697 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/08/05(水) 23:25:50 ID:eUYW8AjG

南3局。衣の親番ドラは中。
京太郎は追うと宣言した手前そろそろ動き出すはず、衣はそう確信していた。
ラス親が残っているとはいえ、点差を考えれば安手では和了りにくい。
少なくとも満貫クラスを京太郎にとっては和了りたいところである。

だが、6巡目。

「チー」

京太郎は一から出た3mを12mで鳴き、索子を切り出す。

(チーですって!?)
(染め手……?)

チーをしつつ満貫クラスを作るには、ドラ中抱え、もしくは清一が必要だ。
鳴いたために手は進んだが、狙いが分かりやすくなったのはデメリットとも言える。
そして次巡、京太郎からドラの中が切り出された。一も透華も、抱えていた中を合わせ打ちする。
これでほぼ狙いは清一と絞られた格好だ。

そして12巡目、京太郎から初めて萬子が切り出された。

(張りましたわね……役は萬子の清一、一通も付けば跳満の手)
(でも、もう萬子なんか誰も切らないよ)

一と透華は筒子と索子ばかりを切るベタオリに走った。
14巡目、衣の手牌。

345m555678s2477p ツモ7m

タンヤオ、カン3p待ちの時に危険牌7mをツモってきた。
衣の後ろで見ていた智紀が厳しい表情を見せる。

(7m……これはさすがに切れない)

だが、智紀の予想に反して衣は迷わず7mをツモ切った。
驚愕する一同。だが、ロンの声が発せられることはなかった。
衣には、通るという確信があった。

(あの男の牌からは強大な気配は感じない……まだテンパイには至っていない!)

その後も危険牌8mを切るなど、衣は強気を貫いた。
だが、流局間際の17巡目、その表情が愕然とすることになる。


698 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/08/05(水) 23:27:00 ID:eUYW8AjG
「チー」

なんと京太郎は、一から出た6pを78pで鳴いたのだ。

(な、何ですって?)
(え、これって……まさか、形式テンパイ?)

ドラの中は全部見えている、他の役牌の可能性も消えている。
これではもう、和了れる可能性すら残っていない。
ノーテン罰符を避けるための形テンにとったというのが妥当な考えだろう。
この点差なのに、形テン。しかも、今の鳴きで海底がずれ、衣になった。
常識的には考えられない鳴きである。

衣は、呆然とした。
直後、激しい憤りが湧き上がって来る。

(あれだけの大口を叩いていて、形テン……?なんだ、それは!
 ならば、そのまま衣の海底で生路を絶つのみだ!)

その巡、衣のラス牌。掴んだのは、生牌の北。

345m123678s2399p ツモ北

北をそのまま切ろうとした衣だが、その手が止まる。

(……衣、どうしたの……)

後ろで見ている智紀には、何が何やらわからなかった。
北は生牌とはいえ京太郎の役牌ではない。迷わず切れるはずの牌だ。
それなのに、切ろうとしない。それどころか、衣の額には汗まで浮かんでいる。

(なんだ……この感じは……)

京太郎の手牌から感じる気配は微々たるもの、決して高い手などではない。
この点差なら振り込んでも問題はないし、そもそも役もない。
迷わず切れるはずの牌には間違いない、それなのに、手が止まった。
何やら得体の知れぬ悪寒を、その北から感じたのだ。

(いや、ここで北を切らないのはありえない。だが……)

京太郎の点数は残り1700点。次の海底牌の1pでツモると、海底ツモ平和で700・1300。
1000点残して、オーラスに突入される。
しかしリーチをかけると、リーチ一発海底ツモ平和で満貫。京太郎は飛び、衣の勝利が確定する。
普段の衣なら、ここはリーチをかけない。相手の点数を飛び直前まで減らし、心を折る。
だが、この目の前の男は、全く得体の知れない相手である。
数々の強豪校を沈め、その県に悪名をとどろかせている。
そして衣の圧迫感にも全く動じず、逆に圧倒するほどの気配を秘めている。
オーラスは京太郎が親。7万以上の点差があるとはいえ、麻雀は何が起こるかわからない。
リーチをかけて飛ばすべきか、それとも普段通りに打つべきか。

