軽音部でパーティーをするのは、とても楽しい。
最高に楽しい。
最高に楽しい。
でも、律と二人っきりの時間が減っちゃったのは、少し残念だったかな。
中学三年まで、ずっと二人だったんだから。
こんな事言ったら、バチ当たるよな……。
最低だな、私。
中学三年まで、ずっと二人だったんだから。
こんな事言ったら、バチ当たるよな……。
最低だな、私。
■
「ほら梓ー、お前も何かやれよ!」
「いいですよ私は!」
「あずにゃんの一発芸見たーい」
「もう止めてください! ああちょっと唯先輩!」
「いいですよ私は!」
「あずにゃんの一発芸見たーい」
「もう止めてください! ああちょっと唯先輩!」
いつものように。毎年のように開かれるクリスマス会。
ただいつもは25日に開いていたのだけど、今年は24日に行っている。
ただいつもは25日に開いていたのだけど、今年は24日に行っている。
唯の家のリビングのコタツ。皆がそれに入って、騒いでいた。
コタツの上には丸いケーキと、憂ちゃんの作った豪華すぎる料理が並ぶ。
私はそれを度々口にしながら、律たちが騒ぐ様を見ていた。
コタツの上には丸いケーキと、憂ちゃんの作った豪華すぎる料理が並ぶ。
私はそれを度々口にしながら、律たちが騒ぐ様を見ていた。
一年の時はエアドラム。
二年生の時も、いろんなことをやって皆を笑わせていた。
私も律のそんな姿はとても微笑ましかったし、面白かった。
今年は三年生で、本当なら受験勉強しなきゃいけないけど。
一日ぐらいならいいかって思って、私も律もクリスマス会に参加する。
二年生の時も、いろんなことをやって皆を笑わせていた。
私も律のそんな姿はとても微笑ましかったし、面白かった。
今年は三年生で、本当なら受験勉強しなきゃいけないけど。
一日ぐらいならいいかって思って、私も律もクリスマス会に参加する。
もう来年からは、ここに揃っているメンバー全員は集まらない。
梓だって一年間、私たち三年とは会えないわけなのだから。
だから、厳密軽音部の最後のクリスマス会だ。
受験もあるし、ここで気持ちを切り替えるのも大切だ。
だから目一杯楽しもうって、皆思ってる。
私だって、楽しむぞってプレゼントも持って来てるし。
パーティー自体も、すごく楽しい。
梓だって一年間、私たち三年とは会えないわけなのだから。
だから、厳密軽音部の最後のクリスマス会だ。
受験もあるし、ここで気持ちを切り替えるのも大切だ。
だから目一杯楽しもうって、皆思ってる。
私だって、楽しむぞってプレゼントも持って来てるし。
パーティー自体も、すごく楽しい。
それは、いいんだけど……。
でも、あんまり律が構ってくれないな。
いや、いいんだけど。律が楽しければそれでいいんだけど。
でも。
いや、いいんだけど。律が楽しければそれでいいんだけど。
でも。
胸が痛い。
もし軽音部じゃなければ、律と二人っきりだったかも。
そしたら、もっと私に構ってくれたかもしれない……。
ああ、もう何考えてるんだよ私は!
そんなの駄目だろ。軽音部は最高だろ。最高に楽しいだろ。
高校時代を彩ってくれた宝物だろ!
それなのに……なんでこんなことばっかり考えちゃうんだ。
そしたら、もっと私に構ってくれたかもしれない……。
ああ、もう何考えてるんだよ私は!
そんなの駄目だろ。軽音部は最高だろ。最高に楽しいだろ。
高校時代を彩ってくれた宝物だろ!
