けいおん!澪×律スレ @ ウィキ

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匿名ユーザー

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バレンタイン。
そう、バレンタインデーなんだ今日は。
胸がときめく恋のイベント、この日を大好きな人とだけで過ごせたら…なんて思うのもまったくおかしなことじゃない。
…そうなんだ、私は、秋山澪は、この日を田井中律その人とだけで過ごしたいと思ってるんだ。
だけどまぁ現実はそうもいかない。
本当にそんなことができるのは人生の夏休みを満喫している大学生くらいなもので、まだ高校生である私は学校に行って多数の人たちの中に溶け込まないといけない。

…嫌だな。

私にとって特に最近は、このバレンタインデーが嫌でたまらなかった。
この日も変わらず律と会えることはこの上なく嬉しいことだとは思うけれど、それすらたまに忘れてしまうくらいに嫌なことがたくさんあるんだ。

「はぁ…」

まだ目覚ましが鳴るまで30分はある。
律には会いたい、律にだけは会いたい。
でも学校には行きたくない…。
布団から顔を出して机の上をみると、少しだけ不格好な手作りチョコを包んだ綺麗な袋が見える。

本当は今日渡したかったけど…。

それからはもう考えることをやめた。
しばらくして目覚ましが鳴った。
私はできるだけけだるそうな風を装って、母親に学校を休むと告げた。

『To:律

今日は休むよ。ちょっと風邪気味だから念のため。』


―――――


―――――


とにかく何も考えたくなかった。
眠れば楽にもなるのだろうけど、こういう時に限って眠れないもので。
音楽をかけて気を紛らわそうとするものの、やはり学校で過ごしている皆と律のことばかり考えてしまう。

今頃皆は授業受けてるんだろうな。
朝はどんな様子だったんだろう。
昼休みはどんな風に過ぎるんだろう。
放課後にはやっぱり独特の緊張感があるんだろうか。
…それで私は今日一体どれだけのチョコを受け取らなければいけなかったんだろう。
そしてその中にどれくらい本気の人がいて、私は何人の女の子を泣かせてしまうはずだったんだろう。

律は?

律は今日どれくらいチョコを受け取ったのかな。
律は今日何人から本気の告白を受けたのかな。
律は今日誰かに一番大事なチョコ、あげるつもりなのかな。

「…嫌だな」

異性からも同性からも、そういった意味でなぜか人気のある自分が嫌だ。
私は律だけに見ていてもらいたいのに。

「嫌だ」

特に女子からモテて、毎年この日になると私なんかよりずっと魅力的な子から告白されている律の姿をみるのが嫌だ。
なんで断る度に律が落ち込むんだよ。
そんな顔見たくないよ。
私から律を取らないでくれよ。

「やだ」

本当に、この日は、嫌なこと、だらけだ。
でも一番、嫌なのは…こんな…日に…律に…会えな…い、こと……。

ちゃん…と…りつ…に…気持ち…言え…ない……自分の…こ……と………。


……………。


…………。


…………。


………。


―――――


―――――


「……んぅ…」

あれ、寝ちゃってた…?
今何時ぐらいだろう。

「起きた…?澪…」

この声…。

「…律?」

「おはよ。ごめん、悪いとは思ったんだけど返事がなかったから勝手に上がらせてもらった」

「そんなのいつも…」

「あー…今日はそれだけじゃなくて、さ」

そこで律が視線を向けた先を見ると、女の子一人だと持つのがやっとぐらいの大きな袋があった。
中身は見えない。

「何?それ…」

「…今日がなんの日ぐらいは分かるだろ?」

「あぁ…うん」

「澪は人気あるからな…」

「………」

少し淋しそうに笑ってみせる律。
なんでそんな顔をするんだろう。

「なぁ律」

「ん?」

「それ、運ぶの大変だったんじゃないのか?」

「ああ、家の前までは唯たちが手伝ってくれてさ。澪から返事がなかったから私だけ確認しに入って、『寝てた』って伝えたら『お邪魔しちゃ悪いから帰るね』って。みんな心配してたぞ」

