチッカチッ
(…あの時間が…。)
カチッ…

―クラクションの音が聞こえる。
律は道路の真ん中に立っていた。
向こうから一台のトラックがクラクションを鳴らしながら目の前で止まった。
「どこ見て歩いてるんだよ!!」
「…えっ…?」
「何やってんだ、さっさとどけ!!」
「あっ…すいません。」
運転手に怒鳴られた律は急いで歩道に戻った。
遠くでは試供品を配っている人たちが見えた。
時計の針は3時8分を指していた。



「記憶がなくなる?」
「はい…。」
「詳しく話してください。」
医者は神妙な面持ちで律の話を聞き始めた。
律は診察室で医者に謎の症状を相談していた。
「毎日午後3時になると、ひどい頭痛がして意識がなくなるんです。
 学校にいても、外へ出ていても、どこで何をしていても必ず…。
 それが決まって8分間で…。」
「8分間?…ですか…。」
「気がつくと、8分前とは違う場所にいて、無意識のうちに体が動いているみたいなんです。」
「しかし、記憶がない。」
「…はい。」
「その症状はいつごろから?」
「…2週間くらい前からです。」
「田井中さん…最近あなたの身に何か起こりませんでしたか?」
「…実は、3ヶ月前…。」
律は医者にその出来事を話し始めだした。

~律と澪はいつものように下校をしていた。
「あっ澪。あれ作ってよ。この間のクリームシチュー。」
「えーなんで。」
「今日家に誰もいないんだよ~!作ってよ~!」
「自分で料理できるだろ。それにおととい食べたばっかじゃん。」
「おいしかったんだよ~!また食べたいな~!ね、澪お願い!!」
「う~ん…分かったよ。」
「やったーーー!!!」
「おおげさだなぁ。」
そこに背後から近づいてくる人がいた。
「きゃあ!!!」
ひったくりだった。
澪のベースを取ろうとした。
律はひったくりをとめようとしたが、大の大人に適うはずがなく、なぎ倒されてしまった。
「やめて!!」
澪の悲痛の叫びが聞こえた。
澪はひったくりにハンマーで殴られた。
すぐに救急車を呼んだが…澪は助からなかった。



「…そうですか。…そのようなことが…。」
「はい。」
「そのことが原因とみていいでしょうね。強いショックを受けた時に
 人間は様々な症状を引き起こします。
 田井中さんの記憶障害もその一つだと思います。
 焦らずゆっくり治していきましょう。大丈夫。きっとよくなりますよ。」
医者はやさしく微笑んだ。
「先生…前にどこかでお会いしませんでしたか?」
「あなたに…?いえ…。」
不思議な顔をしながらも医者は答えた。
「そうですか。」
「初対面ですよ…。」
そして安心させるように笑みを浮かべた。
診察代を払った律は川岸を歩いていた。
カチッカチッカチッ…
カチッ…
「…!…ぁ…うっ…。」

―あたりを見渡す律。
そこは先程までいた場所とあまり変わっていないようだった。
しかし、足元を見るとひざ下まで川に浸かっていた。
「え…?うわぁ…!」
慌てて両手を川についた。
腕時計は3時8分を指していた。

「おはようりっちゃん!」
「りっちゃんおはよう。」
(何で川なんかに…何のために…。)
「りっちゃん…?」
「…えっ?…あ、おはよう。」
唯と紬の明るいあいさつに、律はいつものように元気にふるまった。
律は休み時間になり教室からでた。
カチッカチッカチッ…
カチッ…
頭を抱え込むほどの頭痛が走った。

―洋式トイレの上に立っていた。
手には制服のリボンを二つ片結びにしたものがある。
鏡の前にいきリボンをつけなおす。
「何してんだ…?つーか!結び目きつすぎて解けねぇ!」



「唯ちゃーん!!こっちこっち!!」
「うおぅ!!りっちゃんが待ち合わせ時間に間に合ってる!!」
「おい!!失礼だぞ!!」
「確かに珍しいですよね。」
「なんだと~ぅ。」
今日は軽音部の4人で出かけていた。
律は久しぶりに遊びにでかけた。
「でも、よかったわ。」
「何が…?」
「元気になってくれてだよ。」
「…な、何言ってんだよ。元気印のりっちゃんだぞ!!」
「そうですね。元気だけが取り柄ですしね。」
「中野~!!」
「「「「あはは」」」」
笑いながら話していると、またあの時間が迫ってきた。
カチッカチッカチッ…
「とりあえずファミレス行こうよ。」
カチッ…
「どうしたんですか?律先輩?」
「りっちゃん?」
心配する3人。