それなのに……なんでこんなことばっかり考えちゃうんだ。
■
「それじゃあ皆、気をつけて帰ってねー!」
「おー、おやすみ」
「おやすみなさーい」
「おやすみー」
「おー、おやすみ」
「おやすみなさーい」
「おやすみー」
唯の家から出て、別れの挨拶をする。
ムギと梓と別れて、夜の道を律と二人きりになった。
「いやー楽しかったなあ!」
律が空を仰いで切り出した。
私は少し遅れて律の後ろを歩いている。
息が白い。
後ろからだから、律の口元は見えないし表情も見えない。
だけど喋り出すのがわかるくらい、冷たく張り詰めた静寂だった。
私は少し遅れて律の後ろを歩いている。
息が白い。
後ろからだから、律の口元は見えないし表情も見えない。
だけど喋り出すのがわかるくらい、冷たく張り詰めた静寂だった。
「見たか? あのムギの一発芸!」
「……ああ」
「なんか一昨年の奴よりすごくなってたよなー」
「……ああ」
「なんか一昨年の奴よりすごくなってたよなー」
楽しかったはずなのに。
なんでこんなに心がモヤモヤするんだろう。
寒さじゃない震えが、心から湧き上がってくるんだろう。
なんでこんなに心がモヤモヤするんだろう。
寒さじゃない震えが、心から湧き上がってくるんだろう。
律は時折振り返って笑う。
私以外のことで、そんな顔……――。
私以外のことで、そんな顔……――。
「あ、そうそう澪――」
「……」
「……どうした?」
「……」
「……どうした?」
振り返った律。話しかけようとしていたみたいだ。
でも私の表情から察してか、様子を尋ねてくる。
でも私の表情から察してか、様子を尋ねてくる。
無邪気で、悪戯な笑顔の律。
私は、抑え切れなかった。
私は、抑え切れなかった。
叫んだ。
「そんなに皆と一緒がいいなら、みんなと一緒にいろよ!」
「……澪?」
律が驚いてビクッと表情を強張らせた。
だけど私も止められなかった。
だけど私も止められなかった。
「なんなんだよ! さっきから嬉しそうにさ……!
私の気も知らないで、勝手なことばっかり……!
梓と仲良くやってろよ。ムギと楽しくやってればいいんだよ!
唯と一緒に笑いあってればいいんだよ!」
私の気も知らないで、勝手なことばっかり……!
梓と仲良くやってろよ。ムギと楽しくやってればいいんだよ!
唯と一緒に笑いあってればいいんだよ!」
言い終えて、走り出した。
律は追い掛けてこなかった。
律は追い掛けてこなかった。
帰って寝た。
律は悪くないのに、怒鳴ってしまった。
申し訳なくって、布団に潜って泣いた。
律は悪くないのに、怒鳴ってしまった。
申し訳なくって、布団に潜って泣いた。
いつの間にか眠ってしまっていて。
朝になっていた。
朝になっていた。
目を覚ましたら、ベッドの横に律がいた。
■
「澪ー……ごめん」
「うるさい」
「……ごめんってばー」
「うるさいうるさい!」
「うるさい」
「……ごめんってばー」
「うるさいうるさい!」
謝りに来た律は、ベッドの横に座ってる。
でも、私の視界は灰色だ。私は布団の中に潜っている。
薄暗い世界の中で、ただ律の言葉を遮ってばかりいた。
でも、私の視界は灰色だ。私は布団の中に潜っている。
薄暗い世界の中で、ただ律の言葉を遮ってばかりいた。
こんなことしたって、何にもなら無いのに。
でも、律を否定したい思いだけが募っていた。
律のしたことは、悪いことでもないのに。
でも、悪い事だって反省はしてほしくて。
でも、律を否定したい思いだけが募っていた。
律のしたことは、悪いことでもないのに。
でも、悪い事だって反省はしてほしくて。
自分の矛盾が、とても恨めしい。
最低だ、私は。
最低だ、私は。
「……澪、別に私――」
「うるさい。どーせ私なんか、どうでもいいんだ」
「うるさい。どーせ私なんか、どうでもいいんだ」
どうしても憎まれ口を叩いてしまう。
どうでもいいと、思って欲しくはないのに。
どうでもいいと、思って欲しくはないのに。
数秒、沈黙があった。
そして。
そして。
「……澪、今日は何日?」
ふっと気の抜けたような爽やかな声が聞こえた。
さっきまで謝ってたくせに、何を思いついたんだろう。
私は布団の中で薄暗い世界をみながら、返事をする。
さっきまで謝ってたくせに、何を思いついたんだろう。
私は布団の中で薄暗い世界をみながら、返事をする。
「25日……」
