けいおん!澪×律スレ @ ウィキ

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mioritsu

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「あれ、今日澪ちゃんは?」


教室に一人で入ってきた私に、唯がそう尋ねてきた。
私はさっきから自分でもそれが気になってばかりいるので、その質問は正直堪える。
なるべく平静を装って、何の気なしに私は返事をした。


「ああ、今日は休み。なんか熱っぽいんだとかで、今病院に行ってるよ」


私は唯を通り抜けて自分の席に向かった。
乗り気になれず力も入らない体のまま席に着き、机に突っ伏す。
目を腕に押し当てているので視界は真っ暗になった。
少しして、頭上から唯の声が降ってくる。


「りっちゃん眠いの?」
「いや、私はただ気分が乗らないだけー」
「ふうん……やっぱり澪ちゃんがいないからかあ」


ギク。
私は顔を起こして、ニヤニヤしている唯に否定の言葉を返した。


「ち、ちげーよ。えーと、昨日寝てなくてさ」

「つまり、昨日の夜澪ちゃんが体調が悪いことをりっちゃんに知らせていて。
 だから心配であんまり寝れなかったわけね」


横からムギが入ってきた。うふふ、という不敵な笑みも含んでいる。
またさっきみたく強く否定しようと思ったけど、言葉に詰まってしまった。
あれやこれや迷っているうちに、唯が人差し指を立ててにんまりした。


「まありっちゃんなら仕方ない。今日はそっとしとくねー」
「今日は部活なしにしましょう?
 りっちゃんだって、すぐに澪ちゃんのところへ行きたいわよね」


二人は目を合わせてそう言った。
ありがたいと言えばありがたかった。

実は先ほどまで、澪の家にいてちょっとだけ話をしてきたところだった。
熱でぐったりしていた澪は、申し訳ないけど可愛いかった。
しかしそれを差し引いても、澪が体調を崩しているというのは私にとっちゃ一大事。
そんな澪を置いて学校に来てしまったのだから、そりゃ澪が気になって仕方ない。
誰かと話してたって、多分すぐに澪のことに気が向いちゃうんだろうな。
だから唯の言うように、今日は私をそっとしておいてくれるのが一番だった。

それに、部活だってやりたい気分でもない。
一人欠けてるだけでなんかなあ……ってなるのに、澪ならなおさらだ。
放課後は授業が終わったらさっさと抜けて澪の家に行く気でいるし。
ムギの提案は、もしなければ私から提案するところだった。


「じゃあ、今日の部活は無しってことで……悪いな、なんか」
「いいよー。じゃああずにゃんには私が伝えとくね」


梓には唯が伝えるようだった。
なんか申し訳ないけど、でもやっぱり澪が心配だからそうしたかった。
放課後はダッシュだな。澪の熱が落ち着いてるといいけど……。






私はベッドの上で、布団に肩までスッポリ入ったまま、時計を見つめた。



……学校は今、昼休憩か。

昼休憩だから、メールを送っても大丈夫かな。
私は携帯電話を手にとって、さっき行った病院の検査の結果やらを打ち込んで律に送る。
送信しました、という画面が出ると同時に、私は溜め息を吐いて枕に顔を埋めた。

私は火照ったように熱い頬と、ぼんやりする頭のまま考える。
今頃皆は――……律は、私の事なんか忘れて楽しく皆とお弁当なんだろうなあ。


わかってるのに、ズキズキし始めた。
体は確かに熱くて、風邪や熱の特徴的な底気味の悪い感覚が湧いて出てくる。
だけどそれ以上に、私の頭の浮かぶ映像だけが体中を締め付けていたのだ。



(……律)


私がいなくても、律は皆といつものようにお弁当を囲む。
私がいなくても、律は皆といつものように授業を受けて。
授業の合間の休み時間には、皆と楽しくお喋りするんだ……。

私は自分の額に手を当てた。
熱さまシートは貼られてるのに、無性に指先に熱を感じる。
力の入らない体に悔しさや情けなさまで痛感した。
天井を見つめながら、溜め息を吐くだけの時間が過ぎる。



