けいおん!澪×律スレ @ ウィキ

SS96

最終更新:

匿名ユーザー

- view
だれでも歓迎! 編集
投稿日:2010/07/11(日) 19:35:17

紬と二人で遊びに行って以来、律と紬の距離は一層近くなっていた。

夏休みもそろそろ終わりに近付いた頃、律は澪に電話を掛けようと携帯を
手に取った。
澪の電話番号は指が勝手に押してくれる。アドレス帳に登録してあるので
それでかければいいのだが、小学生の頃からの癖だろうか、律は何故か
澪に電話を掛けるときは必ずボタンプッシュだった。だから澪の電話番号を
覚えているのなんて当たり前だった。

携帯をぱかり、と開け数字を押していく。
と、突然その携帯が震えて律はうわっと大袈裟に驚いて、携帯を落としそうになった。
それを寸前で受け止め、ディスプレイを見ると『ムギ』とあった。

「ったく、驚かせるなよなー」

律は呟きつつ、電話に出た。

「ムギー?どしたの?」
『あ、りっちゃん。良かった、家に居たのね!』
「まあ、家だけど……。携帯だから家とか外とか関係ないんじゃないか?」
『え、そうなの!?』
「はは……、それで?」

律は苦い笑みを浮かべると、用件を尋ねた。一瞬、向こうがすっと息を
吸い込んだのがわかった。暫くの沈黙に耐えかね、律が名前を呼ぶと
慌てたような紬の声が返ってきた。

「ムギ?」
『あの、あのね!』
「何?」
『あの……、今日、今日ね!』
「うん」
『今日、りっちゃん暇?』
「うん、暇だけど」

頷くと紬は電話の向こうでよかったーっと言って息をついた。
凄く嬉しそうな笑顔を浮かべているんだろうな、ということは離れていても
わかった。

『暇なら今日、一緒に遊ばない?』

それは要するに、以前と全く逆の、デートのお誘いだった。

*

待ち合わせ場所の駅に行くともう既に紬は白い清楚なワンピースを着て待っていた。
律は手を振ると、紬の隣に走った。紬は「突然ごめんね」と言って他愛も無い会話を
開始させながら、二人は歩き始める。

「で、ムギはどこに行きたいの?」
「うーん、りっちゃんと一緒ならどこでも良いわ」
「そう?」

律は首を傾けると「それじゃあ今日はなー……私の家の周辺でも散歩するか!」
それを聞くと紬は目を輝かせ大きく頷いたのだった。

 まず手始めに向かったのはよく澪と遊んだ公園だった。

「うわー、高校は行ってからあんまり来なかったんだよな、ここ!懐かしいー!」

律がそう言って紬のほうを向くと、もう既にそこに紬の姿は無く、早速珍しいのか
埋ったタイヤに走り寄っていた。
そんな紬を追いかけながら、律は頭のどこか片隅でそういえば、と思い出していた。

そういえばあそこで、よく澪とドラムの練習、してたっけ。
まあ澪はただ傍で砂を弄ってただけなのだが。そして何気ない一言も
ちゃんと聞いてくれていて。傍に居るだけで、何の会話もしていなくても楽しかった。

澪、今どうしてるかな。やっぱり勉強してるのかな。

律がそんなことを考えていると、紬が「りっちゃん!」と現実に引き戻した。

「え、何?」
「りっちゃん、ほら、あれ乗りに行こう!」
「あれ?あれってブランコ?ムギ、乗ったことないの?」
「ううん、一度だけあるわ。でもたった一度しかなくて、ずっと立ち乗りに
憧れてたの!」

ということで、紬は今度はブランコへと走っていく。律も半ば強引に連れて
行かれる。
そして、いつのまにかブランコに乗せられていた。紬は隣のブランコに座り
嬉しそうに漕いでいる。
ここに私たち以外の人間がいなくて良かった、と律は密かに思った。

あ、澪。

ふいにまた澪の顔が頭に浮かんだ。そういえばよく、澪とブランコに乗ったっけ。
二人乗り。
怖がる澪をからかってぶんぶん飛ばしたっけ。それである日調子に乗りすぎて
ブランコから落っこちて膝を擦り剥いたのを見て、泣きながらも助けを呼びに
走ってくれた。あの、人見知りの澪が。

隣の嬉しそうな紬の声を聞きながら、律はそういえば、そういえばと澪のことばかり
思い出していた。

ここは澪との思い出が沢山詰った場所なのだ。

*

公園での遊びに飽きてきたのはもう昼時だった。
家を出てきたのが10時過ぎだったので、かれこれ2時間ほどここで遊んでいた
ことになる。よくその間に人が来なかったな、と律はほっとした反面、
「まさかムギが……」なんて思っていたりした。
けどそんなはずないよな、と思いなおし、隣で満足そうに歩く紬に訊ねた。