「そうだぜ。今年は受験だから、いつもより一日だけクリスマス会を早く行うことにしたんだよ」
「……だから、なんだよ」
「日付の提案をしたのは?」
「……律」
「だろ?」
「そうだぜ。今年は受験だから、いつもより一日だけクリスマス会を早く行うことにしたんだよ」
「……だから、なんだよ」
「日付の提案をしたのは?」
「……律」
「だろ?」
だから、なんだよ。日付なんか、何になるんだよ。
私は布団を握り締め、二度と顔を見せてやるもんかって身構えている。
でもそんな私の意地も、律の優しい声の前じゃ馬鹿みたいだった。
私は布団を握り締め、二度と顔を見せてやるもんかって身構えている。
でもそんな私の意地も、律の優しい声の前じゃ馬鹿みたいだった。
「なんでかわかる? 一日早くしたの」
「……受験だからって、さっきも言っただろ自分で」
「それだけじゃ、ないんだ。いやむしろそれは嘘なんだ」
「……受験だからって、さっきも言っただろ自分で」
「それだけじゃ、ないんだ。いやむしろそれは嘘なんだ」
――何が、言いたいんだろう。
私は布団の中途半端な温もりと、律の声の温かさにも包まれてもいる。
だけど律が何を言いたいのか、さっぱりだった。
私は布団の中途半端な温もりと、律の声の温かさにも包まれてもいる。
だけど律が何を言いたいのか、さっぱりだった。
「昨日はクリスマスイブ。今日はクリスマス」
「……だから、なんだよさっきから」
「じゃあ今日が本番だって事だろ」
「……だから、なんだよさっきから」
「じゃあ今日が本番だって事だろ」
本番って……。
際立って響く声が、心で反響した。
際立って響く声が、心で反響した。
「今日は澪のために空けたんだ。クリスマスは澪と二人って決めてた。
だから受験の為なんて都合よく言って、パーティーを一日早めたんだ。
そうすりゃ、クリスマスは澪と一緒にいられるからって。
だから受験の為なんて都合よく言って、パーティーを一日早めたんだ。
そうすりゃ、クリスマスは澪と一緒にいられるからって。
毎年、クリスマスは……軽音部でパーティだったじゃん。
だから、高校最後のクリスマスは……25日は澪といたくて」
だから、高校最後のクリスマスは……25日は澪といたくて」
不安が、胸の高鳴りにいつの間にか変わってる。
私は、律にどうしたいんだ。律に、どうされたいんだ?
高揚する熱が指先に、そして顔にまで伝わっているのが自分でもわかる。
高揚する熱が指先に、そして顔にまで伝わっているのが自分でもわかる。
「澪、顔見せて」
「……」
私は、結局律には敵わないと諦めて、布団から顔を出した。
まだ布団から顔を出しただけで、枕に頭を乗せたまま寝ているけど。
ずっと暗い中にいたので、朝の光が眩しかった。
細めた視界に、律がいる。
まだ布団から顔を出しただけで、枕に頭を乗せたまま寝ているけど。
ずっと暗い中にいたので、朝の光が眩しかった。
細めた視界に、律がいる。
「おはよう、澪」
「……おはよう、律」
「知ってるか澪? クリスマスの朝は何があるか」
「……おはよう、律」
「知ってるか澪? クリスマスの朝は何があるか」
律はベッドの横に頬杖をついて、悪戯っぽく笑う。
クイズかなぞなぞか。それともしょうもない冗談か。
でも私は、律の魅力的な表情に見惚れてしまっていた。
考える暇も無いまま、律は言う。
クイズかなぞなぞか。それともしょうもない冗談か。
でも私は、律の魅力的な表情に見惚れてしまっていた。
考える暇も無いまま、律は言う。
「目が覚めた子供の枕元に、プレゼントがあるんだぜ」
――『おはよう澪』。
つまり私は、今目覚めたも同然だ。
律が今頬杖をついてるのは、何処だ。
私の枕元だ。
今日は、何の日だ?
決まってるよ。
クリスマスだろ。
つまり私は、今目覚めたも同然だ。
律が今頬杖をついてるのは、何処だ。
私の枕元だ。
今日は、何の日だ?
決まってるよ。
クリスマスだろ。
「律……」
「澪……不安にさせてゴメン。でも、澪が一番だから」
「……私もごめん……怒鳴ったりして」
「ああいいよいいよ。
だけど、私の気持ち知ってるんだろ?
あんまり不安になるなよな。私はずっと澪が好きなんだからさ」
「澪……不安にさせてゴメン。でも、澪が一番だから」
「……私もごめん……怒鳴ったりして」
「ああいいよいいよ。
だけど、私の気持ち知ってるんだろ?