「…そっか」

心配と、余計な手間までかけさせちゃったみたいだ。

「それでも玄関からここまで運ぶの大変だったんじゃないか?」

「そうでもないよ」

「…運ぶの、嫌じゃなかったか?」

私へ並々ならぬ好意を向けている人たちの手伝いをしているみたいで。

本当は『嫉妬してくれなかった?』って聞きたかったけど、今の私は律にそんなことを言える立場の人間じゃない。
…そんなこと言えるのは、恋人同士だけ。

「…そんなことないよ」

本当は『当たり前だ』とでも言って欲しかった。

「…それよりさ澪。学校居る時の方が大変だったんだからなー?」

「え?なんで?」

「そこの袋見れば分かるだろ。朝も、昼休みも、放課後も『秋山先輩いますか?』『秋山さんいる?』って教室に集まって来る子ばっかり。部活中も大変だったんだぞ?」

「あ、ご、ごめん…」

「いいよ、澪が謝ることじゃないしな」


なんで律はそういうことを苦もなく話せるんだろう。
やっぱり、嫉妬なんてしてくれないのかな。
やっぱり私は律にとって、ただの親友でしかないのかな。


「あ、あのさ律」

「何?」

「律は、その、チョコ貰ったりしなかったのか?」

「ん。…貰わなかった」

「でも律だって人気、あるだろ?」

「貰わなかったよ。…受け取らなかった」

「え…?」

「だって…今年は数こそ少なくなったとは言え、もれなく告白付きだぞ?そんなの受け取れない」

「…そっか」

少しだけ、ホッとした。

「…澪も多分人ごとじゃないと思う」

「あ…うん」

「そこにあるのは『渡してくれ』って言われて受け取った奴だけどさ、いくらか手紙付もあったし『直接渡す』っていう人もいたから…」

「うん…」

「…面倒だと思うけどちゃんと返事はしてやれよ?」

「わかってるよ…」

「…本命の人、いるといいな」ボソッ

袋の方を見て、顔を見せずに律が小さく呟いた。
ひどく元気がないその言葉を契機に、私の中で何かが溢れ出して来た。

「…律」

「うん?」

「お願いがあるんだ」

「なんだ?」

「その袋、全部捨ててくれ。燃やしてくれてもいい」

「…はぁ!?お前、人の話聞いて…」

「それでも!今すぐそれをどうにかしてくれ!!」

「澪!!」

「お願いだから!!!」

「ダメだって!!」

「…もういい、自分で…!」

「澪!!!」

律に押さえ付けられた。
興奮して二人とも息があがっている。

「それくれた子たちがどんな気持ちだったか分かってるのか!?」

「…そんなの、分かってるに決まってるだろ」

「じゃあなんでそんなこと…!」

「もう嫌なんだよ…。好きでもない、知らない子のために毎回緊張を強いられるのも…その子たちを、毎回泣かせてしまうのも…」

「それは…」

「律、律は…」

「…なに?」

「それを私の代わりに受け取る時、運ぶ時、少しも嫉妬してくれなかったの?」

「………」

「私は嫌だったよ。律がそのことを嫌な顔しないで話してくれたことも、律が告白されたって聞いたことも…」

「澪…」

「律、私は…」

「待って、待ってよ澪…まず言っておかなきゃいけないことがある」

「なに…?」

「その先は多分、澪がその袋を捨てないって言ってくれない限り聞いちゃいけないことだと思うし、私だって言っちゃいけないことになるんだと思う…」

「…え?」


「いいか?その袋を澪が捨てるってことは、澪に想いの丈を告げようとした人の気持ちを全部無視したことになる」

「…うん」

「それなのに、自分のことをどう思ってるのか分からない人に向かって澪だけそういうことをしようっていうのはフェアじゃないよ…」

「………」

「私はそんなの澪らしくないと思うし、そんな澪なんか…」

「あ…」

私を押さえ付けた律の手から震えが伝わり、私の頬に律の目から雫がポトリと落ちてきた。
さっきのやりとりで多分もうお互いに気づいている。
それでもきちんと筋を通すまで気持ちを抑える律がいじらしく思えた。

「…この体勢、なんだか律に押し倒されてるみたいだな」クスッ

「あ…ごめん、今すぐ…」

「だめ」ギュッ

「わっ」

律の小さな体を下から抱きしめる。
まだ少し震えていた。

「…ごめん、ごめんな律。私、もう捨てるなんて言わないから…。ちゃんと全員に返事するから…」ナデナデ

「あ、当たり前だろ…大体なんであんなことしようって…」グスッ

「だって律が辛そうに心にもないこと呟くから…」ナデナデ

「私は別に…」

「…本当に?」

「………」

「律、聞いてよ」

「…うん」

「チョコを作ったんだ。手作りで形もあんまり綺麗じゃない。それでも一生懸命作ったんだ」

「うん」

「友チョコなんて野暮なものじゃない。私の気持ちを全部込めた本命チョコなんだ」
「………」

「律、私は律のことが好きだ。私のチョコ、受け取ってくれるか…?」

「…私も好きだよ、澪。大好き」



ファーストキスはチョコレートよりずっと甘かった。
その一時間後律と私の位置が入れ替わっていたのは内緒だ。


「そうだ、澪。その手作りチョコは?」

「ああ、ちょっと待ってて」

机の引き出しからチョコを取り出す。
今日はもう渡せないだろうと諦めて仕舞っておいたのだけど…。

「あった。…よかったよ、今日中に渡せて」

「澪!」

「急かすなって、ほら、これ…」

「私からも」

振り返ると律の手には二つの箱が握られていた。

「それは…?」

「市販のと、手作りの」

「えっと…」

「市販のは部活で皆と一緒に渡そうと思ってて、手作りは…その、澪と二人だけの時にって…」

「り、りつ…!」

「わっ、ちょっと」

想いを伝えようが伝えまいが、私だけは特別。
その事実に嬉しくなり、思わず律を抱きしめた。
両手がふさがっている律は今や私の思いのままだ!

「ふふっ…あはは」ギュー

「み、澪さん…?」

「律」ギュッ

「ん」

「愛してるぞ、これからもずっとだ」



おわり。


  • 良いね -- 名無しさん (2012-05-13 19:32:00)
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