けいおん!澪×律スレ @ ウィキ

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匿名ユーザー

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「澪先輩、首筋何かついてますよ」
「えっ? 何が?」


私がベースを担ごうとした時、梓が私に言った。
何かついてる? 何の違和感もない首を私はペタペタと触ってみた。
前みたいにパンの値札のシールだろうか。でも、何か貼られている感触はない。

私が首を触っていると、梓が近寄ってきた。

「そこじゃないです、ここですよ……ってええ~~~~?」

私に近寄るなり、梓は急にジト目になって驚くような声を上げた。
『ええ~~』ってなんだよ。何か予想外のものが首に付いているのだろうか。
しかし本当に何かがある感触はないのだけど。

「これは……」

梓が苦笑いする。
鏡で見せてくれよと催促すると、梓はポケットから鏡を取りだした。
私の首の部分を鏡で映す。私はそれを見た。
首にあるそれを。


「……キスマーク……?」

私は愕然として声に出してしまった。
ドラムに座っている律、ピックを探している唯、お茶を汲んでいるムギ。
それぞれが一斉に私の方を向いた。
最初に声を出したのは、ムギだった。

「澪ちゃんそれどうしたの?」
「し、知らないっ! 私は、こんなの知らないぞ!」

梓の鏡を借りて、もう一度よく眺めてみた。
た、確かにキスマークだ……。だ、だけどこんなの身に覚えがない。
私は何度もそこに手を触れてみるけど、消えることはあり得ない。
続いて梓だ。

「でも、首筋ですよ。首筋にキスなんて澪先輩が気付かないわけないと思うんですけど」
「ほ、本当に知らないんだ。こ、こんなところキスされた覚えないし……」
「寝てる時にされたとか」
「そ、それは……」


寝てる時にされたとすれば、私にわかるわけがない。
私はチラッと律の方を見た。昨日私の家に泊まったから、犯人の可能性があるのは律だ。
どうせ犯人は律で、私の方を見てニヤニヤしているのだろうなと思った。


だけど、律の顔は予想外に表情を失くしていた。
私は律のそんな顔に、『お前か!』と突っ込もうとした声を引っ込めてしまった。

だけど、私の心を誰も読み取ってはくれない。
唯と梓が交互に声を出した。

「りっちゃんでしょ? 昨日澪ちゃんち泊まるとか言ってたもんねー!」
「澪先輩にキスできるのなんて律先輩しかいませんしね」

あははは、と唯と梓、ムギが笑った。私と律は、笑っていなかった。
おい、律笑えよ。どうせお前なんだろ。なら、笑い飛ばせよ。
私は痛くもないのに、やたらと痛むその部分をただ撫でるだけだった。

でも、突然、三人の笑い声を遮るように律の声が響いた。


「――知らねえぞ、そんなの」


律は私を見た。律の顔を見る限り、どう考えても怒ってた。



「おい、澪。なんだよそれ」

律は立ちあがって、私に詰め寄ってきた。
キスをするぐらいまで顔を近づけてくる。でも、その表情は深刻だった。
私は何が何だかわからなくなって、何も言えなくなってしまった。


だって、あり得ないだろ。誰が、こんなところにキスマークなんて。
律以外あり得ないし、私は律以外にしてほしくないし、別の誰かなんて許さない。
なのに、私の首筋には確かにキスマークがあって、律は知らないと言ってるのだ。

私は何か取り繕わないきゃ――いや、何も取り繕う必要はないのだけど。
でも、確かに身に覚えがないということを言わなきゃいけないと思った。
だけど混乱して呂律は回らず、噛み噛みになってしまう。
だけど、言うには言った。


「し、知らないっ! ほ、本当に、し、知らないんだ!」
「私も知らねえよそんなの!」


律の、穏やかだけど確かにイラついている声が私と衝突する。
本当に知らない。それしか私は言えないのに。でも、誰も知らない。
誰も知らないのに、こんなところにキスマークがつくわけない。
じゃあ誰が、ここにキスをしたことを知ってるんだ。
律以外に、私は……キスをされるほど無防備な状態を見せたことなんてないのに。
だから律しかあり得ないんだ! 私にこんなことできるのは。
なのに、律も知らないなんて……意味が分かんないよ。


「本当に、知らないんだ律。信じてくれよ」
「……知らなかったとしても、キスされるような余裕を誰かに見せたってことだろ」
「そ、それは……」
「……誰かの家に泊まったり、人前で寝たりとか」


考えれば考えるほど、やっぱり私は律としか寝ていないんだ。
一緒に一晩を過ごしたのも律だし、私の家に泊めたのも律だけだ。
人前で寝たのも律だけだ。やっぱり律しかあり得ない。
でも……律は知らないって言ってる。どういうことなんだろう。


「やっぱり、してないよ」
「……どっちにしろ、誰かにされてるのは変わりねえよな」
「そ、そうだけど……」


律は私を睨みつけた。だけど、すぐに目を逸らしてしまう。


「……頭冷やしてるくるよ。演奏してて」


律は吐き捨てるように言って、部室から出て行ってしまった。
私は終始、そのキスマークを指先でなぞるだけしかできなかった。
そして、言いようのないモヤモヤが胸にせめぎ合っているのも。