「……律」



もう、律の名前を呼ぶだけしかできなかった。

私が昨日の夜中、律に熱があるとメールしたら、律は今日の朝すぐに来てくれた。
大丈夫かって優しく話しかけてくれたり、ご飯も食べさせてくれた。
だけどやっぱり律は学校があるので、そのあと惜しみながらも律は行ってしまった。
本当はずっと傍にいてほしかったけど、私はそれも言えなくて。
強がって『学校行けよ』なんて言いながら、笑って律を送り出したのだった。

本当は、行って欲しくなんかなかったのにな。
だけど、一緒にいてと言ったとして、それは律にも迷惑だったに違いない。
これでよかったんだよ。私は休んで、律は学校に行く。それが普通だろ……。


と、思い込めば思い込むほど、胸は痛いのだった。


頭に、律が私を差し置いて皆と一緒に学校で楽しく過ごしてる姿がチラつくんだ。
行けよと言ったの、私はもしかして後悔しているのかもしれない。


かもじゃなくて、実際してるんだ。
律に傍にいて欲しかった。学校に行って欲しくなんかなかったんだ。
……でも、それは言うべき言葉じゃない。律は元気だから。
私のわがままで欠席扱いにさせることなんてできないから。


でも……。






「りつぅ……」




私はほとんど無意識に、指で内股をまさぐった。

熱を帯びているから呼吸が荒いのも自分でわかる。
でも、それだけが理由じゃない。
頭から、律の顔が、声が、離れていかない。
それを私は思い浮かべながら――。


やめようやめようって、思ってるけど。
それでも私はやめられなくて。指先でそこをいたずらした。
徐々に湿ってくるのも感じるし、自分の声が微かに漏れ始めているのもわかった。
唇を噛み締めて、声を堪えてみるのに、それは無駄なことだった。
自分の指なのに、自由が利かない。



「んっ……っ……」



よくないこと、なのに。
私は指でそこを弄りながら、とうとうもう片方の手を胸に伸ばしてしまっていた。



「り、つっ……あっ……」



もうあとちょっとしたら終わろう。
あと、ちょっと……。
あと、ちょっと……。

終わろう終わろうって、思うのに。
火照って熱い顔と、ぼんやりしてはっきりしない頭と、心に浮かぶ律の顔が。
行為を終えさせてくれなかった。


「……っ、あ……」




さっき律に送ったメールは、嘘だ。
大丈夫なんかじゃない。

大丈夫じゃないから、こんなことしてる……。






唯とムギ、そして私の三人で食事を取っていた。

いつもは四人でお弁当を囲んでいるのだけど、澪がいないだけでこんなにも広いなんて。
それは澪の身長のことじゃなくて、私にとっての澪の存在の大きさを物語っていた。
もしかしたら、そういう寂しさみたいなのも表情に出てしまっていたかもしれない。
ときどき唯とムギが心配そうに私を見てくるのも気になった。
その度に、私は取り繕ってばかりいる。


そんな最中、唯が切り出した。


「澪ちゃんから何かメールが来てるかもしれないよ?」
「そ、そうだな……」


私はポケットから携帯を取り出した。
案の定メールが来ていて、それはどう考えても澪からだった。
中途半端に緊張しつつも、すぐに開いて、文面を読む。

簡潔な文章だった。




『風邪だった。でも心配すんなよ。大丈夫だから』



私はしばらく硬直して、画面を見つめていた。


心配すんなよって、馬鹿か。無理に決まってんだろ。
大丈夫だからって。

大丈夫なわけないだろ。
私が大丈夫じゃない。



「……ごめん、私今日早退するわ」


それからすっと立ち上がって、二人を見下ろしながら言った。
二人は一瞬だけ驚いたような表情をしたけど、すぐに目を細めて笑ってくれた。


「うん。早く行ってあげてね」とムギがふわふわした顔で言う。
「先生には、りっちゃんは調子が悪くて帰りましたって言っとくねー」と唯がピースした。


私は二人に感謝して、食べかけの弁当を早々に片づける。
自分の席に帰って鞄に弁当を押しこみ、鞄を掴んで教室から飛び出した。






私はとっくに果てていて、息切れしながらベッドに伸びていた。
余計に体が熱くなって、妙に不安になる虚無感と切なさが胸に押し寄せてきたのだった。
だからやめとけばよかったのに、結局最後までやっちゃうなんて。


それから、大分時間が経った。
動悸も落ち着いて、呼吸もだんだん穏やかになってくる。
でも、やっぱりぼんやりした頭はそのままだった。
熱はまだまだあるみたいだな……。