「そろそろ何か食べようか?」
「えぇ、そうね」

ということで二人が向かったのは駅前のファストフード店、ではなく律の家の
近所にあるコンビニだった。「りっちゃんの家に行きたい」と紬が言ったのだ。
コンビニでいくつか昼ごはんとついでにお菓子をどっさり買い込んで律の家へと
向かう。途中、『秋山』という表札のかかった家の前を通ると律は思わず立ち止まった。
これも癖なのか、澪の家の前を通ると勝手に身体が反応するのだ。

澪、いるかな。

立ち止まったまま家を見上げた律を見て紬はやっぱり少し強引に律の腕を掴んで
前に進ませた。

「ちょ、ムギ?」

澪の家が見えなくなると、紬はほっとしたように掴んでいた律の腕を離した。
「ごめんなさい」とだけ言うと、何事もなかったかのように歩き始める。
律も何となくそれ以上聞けなくて、無言で歩いた。

律の家に着くと、誰も居なかった。がさごそと鞄から鍵を探す律の横で、
紬が尻尾をぱたぱた振る子犬の如く横でワンワン、いや、きゃっきゃしていた。
そんなに庶民の家を見れて嬉しいのだろうか、なんて思いながら紬を家に入れて
部屋に通した。

「りっちゃんの部屋、素敵ねえ!」
「へへ、そうか?ま、適当に座って」

コンビニ袋を下ろすと、律ははーっと溜息をついてエアコンの電源を入れた。
それから少し遅めのランチタイム。そして少し早めのティータイム。
家の台所から探してきた紬の口に少しでも合いそうな紅茶を自ら淹れてやり、
出すと紬はそれを目を輝かせながら嬉しそうに飲んだ。

ほんっとにムギって好奇心旺盛だよな。
あ、このお菓子、前澪が美味しいって言って騒いでたっけ。

紬の様子を見て時に突っ込みつつ頭の中で考えていると、やっぱりいつのまにか
浮かんでくるのは澪のことばかり。律はそんな自分に呆れ、必死で違うことを考えようと
するのだけど上手くいかない。

さっき澪に電話しようとしてしなかったからかなあ。それでこんなに気になってる
のかも。

夏休みの間は必ず一日二回は電話している。午前、午後で一回ずつ。
多い日はもっとだけど。

と、突然階下からインターホンの音が聞こえ、鍵が開き聞きなれた足音が
上ってきた。考える間も何をする間もなく、ドアが開いた。そこに立っていたのは
紛れも無く今ずっと頭の中で思い浮かべていた人物で。

「みお……」

*

澪はドアを開けたままの態勢で何秒間かくらい動きを停止させた。

「おーい、澪ー?」

立ち上がってぱたぱたと目の前で手を動かすとはっとしたように律、そして紬を
交互に見、徐に口を開いた。

「ごめん、邪魔した」
「はい?」

そのままパタンとドアを閉めて帰っていきそうな澪を律は慌てて手を掴んで
止めた。

「邪魔したって何。別に邪魔じゃないし、な、ムギ?」
「え、あ、うん」

突然話を振られて、紬はこくこく頷いた。澪は複雑そうな表情をすると、
律を見た。

「ま、座りなって。暇だったら澪も一緒に遊ばない?」
「いいの?」
「いいっていいって!」

上機嫌で澪の肩を無理矢理押して部屋に引き入れ座らせた。
そこでやっと、律は今澪に会いたかったんだということに気付いた。

「にしても、何で突然うちに来たんだ?合鍵まで使って」
「いや……、律から電話が来なかったから、だからその……」
「心配だった?」
「ばっ……、そんなわけないだろっ!」
「はいはい」

赤くなる澪に、それを嬉しそうにからかう律。
いつもはその光景を見て自分まで心が躍るのに、今はどうしてか見ているのが
嫌で紬は目をぱっと逸らした。

澪ちゃん、りっちゃんの家の合鍵持ってるんだ、それに毎日電話してるのかな?
なんて考えて、紬は胸の奥がぎゅっと締め付けられ、俯いた。
そんな紬の様子に気付き、律が声を掛けた。

「ムギー、トッポーいるか?これ、ムギの好きな味だろ?」

大好きな笑顔で。

紬はそれでわかってしまった。自分じゃりっちゃんの笑顔の元になれないと。
澪ちゃんじゃなきゃ駄目なんだ、って。
公園で遊んでいるときも、薄々気が付いていた。律は自分の傍にいながら遠い
ところを見て、そして何か考えているようだった。
そして自分じゃ気が付いていないかも知れないけれど、律は紬との会話の最中、
何度も「澪」の名前を呼んだ。

その時、澪ちゃんには勝てない、と感じてしまった。

紬は立ち上がると、「ごめんね、用事思い出したから帰るわ」と言って
律を見た。紬の浮かべた笑顔があまりに痛々しくて、律は僅かに顔を顰め、
そして思わず立ち上がった。

