けいおん!澪×律スレ @ ウィキ

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mioritsu

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投稿日:2010/09/26(日) 12:21:01

「い、いらっしゃ……って、秋山さん?」
「た、立花さん……!」


部活も終えた午後六時。外はもう真っ暗だ。

私、立花姫子はローソンでアルバイトをしている。
学校から少し離れたところにあるので、桜高の生徒を見かける事は極稀だ。
一週間に数回誰かがやってくる程度で、あまりバイトをしている姿を見られたくない私にとっては好都合。
いらっしゃいませーなんて言ってる姿は恥ずかしくて見せられない。
だから毎日、何の気なしに接客するだけの日々だった。

でもある日突然、桜高の生徒がどっと押し寄せるようになった。
なぜだろうと考えていたけれど、その答えはすぐに見つかった。

(……うーん、この軽音部クリアファイルか)

レジの横に置いてある箱。その中には色とりどりのクリアファイルが入っている。
なんと桜高軽音部のメンバーがクリアファイルになっているというキャンペーンだ。
対象商品のお菓子を二つ買うごとに一つ、好きな女の子のファイルがもらえるとか。
まさか同じクラスの顔馴染みたちがキャンペーン商品になるとは夢にも思っていなかった。
唯は隣の席。律はクラスの人気者。琴吹さんはなんかよくわからんけどぽわぽわしてる。
えっと中野梓…ちゃん。話したことはないけど、ステージで頑張ってたなあ。
そして、秋山さん……いつも律と一緒にいて、恥ずかしがり屋な奴だ。
学園祭でロミオを演じた時はそんなの感じさせなかったんだけど……。


そしてその秋山澪が、私の目の前にいる。
店内にいるお客さんは秋山さんだけで、店内放送で流れている曲だけがBGMだ。
しかもその曲も秋山さんの歌う曲だから、私たちの気まずさをより煽る。
曲名は「NO,thank you」だったっけ。にしても歌上手いなあ……。

じゃないじゃない。そんな事呑気に考えてる場合じゃない。
あの秋山澪が! 目の前に客として来てるんだぞ!


「あ、えーっと……何買うの?」
「へっ? あ、そ、その……」

もじもじと顔を赤らめている彼女の腕の中に、お菓子が二つ。
……あれ、確かお菓子二つで何かもらえるキャンペーンやってたなあ。なんだっけ。
引っかかりを感じつつも、お構いなしに手を差し出した。

「買うんでしょ? 渡してよ」
「あ、その……これは」
「いいからいいから」

秋山さんの腕から商品を半ば無理やり奪い取った。

――けいおん!!やきそばパン
――ふわふわ時間わたがし

「……!?」

「あ、そのっ、これは……」

な、なぜこいつが自分の商品を……。売上に繋がるとかそういうことなのか?
秋山さんは秋山さんで慌てている。買いに来たのだからそこまでどぎまぎしなくてもいいのに。
それとも自分の出ているキャンペーンの商品を自分で買うことを見られたくなかったとか。
そりゃそうだよな……私が秋山さんなら見られたくないよなそんな場面。

「ご、ごめん……見なかった事にするから、会計」
「あ、ありがとう」

秋山さんがけいおんのお菓子を買ったことを、私は頭の中で消すことにする。
そしていつものようにピッピッとバーコードを詠みこんで、レジスターの表示を見る。
表示された金額を秋山さんに伝えると、彼女はピッタリで渡してきた。
こっちとしてはありがたい。それとも気を遣ってくれたのだろうか。

「袋は……」
「できればあった方が」

最近はエコだとかで、袋を断る人も増えているけど彼女はそうでもないのか。
下の棚から袋を取り出してお菓子を詰める。パンだから潰れないように丁寧に。
詰め終わって顔を上げると、秋山さんはレジの横の方を見つめていた。
視線の先を追うと、なんと軽音部のクリアファイルに行き着いた。

(……そうか、秋山さんもこれ目当てか)

でも二個で一種類だから、一人のファイルしかもらえないはず。
記念になるから自分のでも貰って行くのだろうか。
私は袋を差し出しながら、言った。

「キャンペーンで、クリアファイルもらえるけど……どれにするの?」

間髪いれずに自分の奴を選ぶかと思った。
でも、秋山さんは私の顔をチラチラと窺っていて、落ち着かない様子である。
そりゃ自分の奴を選ぶのは人に見られたくないよなあ……。
もしかして「なんでレジが立花さんなんだ……はあ運悪い」とか思ってるのかも。
私が秋山さんならそう思うだろうし、彼女も思ってないわけない。
なんとなく罪悪感。それと申し訳ない気持ちでいっぱいになる。

……秋山さんは、まったくクリアファイルを選ぼうとはしない。
まさかどれを選ぶのか迷っているのか? てっきり決めていると思ったんだけど。
だってお菓子二個だし。二個で一枚。ということは一つしか選べない裏返し。
彼女自身が二個を持ってきたということは、最初から決めていると考えてもおかしくない。
だとしたら、どうして選ぶのに迷ってるんだろう。

「誰選ぶか、決めてたんじゃないの?」

私は見かねて口走ってしまった。
秋山さんは、また照れた顔色で返してくる。

「き、決めてたけど……立花さんが見てるから」
「そうなんだ……? ご、ごめん。さっきも言ったけど、からかわないし誰にも言わないから、どうぞ」
「――ほ、本当に誰にも言わない? どれ選んだとか、私がお菓子買った事とか」