枕の横に投げっぱなしていた携帯電話を手に取る。
律から返事がないかなと思って、ちょっとだけ期待していた。


でも、なかった。
新着メールの表示はなく、朝のメールのやり取りの名残があるだけだった。

いいよ別にメールなんか、返してくれなくても……。
休憩時間に携帯見なくたって構わない。律が私なんかをほっといたって……。
いいんだ別に。そんなのなんとも。

でも。



本当は寂しいよ、律……。


「りつ……」


「呼んだ?」


私がまったく覇気もなく名前を呼ぶと同時に、ガチャリとドアが開いた。
そこから、一部始終を聞いていたかのようにニヤついた律が顔を出したのだった。

「り、律……っ!?」

私はガバリと飛び起きたけど、名前を呼ぶだけに留まってしまう。
当たり前だ。ここに律がいるなんてありえない。
律はベッドの脇までやってきた。優しい瞳で訊いてくる。


「調子はどうよ」
「……メール、見たのか?」
「見た。第一見てなきゃこんな一目散に走って帰ってこねーって」


時計を見ると、昼休憩はすでに終わりを告げている時刻になっていた。
普段なら、午後の授業を受けている時間だし、律もそうしていると思ったのに。
だけど、律は今私の目の前にいる。

「な、なななんで帰ってきたんだよ」
「なんでかわかんない?」
「……」

私は布団を手繰りよせて、口元を隠した。
律の顔を見つめてたら、よくわかんないぐらいにまた体が熱くなってきたのだ。
それは風邪だからとか、熱だとか、そういうのとは違う高揚感。


「べ、別に帰ってくるほどのことじゃ、ないだろ……?」


やっぱり私は、皮肉っぽく返してしまうのだった。
本当は、すごく嬉しいのに。
面と向かってお礼なんか、恥ずかしくて仕方ない。

「ママさん忙しいから、きっとお昼帰ってこないんだろうなって思ってさ。
 だから澪もお腹空かせてるかもと思ってダッシュで帰ってきたんだよ」
「な、なんだよそれ」
「それに、やっぱり澪が風邪なのに授業なんか受けてられるかってんだ」

じゃあ、なんか作ってくると言って律は立ちあがった。
紺色のブレザーを脱いでキッチンへ抜けていく。

私は体を起こしたまま、ほっこりした気分に浸っていた。


(な、なんであんな恥ずかしいこと真顔で言えるんだよ……)


言われた私の方が恥ずかしくなってきた。
ただでさえ熱っぽいのに、これ以上体温上げないでくれ……。





さすがに自分でも格好付けすぎた。
調理台に立って、おかゆを作りながらさっきまでの自分の行動を振り返る。
全部本心なのだけど、澪の熱がさらに上がっていないか心配だ。
恥ずかしがり屋なんだから、私の発言に照れちゃってたりして。

澪がお腹空かせてるだろうから、なんてさっきは言ったけど。
実際風邪とか熱のある時って全然お腹空かないよな……。
むしろあまり量を食べたくなかったりするもんなあ。
となるとおかゆだけ? いやそれもなんだか味気ないぞ。

体調が悪い時は、消化のいいものとビタミンCだったっけか。
だとしたらなんだろうな……果物系の何かを用意した方がいいのかも。
私は冷蔵庫を開けてみた。かろうじてりんごがあった。
勝手に使っていいかわからないけど使わせてもらうか。

澪の家のキッチンは使い慣れていた。


それから、りんごも切って。
あとはおかゆの完成を待つだけだ。

そんな時だった。



「律ー……」
「えっ、う、うわっ!」



私の視界の左右から腕が伸びてきて、私の首回りを締めあげた。
声をあげてしまったけど、これは締めあげたというよりかは……。

抱き締められてる。

澪の胸が背中に当たって、一瞬ドキッした。
私はよくわからない展開にどぎまぎしながら、声を出す。


「あのー、澪しゃん?」
「うるさい」
「いやいや、まだ何も言ってないけど」
「別に……いいから、続けろ」



続けろって……おかゆ作りをか?
いやもう、あとはじっとおかゆの加減を見とくだけなんだけど……。
つまりまったくは手は動かさないということ。

私は澪に抱きつかれたまま、棒立ちになった。
澪の顔は私の首の左後ろにすぐあるようで、荒い息が色っぽくうなじに降りかかっていた。
私をホールドして離さない澪の両腕。
私は知らず知らず、澪の手に自分の手を重ねていた。