―梓の声が聞こえる。
「やめてください!!」
唯と紬の声も…。
「りっちゃん!!危ないよ!!」
「りっちゃん!!ダメ!!」
気がつくと3人が律を必死に抑えていた。
律は電車の踏み切りの手前に突っ立ていた。
「ひ…ひぃ!!」
あわてて尻餅をついた。



「どうしたのりっちゃん…この頃少し変だよ…。」
「へ?」
あの後、4人でファミレスで食事をしていた。
3人とも心配そうに律を見つめていた。
「おかしなこと考えないで下さいね。」
「おかしなこと?」
「…だって、さっきのアレどう見たって自殺じゃない…。」
「…はは…おいおい…どうして私が…。」
今まで起こったことを思い返す。
(道路のど真ん中に立って引かれようとしてた?)
(川の深いところまで行くつもりだった?)
(首をつるためにリボンをきつく結んで長くした?)
(踏み切りで…。)
(自殺…!?)
「そんなつもりじゃないならいいんだけど。」
「ただ…その…つい澪ちゃんのあとを追って…なんて考えちゃって。」
律の手は震えていた。

その後は家に帰り律は自分の部屋に入った。
澪と一緒に写っている写真が入れられた写真立を見ながらつぶやいた。
「私、おまえの所にいこうとしてんのかなぁ…。」
「…澪。…おまえはどうして欲しい?」
「私はさあ…死にたくない…生きていたい…。」
「ごめん。」
律の表情は今までにないように真剣で、なにか固い決心をした表情だった。



次の日から律はありったけの努力をし始めた。
自分を殺さないように…。

2時59分
一番好きなロック音楽を大音量でかけた。
ベッドの上で3時を待つ。
カチッカチッカチッ…
カチッ…
部屋の時計が3時を指すと同時にひどい頭痛が走った。
気絶しないように自分の頬を必死に叩く。

―水が勢いよく流れる音がする。
洗面台の前で首に包丁を当てていた。
あわてて包丁を手放す。
首には少し血が流れていた。


次の日
家中の包丁やハサミなどを全て集め、鍵つきの引き出しにしまった。
鍵を閉めた後、その鍵をトイレに流すなど徹底した。
カチッカチッカチッ…
カチッ…
家中の時計が3時を指す。
また頭痛が走る。

―気がつくと天井が見えた。
リビングの床に大の字で寝ていた。
(今度は何もなかったか…。)
「ゲホッゲホッゲホッ!?」
突然むせたように咳き込み始めた。
「ゲホッゲホッ(何の臭いだ?!)」
(…!…ガス!?)
キッチンに急いでガスを止め、窓をあけた。
(なんだよ…どうすればいいんだよ…。)



昨日は家族にこっ酷く叱られた。
引き出しにしまって鍵を開けられなくなってしまったのだから無理もない。
律は憂鬱な気持ちで学校にいった。
怒られたからだとかそんな理由ではない。
今日も午後3時はやってくる。
3時になる前、音楽室にやって来た。
自分とイスを倉庫にあったロープで結びつけた。
カチッカチッカチッ…
(さあ来い!ここまでしてるんだ!絶対に死ぬもんか!!)
カチッ…

―風が頬をなぜる。
生徒の明るい声がこだましている。
声は下の方から聞こえていた。
おそるおそる足元を見た。
律は屋上から落ちる寸前だった。
後ろに崩れるように手をついた…。