*

「ムギ、ちょい待って」

そう言うと、紬の手を引っ張り、居た堪れなくなったのか立ち上がりそうになった
澪にも「待ってて」と言い置いて部屋の外に連れ出した。

「どうしたんだ、ムギ」
「え?」
「急にそんな顔してさ。……なんていうか、すっごい悲しそうっていうか」
「そんなこと……」

そこまで言って、紬は慌てて俯いた。突然泣きそうになったのだ。
そして、心の中でりっちゃんのバカ、と普段は言わない言葉を並べる。
何で気付いてくれないの、と。

「ムギ、大丈夫か?」

そんなことは知らない律は俯いたムギの顔を覗きこんで訊ねた。
それがあまりにも優しくて、紬は律の無防備な胸に飛び込んだ。

「む、むぎ……!?」

突然のことで、律はどうしたものかと慌てた。紬の肩は震えていた。
泣いてるのか……?
律は突き放すことも出来ずに、躊躇いながらも紬の身体を抱きとめた。
ちらりと部屋のほうを見ると、ちくりと胸が痛んだ。
罪悪感と呼ぶのが一番ふさわしいんだろうな、なんて。

「りっちゃん……」

突然、紬が律の名前を呼び、律ははっと身構えた。
紬は律の胸に顔を押し付けたまま、まだ少し声を震わせながら言った。

「私、りっちゃんのこと好きなの」
「……え?」

突然の紬の告白に、律の思考は完全に止まってしまった。
ドア一枚隔てた律の部屋から、微かに物音が聞こえた。澪も聞いていたらしい。
紬は、律に話す隙を与えず続けた。

「でもね、りっちゃんは今日だってずっと他のこと考えてたでしょ?多分、
澪ちゃんのことばっかり。本当のこと言うとね、私、澪ちゃんに少しだけ妬い
ちゃったの。でも……」

そこまで言うと、紬は顔を上げて律を見て、そしてあの満足げな笑みを浮かべた。

「でも、私、一番澪ちゃんといるときのりっちゃんの笑顔が大好きだから」

そう言うと、「今日はありがとう」と紬は律から離れて軽快なテンポで階段を
下りていった。律は後を追わずに、一人ぽつりと残されたそこで「ごめん」と
呟いた。そして、「ありがとう」と。紬の言葉で律は自分の想いに気付いた。
そして紬が自分を想っていてくれたことに関して「ありがとう」。

暫くそのまま、パタンと閉まった玄関の扉を見詰めると、律は大きく深呼吸して
自分の部屋の扉の前に向き直った。今の気持ちを伝えなきゃ。
何となく、今伝えなきゃ、とそう思って、律はそれが逃げないように
勢い良く澪の待っている部屋の扉を開いた。

*

「澪!」
思い切り名前を呼び、扉を開けると、澪は律のベッドの傍で
クッションを抱えながら丸くなっていた。
律が入ってくると、一瞬だけびくり、と身体を震わせ反応した。
けれど、顔を上げずにそのままの態勢を崩すことは無い。

怒ってるのか?

律は内心焦りながら、澪にそっと近付いた。
澪の隣に腰を下ろすと、そっと声をかける。

「澪ー?」
「……」
「なあ、澪ー」
「…………」

無視。悉く無視。律は溜息をついてベッドに凭れ掛った。

「澪、怒ってるのか?」

そう訊ねると、澪はばっと顔を上げた。やっと反応した澪は、泣いてこそいないが
その大きな瞳は涙でいっぱいだった。

「怒ってないっ!」
「じゃ、何で……」

澪の勢いに圧倒され、律が小さな声で訊ねた。すると澪は赤くなり、そっぽを
向いて答えた。

「……怖かったんだ」
「何が?」
「律が、離れていきそうで。律が……、ムギにとられちゃいそうで」
「……、そんなわけ」
「だって、最近よくムギと遊んでたし、電話でもムギの話ばっかりで……。
律が離れちゃうんじゃないかって……。それに今も」
「ばーか」

澪の言葉を遮り、律はそう言うとはあ!?とこちらに顔を向けた澪の唇に
自分のそれを重ねた。

一瞬だけ触れた唇を離すと、今度は律が照れたようにそっぽを向いた。

「私はずっと澪の傍にいるよ。ほんとのこと言うとさ、私、今日だってずっと
澪のことしか考えてなかった。多分私は、澪と一緒に居ることが一番自分らしく
いられることなんだ。澪から離れるなんて、そんなわけないだろ」

不意打ちのキスをくらい、一時停止していた澪はその言葉を聞くと、そっと
律の手に自分の手を重ね、「ほんとに?」と訊ねた。

「ほんと。当たり前だろ」

いつかどこかで交わしたような会話。お互い照れ臭くて、くすくすと笑った。
と、ふいに澪が真面目な顔をして律の額に自分の額をくっつけた。

「律、顔赤い」
「なっ……」

本日二度目の口付けは甘く甘く。

「律、大好き」
「ん」



  • ムギ→律澪 って切ないけどいい。 -- 名無しさん (2012-04-28 21:09:30)
名前:
コメント:

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

記事メニュー
目安箱バナー