あんまり不安になるなよな。私はずっと澪が好きなんだからさ」
恥ずかしいことを平気で言ってのける。
不安だった反動か、私は泣き出してしまった。
不安だった反動か、私は泣き出してしまった。
「……馬鹿律ぅ……」
「な、何ー! 謝っただろー?」
「な、何ー! 謝っただろー?」
絶対許してやるかって。顔見せてやるもんかって思ってたのに。
こいつの言葉だけで、好きって言葉だけで。
こんなに簡単に、心って晴れるもんなのか。
こいつの言葉だけで、好きって言葉だけで。
こんなに簡単に、心って晴れるもんなのか。
「澪、こっち向いて」
「……?」
「プレゼントは、私」
「……?」
「プレゼントは、私」
律は私の頬に手を添えて、ゆっくりキスをした。
驚いたけど、嬉しかった。
顔を離した律の顔は、ほんのり赤かった。
顔を離した律の顔は、ほんのり赤かった。
「今日の私は――いや、もうずっとこれからも、澪のもんだからな」
「……ありがとう、律」
「ほら、澪。キスでもエッチなことでも、お使いでもなんでもいいぞ」
「……ありがとう、律」
「ほら、澪。キスでもエッチなことでも、お使いでもなんでもいいぞ」
律は臆面もなくそう言った。
なんだよ、どれも今までしたことのあるやつばっかりじゃん。
なんだよ、どれも今までしたことのあるやつばっかりじゃん。
「じゃあさ、律」
「よしこい澪」
「一緒に、布団入って」
「え、いきなり『する』のかよ?」
「違うよ」
「よしこい澪」
「一緒に、布団入って」
「え、いきなり『する』のかよ?」
「違うよ」
今日一日だけじゃなくて、ずっと一緒にいられるんだから。
さっき律が言った事以外に律とやりたいことなんてたくさんある。
八年一緒にいたけど、私はまだ律に飽きてなんかいないのだ。
一生飽きなんか来ないと断言できるぐらい、好きなんだから。
一生一緒にいるうちの、今日一日。
もう一回のキスもエッチもお使いも、また後でやればいいや。
さっき律が言った事以外に律とやりたいことなんてたくさんある。
八年一緒にいたけど、私はまだ律に飽きてなんかいないのだ。
一生飽きなんか来ないと断言できるぐらい、好きなんだから。
一生一緒にいるうちの、今日一日。
もう一回のキスもエッチもお使いも、また後でやればいいや。
「律と一緒に、もうちょっと布団に入ってたい」
「……澪」
「寒いから。律も、寒いだろ?」
「……寒いな。寒くて仕方ない。だから、遠慮なく入るぜ」
「……澪」
「寒いから。律も、寒いだろ?」
「……寒いな。寒くて仕方ない。だから、遠慮なく入るぜ」
律は笑顔で私の布団に入ってきた。
「律、もうちょっと向こう行って。私がはみ出る」
「なんだよ、これ以上行ったら私もはみ出る……」
「なんだよ、これ以上行ったら私もはみ出る……」
二人でごそごそする。
そのとき、律が思いついたように顔をパッと輝かせた。
そのとき、律が思いついたように顔をパッと輝かせた。
「そうだ」
「なんだ、いい案でも思いついたか?」
「その通り」
「なんだ、いい案でも思いついたか?」
「その通り」
私は横を向いて寝ている。
律は私と向かい合う。
そして律は、私を抱きしめたのだ。
律は私と向かい合う。
そして律は、私を抱きしめたのだ。
「なっお前っ……」
「こうすりゃ暖かいし、面積狭くなるから、二人とも布団を被れるな」
「……そ、そうだな」
「こうすりゃ暖かいし、面積狭くなるから、二人とも布団を被れるな」
「……そ、そうだな」
馬鹿律。
これじゃあ、暖まるどころか熱が出ちゃうだろ。
私の理性が壊れないか心配だよ。
これじゃあ、暖まるどころか熱が出ちゃうだろ。
私の理性が壊れないか心配だよ。
「メリークリスマス! 澪!」
「め、メリークリスマス…律」
「なんだよもっとしゃっきり言えよー」
「……あはは!」
「め、メリークリスマス…律」
「なんだよもっとしゃっきり言えよー」
「……あはは!」
私にとって、律はサンタさん。
律にとって、私はサンタさんなんだ。
律にとって、私はサンタさんなんだ。
メリークリスマス。
■終■
- いい -- 名無しさん (2012-01-16 17:21:40)