けいおん!澪×律スレ @ ウィキ

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mioritsu

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「律、何でそんなに怒ってんだよ」
「別に怒ってないし」
「……ほら、怒ってるじゃん」
 澪は呆れたような口調でそう言うと、あたしの唇をむいっとつまむ。
「にゃにしゅんだー」
 体をよじらせて澪の指先から逃れると、澪に背中を向ける。
 と、その拍子、ベッドの枕元に放置してあった一枚の紙が視界に入って、あたしは小さくため息をついた。

 不機嫌の原因は、間違いなくこいつ。
 ……何が、前髪を下ろした姿も見てみたい、だよ。ひとりごちて横目で澪を見る。
「澪のばか」
「はあ? ……律、本当になんなの、さっきから」
 心底不思議そうに首を捻る姿に、今度はあたしが呆れる番だ。
「澪のせいで、あたしがどんだけ悩んだと思ってんだ」
「私のせいで? なんで?」
「……だから、それは……」
 思わず口ごもる。澪が書いた歌詞を、自分へのラブレターと勘違いして悶々としてました。
 ……なんて、口が裂けても言えない。
 この事実は誰にも言わずに墓まで持っていくと決めてんの、あたしは。

「な、なんでもないって。ていうか、あたし多分今日はずっとこんな感じだし、もう帰れば?」
「……なんか律、今日冷たい」
「冷たくない」
「冷たいよ。いつもはどんなに機嫌悪くても帰れなんて言わないだろ」
「…………」
 ああ、もう。こりゃもうダメだ、と思う。幼なじみの直感。
 澪はきっと、あたしの不機嫌の原因を突き止めるまでは腰をあげたりしない。
 こいつ、変なところでものすっごく頑固だから。
「……分かったよ。言えばいいんだろ、言えば!」
 半ばなげやりに言って、あたしは澪にその紙をつきつけた。

「これ……私の書いた歌詞?」
「澪が紛らわしい歌詞書くから、その……あ、あたしへの手紙だと思ったんだよ」
「…………」
 キョトンとした顔で、澪は瞬きをふたつ。そして、さも当たり前のようにこう言った。
「律への手紙でいいと思うけど」
「は?」
「いや、だって、私は律を思い浮かべてその歌詞書いたんだし、律への手紙ってのも間違いじゃないよ」
「い、いやいや、だって前髪を降ろした姿って……」
「お風呂以外で律が前髪下ろしてるところ見たことないもん。だから見てみたいなって」
「…………」
 なんか、澪の間抜けな(なんて言ったら殴られるから口には出さないけど)顔を見ていたら、一気に体から力が抜ける。
 ああ、なんていうか……澪には敵わないな、と改めて思う。
「そんなことわざわざ歌詞にしなくても、直接言えばいいだろ」
「ほんと? じゃ、取って」
「…………」
「ほら、取ってくれないだろ」
「……わーったよ」


 やれやれと肩をすくて、あたしは右手でカチューシャを取った。
 直後、長い前髪が視界に入って思わず顔をしかめる。と、そんなあたしを見て、澪は小さく笑うと、
「……前髪、クセついてるぞ」
 そう言ってポケットからブラシを取り出し、あたしの前髪をそっと梳かし始める。
 ……なんか、くすぐったい。それに、やたらに恥ずかしい。
「ほら、出来た」
「……ヘンじゃない?」
「全然。可愛いと思う」
「そ、そか」
 思わず口元が緩んで、慌てて右手で押さえた。可愛いとか、そんな言葉は……反則だ、ばか澪。
 急速に頬がかあっと熱を持ち始めて、こうして澪と向かい合って座っていることすら耐えられなくなってしまう。
 あたしはその場で勢いよく立ち上がった。

「あー、ほ、ほら、澪。ブラシ貸して」
「うん? なんで?」
「あたしも澪の髪梳かしてあげる」
「な、なに、突然」
「いーから」
 半ば強引にブラシを奪って澪の背後に回ると、あたしはその黒髪にそっと触れた。
 今のうちになんとしてもこの頬の熱を沈めなければならない。
 こんな恥ずかしい顔、絶対見せてやんないんだからな……澪には特に。
 そんなことを考えながら澪の髪をゆっくりと梳かしていく。

「しっかし、ほんと長いなあ」
「ずっと長さ変えてないからね」
「そういや小学生の頃から長かったもんな」
「うん、そうだな」
 穏やかにそう答えて、澪はそっと目を閉じた。
 最初は戸惑っていたようだったけれど、どうやら髪を触られるのもまんざらではなさそうだ。
「…………」
 ……そうだ。いいこと思いついた。
 ちょっとだけ、仕返ししてやろ。あたしの顔を真っ赤に染めさせた罪は重いんだぞ。

「長い髪の澪も可愛くて好きだけど、」
「うん?」
「でも、髪の短い姿も見てみたい」
「……イヤ」
「即答か!」
 思わずツッコむ。と、澪はクスリと笑って続けた。
「当たり前だろ。律が、綺麗な髪だねって言ってくれたんだから」
「なっ……」
「へへ、嬉しかったんだ、あれ」
「…………」
 あーもう、ほんっとに、あたしって……。
 治まりかけた熱が、再びこみあげてくる。
 そして思うのは、きっとあたしは、澪にこうやってずっと振り回されていくんだろうなあ、という確信に近い予感。
 ……もっとも、当の本人はそんな自覚なんて微塵もないのだろうけれど。
「澪には敵わんよ、ほんと」
「は? 変な律」
 不思議そうに言う澪に、あたしはただただ苦笑するのだった。


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