「澪先輩、本当に覚えがないんですよね」
「……ない」
「おかしいですね。私は、律先輩が犯人だとばかり……」


私はすっかりまいって、いつもの席に肩を落として座っていた。
もう律が出て行って十五分だ。頭を冷やすだけにしては遅すぎる。
ムギの紅茶を飲んで少し落ち着いたけど、状況は何も解決していなかった。
唯やムギも私に声を掛ける。


「私もりっちゃんだと思ってた。でも、りっちゃんじゃないとしたら誰だろ」
「りっちゃん以外とお泊まり会したことなんて、ないわよね?」
「……うん」


質問に答えつつも、私はどうやって律と仲直りしようか考えてばかりいた。
絶対誰かに体を許したわけじゃないのに、それを証明するものは何もない。
律が出て行ってしまったのも、怒るのも仕方のないことだった。
……もう、本当にわけがわからないよ。

私は泣きそうになって。もしかしたら、もう律と絶好なのかもって。
律が私を幻滅して、離れていっちゃうのかもしれないって。
そんなことを考えて、唇を噛み締めるしかなかった。


「覚えがないということは、やっぱり……意識がない時ですよね」
「寝てる時以外に意識がなくなるなんてある? あっ、麻酔を打たれたとか」
「ムギ先輩、発想が怖いです」


麻酔……? う、嘘だそんなの。
思い返してもそんな時間はない。私の『記憶がない』時間なんてないんだ。
私の意識がなかったのは、確かに律と一緒にいた昨日の夜、寝た時だけ。
それ以外で、私が寝ていたり意識がなかったことなんてない。

それを言うと、三人は呑気に言った。


「じゃあ、やっぱりりっちゃんなんじゃないのー? りっちゃん演技上手だし」
「そうですよね。律先輩なら意地悪でそういう嘘吐きそうです」
「私もりっちゃんだと思うわ~」


皆の視線が私に集まった。






私は、律はまだ学校にいると踏んで校舎内を探し回った。
探したとはいえ律がいそうな場所なんて見当がついていて、やはり律はそこにいた。

三年二組の教室。
教室を包み込む夕方特有のオレンジ色の光。


律は窓際に立っていて、教室に入った私に開口一番そう言った。


「遅かったな澪」


さっきの怒った顔は、微塵も感じられなかった。声も目も優しい。
私はやっぱりと思って律の目の前まで近寄った。


「……やっぱり、お前だったんだな」
「バレた? 名演技だっただろ」
「そ、そういうこと言ってんじゃない! 馬鹿律!」


私は律にゲンコツを一発与えた。
痛がっている律。私はやってやったと思った。
けど、なんだか知らないけど、涙が出てきた。



「……ばか、馬鹿律……っ」
「澪――泣いてるのか?」
「う、うるさいうるさいっ! ばかっ!」



私は叫ぶだけ叫んで、泣き崩れてその場に座り込んでしまった。



悲しかったわけじゃない。切なかったわけじゃない。

怖くて。
本当に怖かったんだ。



「……本当に、怖かったんだからなっ……!
 り、律以外に――体にキスなんかされたくなんかないのにっ!
 律としか、やりたくないのに。
 律だけに、触ってほしいのに……っ……。
 他の人にされちゃったのかなって、怖くて……っ!」



「澪……」


律はしゃがんで、私を抱き締めた。


「ごめんな……ちょっと意地悪してやろうって思っただけなんだ」
「っ……ばか……うぅ……」
「澪の慌ててる顔可愛かったしさ……」


律は私を、とにかく思いっきり抱きしめてくれた。
慰めるような声も、すっごく優しくて、涙もひいていく。
私は律の背中に手を回して、私も抱き締め返した。


「いつ、付けたんだよ……これ」
「澪が寝てる時だよ。もうすっごい熟睡だったしな澪」
「し、仕方ないだろ……あんなに激しかったんだし……」


私は昨日の夜を思い出す。
昨日は久しぶりだったから、あんなに激しかったんだ。
考えて体が熱くなるけれど、でもまだちょっとだけ律に怒っていた。
……意地悪し返してやろうとあることを思いつく。


「律、しばらくエッチ禁止な」
「ええっ! な、なんでだよ……!」
「自分の胸に聞け、馬鹿律」


私は律の肩に顔を埋めた。



「でも、よかった……」
「澪?」
「律のキスなら、嬉しいから」


律のキスは、本当に嬉しい。
律以外の人のキスなんか、いらない。
律だけで、いい。


「澪……」
「律……んっ……」


エッチはお預けだけど、今だけキスは許してやろう。
そう思って、私と律はキスをした。
甘い甘いキスだった。








……自分で言ってなんだけど、しばらくお預けなんて無理かも。
キスするだけで、律を押し倒したくなってしまった。
でも、それは、また別のお話。



おしまい。


  • yumny^^ -- 名無しさん (2011-01-25 20:56:41)
  • 最高でした。ありがとう。 -- 名無しさん (2011-03-09 20:51:51)
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