衣はこの半荘で、初めて長考に入った。
そして、導き出された結論は。



「リーチ!」

狙いはリーチ一発海底ツモ平和の満貫。京太郎は2000点を吐き出し、飛ぶ。
京太郎を飛ばすために、衣はリーチをかけた。
衣にとって、痛恨となるリーチを――――――――

772 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/08/16(日) 23:04:58 ID:RER7fCjO

京太郎の右手が、ゆらりと動いた。

「…………カン」

衣の北を大明カンした時、衣ははっと息を飲んだ。脳裏に咲の姿が浮かぶ。
大明カン後に嶺上開花でツモった場合、生牌を切った人の責任払いが発生する。
京太郎の手は衣が察する限り高くはない、ツモられても大した被害はない、だが。
人差し指一本でカシッと新ドラを表示する。そこに現れた牌は、西。

「なっ……ドラ4だと!?」

さらに京太郎は畳み掛ける。今引いてきた4pを表にすると、さらに手牌3枚を倒した。

「もういっちょ、カン」

衣の和了り牌である4pで暗カン、裸単騎に受ける。
そして新ドラは、何と3p。またも新ドラがもろ乗りし、ドラ8の怪物手になった。

(なぜだ……気息奄奄としていたはずの手が、なぜこんなことに……)

改めて衣は須賀京太郎という男に畏怖の念を感じる。
嶺上牌に手を伸ばす京太郎。ツモられたら嶺上開花ドラ8の倍満である。
衣はぐっと目をつぶって祈った。頼む、引かないでくれ―――――



そして京太郎は、和了ることなく新たに引いてきた嶺上牌で裸単騎に受けなおした。
嶺上開花、実らず。思わず衣はほっと安堵の溜息をついた。

(助かった……嶺上開花さえ無くば、あの男は役なし。ドラ8だろうと…………)

そこで、再び衣が息を飲む。
今の2回のカンで海底牌がずれ、再び海底をツモるのは衣になった。
そしてその牌が京太郎の裸単騎に刺されば、河底撈魚ドラ8の倍満直撃となる。

「ようやく気付いたようだな、天江先輩」
「……最初から、これを狙って……」
「そういうことさ、あとはどちらの運が強いか勝負だ。
 あんたが海に映る月を撈い取るか、俺が河の底を泳ぐ魚を撈い取るか」


773 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/08/16(日) 23:06:58 ID:RER7fCjO
透華が切り、衣が震えながら海底に手を伸ばす。
本来海底がずれても、衣が海底でツモ和了るとしたものである。それが衣の持つ天運なのだ。
だが、衣と同等、もしくはそれ以上の天運を備えたものが同卓していたとしたら。
それは必ずしも、衣の望む牌とは限らない。

衣がツモった海底牌は、和了り牌の1pではなく、2p。
京太郎に通っていない、2pだった。



そのまま2pが切られると、京太郎はパタリと牌を倒した。

「ロン。河底撈魚、ドラ8。倍満だ」



        衣:57000
一:12500         透:11800
        京:18700



現実を受け入れられないのか、誰一人言葉を発することができない。
そんな中、京太郎は微笑を浮かべながら、静かに言った。

「気持ちが押されているから、軽々に勝ちに走る」

衣がはっと顔を上げる。

「勝ちを急がなきゃ勝てた、ただリーチを我慢するだけで勝てたのに……
 クク……意外に臆病だな、天江先輩……」

その言葉で光を失いつつあった衣の目に、再び炎が灯った。
歯をかみ締め、京太郎をキッと睨む。

「……まだ、オーラスがある。私が和了るだけで決着だ」
「ああ、そうだな。あんたが和了るか、俺が役満をツモるかで決着だな」

空に昇る月に陰りはない。衣の気力も再び充実してきた。
ついに激闘の最終章が始まる。その点差、38300。

833 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/08/22(土) 02:54:01 ID:zL9Ru3SQ

迎えたオーラス。親は京太郎、ドラは西。
衣は倍満の直撃を喰らったとはいえ、まだ大きくリードしている。



衣の配牌
145m2345s3346p東南

(きた…‥好配牌……!)

