けいおん!澪×律スレ @ ウィキ

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匿名ユーザー

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この世で一番美味しいもの・・・それは、何かな

「38度もある・・・」
季節の変わり目はよく風邪を引く。まだ暖かいかなと思って薄着で寝て
うっかり風邪を引いた。そういう単純な話
ずっと天井を眺めていると、思い浮かぶのはやっぱり律の顔。
食欲もわかず、トイレに行く以外のことでは布団から出る気もしない
恋の病かと間違えそうなほど、ただただ無気力で。時間が過ぎるのもゆっくりな気がする

そんなことを思っていると、高くチャイムが鳴り響く
「澪ー、りっちゃんが来てくれたわよー!」
ああ、やっぱり来てくれた。
「はーいっ」
さっきまでの無気力が一気に吹き飛ぶ。なんだ、やっぱり恋の病か?
階段を元気に駆け上がってくる足音、その足音が部屋の前に来たと思うと、急に鳴り止む
そして数秒して、わざとらしく静かにドアを開け、私の求めていたものがひょこっと顔を出す
「澪ー?起きてるかー」
「返事しただろ?聞こえなかったかあ」
「ふふふ、聞こえないわけないだろ!
学校にいてもずっと澪が私を弱々しく呼ぶ声が聞こえましたよー」
何言ってんだこのバカ。そのバカのイタズラっ子のような微笑が、
ただただ愛しく、嬉しい。
「澪・・・お昼食べたか?」
ベッドに静かに歩み寄り、優しく声を放つ。こういうときの律は、妙に母性に溢れていて
ついつい甘えたくなる。不思議なもんだ
「ううん・・・食欲全然ない。」
「・・・・辛いだろ。何か食べないと・・・そうだ、台所借りていいか?」
「?どうして」
「へへ、この田井中律様が風邪に苦しむかよわい乙女、秋山澪しゃんに
元気の出る料理を作ってやろうってことよ!」
妙な説明口調。つい吹き出してしまった
「なんだよお。・・・何か食べたいもの、あるか?」
「食べたいもの・・・かあ。」

風邪のときに食べたいもの・・・・そういわれて私が思い浮かべるのは、ずっと昔の話・・・


「・・・・」
数年前、私たちがまだ小学生のころ。今日と同じように、私は風邪を引き、
ただただぶら下がる電灯の紐を見ていた。
今よりも人付き合いの上手くなかった私は、風邪を引いて学校を休むほうが、気が楽な気がしていて
はっきりいって、風邪で休んだ一日が終わってしまうのが、寂しく、めんどくさく思えた。

そのとき、今と同じように、また高く鳴り響くチャイムの音
だけどそのときの私には、そのチャイムから誰が来たか予想することは出来なかった。
宅配便かな?くらいにしか思っていなかった・・・まだ、友の温もりを知らなかった頃。