彼女は、私が『秋山澪が軽音部のキャンペーンのお菓子を買ったこと』。
そして『●●のキャラのクリアファイルを買った』と言い触らすのが怖かったのか。
失敬な、そんなキャラじゃないぞ私は。さっき見なかったことにすると約束したし。

「言わないよ。秘密にするから遠慮なく」
「じゃ、じゃあ」

秋山さんは、ゆっくり手を伸ばす。
選んだのは――

田井中律の、黄色いファイルだった。


「なぜ律?」
「な、なんでって、律のが欲しかったからとしか……」


欲しかった。秋山澪は、田井中律が。

ふと、教室で一緒にいる二人の姿が頭に浮かんだ。


――そうか、そうだよな。

教室で見る二人は、とても幸せそうだ。
律が冗談言って、秋山さんがそれに突っ込んで。時には手を上げたりするけど……。
でもそんなことすら、二人の中では愛情の確認でしかないのだろう。

時に秋山さんが弱気になる時、その傍にはいつも律がいて。
時に律が秋山さんに甘える時、その時秋山さんは呆れつつも微笑んでる。
二人の関係は、私たちクラスメイトとは次元の違う遠い世界みたいなものだ。
お互いがお互いの事、一番大好きなのを知ってるんだろう。
だから、相手の絵柄のファイルだって欲しい。

だって愛する人の、キャンペーンのクリアファイルだものな。
記念に欲しいと思ったって、何の罪も弊害もない。
秋山澪が田井中律を求めるのは、ごく自然な事だって、私もよく知ってるじゃん。


秋山さんは、律のファイルを大事そうに袋に入れた。
彼女が袋を欲しいと言ったのは、そういうことだったのか。
ファイルを大っぴらにしながら歩くのが、恥ずかしかっただけ。
秋山さんは、ファイルが折れ曲がらないようにするためか大事そうに抱える。

私は声をかける。

「気をつけて帰ってね、秋山さん」
「う、うん……立花さんも、バイト頑張って」
「あ、それと」
「……?」

私は、一つだけ気付いたことがある。
『私は、秋山澪が田井中律を……律のファイルを選ぶのは当然』と先ほど気付いた。
『当然』だと気付いたんだ。そりゃそうだよなって、私は気付いた。
だとすれば――。

「私、今日の事誰にも言わないけどさ…」
「うん」
「――やっぱり何でもないかな」

秋山さんは、ちょっと微笑んで別れを言った。
私も次いで別れの言葉を言う。どうせ、明日同じ教室で会うことになるのね。
秋山さんの後ろ姿は、私に見られた事を、もう恥じてはいない様だった。
恋人の描かれたファイルを、大事そうに抱えて歩いて行く黒髪の彼女。
なんとなくルンルンしてるような雰囲気を、踊らせる髪から醸し出していた。


その二時間後、カチューシャをつけた誰かさんが来たのは秘密だ。
どれを選ぶの? と聞くまでもなく、黒髪の彼女を選択する。
そうだろうなあと、二人の関係の強固さを改めて実感した。


さっき私が、秋山さんに言いかけた事。
私は、秋山さんが律のファイルを選んだことなどを言い触らさないと決めている。
だけど、普段からあんなにイチャイチャしている二人なのだ。
他のクラスメイトが気付かないはずがないだろう、と。




次の日の朝。登校してくると、教室はいつもより騒がしかった。

「昨日ローソン行ったんだ」
「え? まさか軽音部のキャンペーン目当て?」
「うん。私、秋山さんのファイルもらっちゃった!」

……浮き浮きしてるのは佐々木さんか。そういや澪ファンクラブだったかな。
地味に澪ファンクラブって多いんだよな。律に勝つことなんてできやしないのに。
それとも律に勝てないと最初からわかってFCに入ってんのかなあ。

どうやらクラスメイトの大半は、軽音部のキャンペーンの話をしている。
私の店には来なかったくせに、結構皆ローソン行ってんのな……複雑だ。
バイト姿を見られたくないけど、客が他のローソンに流れてるのは。
駅前のローソンの方がやっぱり皆行きやすいのかね。

私が席に座ろうとした瞬間、わっとクラスが盛り上がった。
入り口に目を向けると、お待ちかねの軽音部御一行の到着だった。
その姿に、クラスメイトは一気に駆け寄っていく。

「唯ちゃんのファイルもらったよー」
「律、お前何かっこつけて写ってんだよ!」

照れているような愛想笑いでクラスメイトの感想を迎える四人。
私は一人で席に座って、その様子を頬杖をついて見ていた。
私は買ってもいないし、わざわざファイルの感想を言うまでもないと感じた。

私が澪なら、誰かが律のファイルを選んだことを快くは思わない。
私が律なら、誰かが澪のファイルを選んだことを快くは思わない。
独占したいと、思うはず。
自分の大好きな人が描かれたファイルを、自分以外も持ってるなんて。
あんまり二人はいい思いしないよなあ……。

そんな想いにふけっていた時だ。

「当然、澪ちゃんはりっちゃんのだよね!」

そんな声が聞こえた。この声は、三花だ。
続いて誰かも言う。多分だけど、ちかだ。

「律もどうせ澪の奴もらったんでしょー?」

なんでばれてんだ? という顔で、律と澪は顔を見合わせている。

ほらほら、やっぱりだ。

昨日言おうと思ったこと。

お前ら普段からイチャイチャしすぎなんだよ。
だから、バレるんだよ。

どうせ、澪は律を、律は澪を選ぶこと、皆最初から知ってるんだよ。
だから、私が言いふらすまでもなく、皆わかってるんだ。


秋山澪は、田井中律が好き。
田井中律は、秋山澪が好きってな。



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