「――寂しかったの?」



私は尋ねた。



「……訊かなくても、わかってるくせに」
「違いない」
「……わかってるなら今日――」



澪は何かを思い出したように、ピタリと声を途切らせてしまった。

今日。

その先、澪が何を言おうとしていたか私にはわかってしまっていた。
だけど澪は、きっと私のためを思って言葉を紡がなかったんだと思う。


「……やっぱり、なんでもない」
「なんでもなくはないだろー? いいよ、今日は澪ん家に泊まる」
「は、はあ? なんでまだ言ってないのに――っ」


まだって……やっぱりさっき飲みこんだ言葉はそれだったのかな。
最初から澪の家には泊まる気だったんだけどね。


「それに、泊まっちゃダメだろ」
「なんで?」
「だって、律に風邪移っちゃうし……」


澪の萎んでいく声が、可愛らしかった。


「じゃあ澪は、帰ってほしいの?」


かまかけた。
こんなにも甘い声で、抱きついてくる澪の気持ちなんてわかりきってる。
でも、澪の言葉で答えを聞いてみたかった。


「そ、それは……」
「それは?」
「……帰ってほしくない」
「だろ? だから泊まるよ。安心しろって」
「で、でも律に移ったりしたら……」
「大丈夫。こんなこともあろうかと、先月辺りに予防接種を受けてるんだ」
「それでも、かからないとは言い切れないだろ」


澪は、私に帰ってほしくないけど、風邪を移すのは申し訳ないと思ってるようだった。
やっぱり澪は、私のためにさっきの言葉を飲みこんでくれたんだな……。
でも、私はやっぱり……澪と一緒にいたいから。
そのために、ここまで帰ってきたんだから。


「私、別に風邪になってもいいぞ」
「……いや良くはないだろ」
「だって、澪が看病に来てくれるし」


冗談じゃないけど、冗談で受け取ったならそれでも構わない。
それでも、今まで私が風邪をひいた時は、いつも澪が看病に来てくれたから。
だから、たまには風邪もいいかもと思っちゃったりしたこともある。


「それに、私に移して澪が治るなら、それでもいいし」


むしろそっちの方が、いいんじゃないのかな。
澪が元気になってくれれば、私がちょっとくらい大変な思いしてもいいや。

澪の顔は見えないけど、きっと真っ赤になってると思う。
そんな私も、実は結構顔が熱いから。


少しの沈黙の後、澪の私を抱きしめる力が強くなった。


「馬鹿律……」
「澪?」
「……今日の私は、欲求不満なんだ」


澪が荒い息で突拍子もなくそんなことを言うもんだから、ドキッとした。
よ、欲求って……こりゃ澪しゃん相当まいってるぞ。
私が言葉を促すまでもなく、澪は続けた。


「今日、一人でしちゃったんだからな……律のこと考えながら」


最近ご無沙汰だったからなあ。


「それなのに、そんなこと言われたら余計に……」
「……」
「だから、こんな気持ちにさせた責任取れよな……」


私は思わず笑ってしまった。
澪から頼まれると調子狂うけど、でも、そんな澪がやっぱり愛おしい。
拒むこともはぐらかすこともせず、私は答えた。



「へいへい。一生付き合うよ。澪の気持ちに」



それは、別にえっちな意味だけじゃなくて。
澪の――そして私の、お互いへの想いのことでもある。

「……りつぅ」
「おいほら、みーお。そろそろ離れないと、おかゆ食べれないぞ?」
「嫌だ。このままがいい」
「あははーそりゃ嬉しゅうございます……じゃなくて、食わないとさ」
「律を食べる」
「それはまた後でな! ほら、部屋戻るぞ」


やれやれ。熱っぽくて情緒不安定だとここまで甘えん坊になるんだもんなあ。
でも、そんな澪を見るのも初めてじゃないし。やっぱり澪は澪だ。

そんな澪と、ずっと一緒にいたいから。
澪のためだったら、私は学校だって途中で投げ出して来てやるよ。
それにやっぱり心配だから、早く治せよな。

また一緒に、元気に学校行こうぜ澪!





■終■


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