「このままじゃ本当に自殺してしまいます!
 どうすればいいんですか?!
 どうやったら治るんですか?!」
「どうか落ち着いてください。この前もお話したように
 あせらずゆっくり…」
「何とかしてくださいよぅ!!先生は医者でしょ?」
あせる律をなんとかなだめようとする医者。
「田井中さん。」
「やだ…死にたくない!…助けてください!
 自分で自分が怖いんです!こわぃ…。」
今まで取り乱し、泣き叫んでいたのが嘘のように静かになる律。
すると何も言わずに立ち上がって診察室から出ていってしまった。
「田井中さん…?…!」
医者は不思議に思っていたが、はっとして壁にかかってある時計を見た。
時計は3時を指していた。
急いで律を追う医者。
「田井中さん!!田井中さん!!」
何度呼んでも律は見向きもせずエレベータに乗り、上へと上がっていった。
階段を息切れしながらも必死に昇る医者。
やっとのことで屋上に着くと、律は屋上の端に立っていた。
「田井中さん!!」
医者は急いで駆け寄った。
ドサッ…
重く、乾いた音が響いた。
唖然として下を覗き込む。
澪の写真が遅れて地面へたどり着いた。



―白い天井が見える。
点滴に、波をうっている心電図。
(…病院…?)
辺りを見渡す。
「りっちゃん…?」
「律先輩?!」
「りっちゃん気がついたのね!!」
「みんな…。」
(死のうとして助かったのか…?)
「りつ…。」
「…え?」
「りつ!律!!りつぅ!!!」
「澪…?澪なんで?」
「うっ…ふぇ…よかった…よかった…!」
「何が起こってるんだ…?」
「あっ!ナースコールしなきゃ!」
「ナァースゥ!!!」
「違いますよ。ボタンを押すんですよ。ボタン。」
バタバタとして医者が入ってきた。
(これはどういうことなんだ…。)
今目の前には澪がいて手を握っている。
時計は3時8分を指していた。

『あっ澪。あれ作ってよ。この間のクリームシチュー。』
『えーなんで。』
『今日家に誰もいないんだよ~!作ってよ~!』
『自分で料理できるだろ。それにおととい食べたばっかじゃん。』
『おいしかったんだよ~!また食べたいな~!ね、澪お願い!!』
『う~ん…分かったよ。』
『やったーーー!!!』
『おおげさだなぁ。』

そうだ、あの時殴られたのは澪じゃなくて私だった。
なぎ倒されてしまったあと、ひったくりは私の方に向かって。
「やめて!!」
澪の悲痛の叫びが聞こえて。
私はひったくりにハンマーで殴られたんだ。



「ここに運ばれて来たとき、あなたは脳に大きなダメージを負っていました。
 我々は手を尽くしましたが、この3ヶ月間昏睡状態が続いていたんです。
 そこで、ある薬が投与されました。」
「薬?」
「脳を刺激し意識を回復させる薬です。といってもまだ開発段階で、
 効き目はわずか8分間なんですが…。」
「8分間…!?」
「えぇ。たとえ8分間でもあなたの意識がもどるならばと、
 みなさんはその薬を使い続けることを望まれたんです。」
「ムギちゃんのお家とお医者さんが頑張って薬を作れてたんだよ。」
「そうだったのか…先生ありがとうございます。…ムギもありがとう。」
「これ以上の回復は望めないと正直我々は諦めかけていたのですが、
 奇跡としかいいようがありません。」
「その奇跡は澪ちゃんのお陰よ。」
「澪の…?」
「そうだね。りっちゃんが寝ている間ほとんどずっとそばにいたんだよ。」
「学校からここまで来るときの速さは尋常じゃなかったですしね。」
「ふっ二人とも…何言ってるんだ!!」
「愛を感じたわ~。」
「ムギまで!!」
「彼女の想いが通じたんですね。」
「…うぅ///」
「澪ちゃん照れてるー。」
「照れてない///」
「澪…ありがと…」
「…ぅ///…うん…。」
微笑みながら律が言うと、澪も照れながらも微笑み返事をした。
それを眺めながらうなづいている医者は、あの時診察を受けていた医者にそっくりであった。



「やっと分かったよ。」
「え?」
律と澪は二人で病院の屋上に来ていた。
「死にたがってたんじゃない。私はずっと生きたいと思ってたんだ。」
「どういうこと?」
「こっちの世界に戻ってくるために、あっちの世界の私を殺そうとしてたんだなぁ。」

「風が出てきたみたい。そろそろ戻らないか?」
そう言って律の肩に手をかけた。
「いや…もう少しこうしていたい。」
律はその手に自分の手を重ねて微笑んだ。
向こうの世界から戻るきっかけをくれた屋上。
まるで感謝しているかのように、二人はそこからの景色を眺め続けた。
整頓して干してある白いシーツが祝福するかのように風になびいた。

―END―


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