後ろで見ていた智紀は改めて衣の天運に感心した。
トップでオーラスを迎えた衣にとって、高い手は必要ない。
今欲しいものは、役牌暗刻やタンヤオ等軽くて早い手。まさにこの配牌のような手である。
点差を考えると京太郎はただ和了るだけではなく、できるだけ高い手作りをしたいところだ。
当然その分手は遅くなる。おそらく衣のスピードには勝てないだろうと智紀は思った。



京太郎の配牌
1799m1479s2468p發 ツモ9p

(酷い配牌だ……こいつの悪運も、ここまでか……)

純は密かに京太郎の負けを確信した。
この高い手が必要な状況で、高くもなりそうもない上に軽さもない配牌である。
だが、京太郎の表情にはいささかの落ち込みも見られず平然と發を切り出す。
どうする気なのか、純には見当もつかなかった。



しばらくは鳴きも入らず、静かに場が進んで行く。
一と透華が異変を感じたのは、中盤に差し掛かった頃である。
首元にまで、海に引きずりこまれたかのような感触を覚えた。

(これは、また衣が……)
(こんな時に、何てことですの……)

一の手牌
333666m899s555p中

透華の手牌
19m1s19p東東南西西北白発中


一も透華も、衣への直撃で逆転も可能な役満の兆しがある。
そこで再び襲ってきた、一向聴地獄へと向かうあの感触。
そして、その予感は現実のものとなるのだった。


834 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/08/22(土) 02:56:04 ID:zL9Ru3SQ
13巡目。

(これが、満月の衣の力……相変わらずだ)
(くっ、また無駄ヅモですわ!)

一向聴になってから、一と透華はずっとツモ切りである。
もともと一も透華も、テンパイに至るための有効牌はほとんどない。
だが、それが数の問題ではないことは衣と過ごしてきた二人は重々承知している。
二人は、海の中から抜け出せないでいた。



だがそんな二人も、いや、純も智紀も衣も、全く想像していなかった異変が起こっていた。



衣の手牌
3456m2345s33456p

(どういうことだ……この奇怪千万は……!)

衣はずっと前に一向聴になっている。
しかも萬子も索子も大体何を引いてもテンパイという圧倒的な待ち受けの広さだ。
タンヤオなので鳴いて喰い仕掛けに移行することもできる。だが、全く張ることができない。
今、透華から5sが切られる。これも鳴いても張れない牌。
衣も一と透華同様、ただひたすらツモ切りを繰り返すのみだった。

だが、京太郎だけは違った。


835 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/08/22(土) 02:59:12 ID:zL9Ru3SQ
15巡目。

京太郎の手牌
1178899m789s899p ツモ7p

(あの配牌から、跳満を張りやがった!)

酷い配牌だったのもの、京太郎は次々と有効牌を引き入れ続けた。
そして9pを切った京太郎はついにテンパイ、ペン7m待ち。
役は純全三色イーペーコー、親っパネ。18000点の大物手だ。
純の頬に冷や汗が流れる。



そして一と透華が海から抜け出せず、衣もツモ切りを繰り返す中、終局間際の17巡目。

京太郎の手牌
1178899m789s789p ツモ7m

ついに京太郎は、和了り牌である7mをツモった。
これで衣との点差は24000点縮まり、14300点となる。
そうなれば、もう勝負はどう転ぶか誰にもわからない。
次に親満でもツモれば、一時期70000点以上もあった点差がひっくり返り、京太郎の大逆転勝ちだ。



純は当然、京太郎が和了るものだと信じて疑わなかった。
だが、京太郎はそんな純の思惑を裏切り、驚愕の行動に出る。

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最終更新:2009年11月29日 15:54