「澪ー。クラスの子がお見舞いに来てくれたわよー」
「・・・え?」
「田井中律ちゃんて子よー。上がってもらいなさーい」

まだそのときは、律と出会って数ヶ月。
はっきりいって彼女とは上辺だけの付き合いだと、当時はそう思っていた

「澪ちゃーん!風邪大丈夫?」
「りっちゃん・・・来てくれたんだ。」
友人が風邪のお見舞いにくるなんて、初めての経験。どう接していいかもよくわからなかった
「ごめん・・寝てちゃダメだよね。よい・・・しょ」
「あーー!ダメダメ!寝てないとダメだよー!」
駆け寄ってきて、私を寝かせてくれた。あの優しさが、そのころは新鮮で、かつ嬉しかった
「りっちゃん・・・・」
「澪ちゃん、ご飯ちゃんと食べてる?」
「ううん・・・食欲全然ない。」
「・・・じゃあ!澪ちゃんにおみやげ!!」
「え?」
嬉しそうに言い、ランドセルを漁りはじめる律。よく見るとその顔は、汗でびしょびしょだった
もしかして・・・走ってきてくれたのかな。でも・・・なんで?
そんなことを考えていると、小さい叫びが聞こえてきた
「あーっ・・・・・・」
「?どうしたの・・・りっちゃん・・・」
「・・・・・これ」
その手に握られていたのは、ご飯が中から飛び出した、アルミホイルの塊。
「・・・おにぎり?」
「・・・・今日調理実習があったの・・・それでご飯が澪ちゃんの分余ったから・・・」
作ってきてくれた・・・という。
「でも・・・・ごめんね・・・・潰れっ・・・・・ちゃった・・・・」
そんなのカバンにつっこんで走ってくれば、潰れて当たり前。
律は今でもなかなか見せない、悲しみに満ちた表情をしていた
「りっちゃん・・・・」
一粒、二粒と・・・ポツンと音を上げ、アルミホイルに落ちる水滴
汗と・・・涙


「ごめんっ・・・・・澪ちゃんッ・・・・うううっ」
「りっちゃん!泣かないで・・・私、食べるよ!」
そういって律の手からおにぎりを受け取る。アルミを開くと、中から鮭の飛び出たいびつな形のおにぎりが目に入る
「でも・・・」
「・・・・・・」
何故だろう、そのとき
今までないほどに、心の底から食欲がわき上がるような感覚がして、一口、おにぎりを口に含む
おせじにも美味いとは言えない。塩加減もむちゃくちゃ、ご飯粒も潰れていて
それなのに・・・・・
「・・・・おいしい。」
「えっ?」
いつだか、運動会のとき、忙しい中母親が作ってくれたおにぎり
単純に見ればその差は歴然としているのに、何故か、そのおにぎりととても近い味がした
気付けば、手にあったおにぎりはどこかに行ってしまったかのように、綺麗に無くなって
満腹感ともう一つ、全く違う感覚に満たされる私がそこにはいた

「澪ちゃん・・・?」
「え?」
「なんで・・・泣いてるの?」
胸の底から押し寄せる温かさが目にまで達し、それは涙となって表出した
律が私のために、覚束ない手つきで真剣に握り、息を切らせながら走って届けてくれた
そのおにぎりが、ただただ嬉しくて、温かくて、美味しくて・・・どうしようもなかった
「うっ・・・・ええっ・・・・りっちゃあん・・・・」
「うわあ。澪ちゃんごめんね・・・塩辛かった・・・?」
確かに塩辛かったけど、そんなんじゃなくて・・・・
どうにも形容しがたかった、その涙の正体は。ただわかったこともある。それは
私はその日、友の温もりを・・・律の優しさを知ったということ
そしてもう一つ・・・この世で一番美味しいものを、知ったということ


「澪・・・?澪!」
「はっ・・・なに?」
「なんだよおボーッとしちゃってえ。」
いつの間にか思い出に浸っていた。熱のせいもあるのかなあ
「えっと・・・なんだっけ?」」
「何か食べたいものあるか?って」
そのリクエストの回答、候補を一つに絞るのは容易い、というか、最初から一つしかないか。
「・・・・おにぎり。」
「はいっ?」
「おにぎり・・・食べたい。」
あの日の感動を、温もりを、もう一度・・・この胸に刻み付けたいから。
「なんだよ、せっかく人がちゃんとしたの作ろうと思ったのになあ。」
「でも・・・おにぎりがいい!」
「ふー・・・しょーがないな!甘えんぼ澪しゃんの言うことなら聞くしかないっ・・・か!」
皮肉っぽく、だけど優しさのこもった声で笑い、下に降りていく律
「待ってろよー!おっにぎりおっにぎり!」
いつまでも待つよ。いつまでも


この世で一番美味しいもの。
それは・・・人の心。この世で一番の調味料
あの日の私が、初めて知ったこと

おわり


  • 人の心が一番の調味料か...素晴らしいな。 -- 名無しさん (2011-12-01 15:47:12)
  • 切ない話ですね -- アクティブ (2012-02-18 10:10:21)
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