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 照さんが東京に帰ってから、もう三日が経つ。
そして、連絡はまだ来ていない。むむ…一体何故だ?しかし咲にそのことを聞くのはちょっと気まずい。
それに咲からもその話題には触れてこないからな…
ああー。もう!なんで連絡くれないんですかぁ、照さん…。
一日が一日が過ぎていく度に、俺の不安は積もっていくばかりだ。

 *

 俺が照さんを好きになったのは、夏の全国大会で再会した時だ。
正直言って、一目ぼれだった。いや、初めて会ったわけじゃないから、それを一目ぼれと言うのはおかしいかもしれないけど。
久しぶりに見た照さんは、昔と比べてすっかり大人っぽくなっていた。何というか、大人の色気が出てきたというか…まぁそんな感じだ。
すごく美人で、それでいて可愛らしい。

 気づいたら、俺の足は照さんのほうへと向かっていた。そして、いつの間にか連絡先を聞いていたんだっけ。
大会が終わって、長野に帰ってきてからも、ずっと彼女のことが頭から離れなかった。
授業中、部活中、下校中、風呂に入っている時、寝る時。とにかく、四六時中俺の頭の中は照さんのことでいっぱいだったな。

 最近では、月に二回のペースで照さんが長野に帰省していると咲に聞き、それを聞いては照さんに電話をかけて、なんとかして二人きりで
会えないかと、色々と計画を立てた。だけど、いつもいつも都合が合わなくて、結局は会えずじまい。

 そんなこんなで一カ月、二か月が経ったある日。秋の土・日・月、この三連休を使って、また照さんがこっちに帰ってくるという情報を
咲から聞いた。帰ってくるのは金曜の夜から。これだけ長い間こっちに滞在しているなら、さすがに一日くらいは会うことができるだろう。
そう思って、俺は覚悟を決めた。いつまでもこんなに苦しい思いをするのは嫌だ。返事はイエスかノーのどちらでも構わない。
早くこの俺の気持ちを伝えて、すっきりさせたい。自分自身に決着をつけたい。

 そんなこんなで、俺は買いたいものがあるから付き合ってほしいと言い、二人きりで会うために照さんを誘った。
我ながらその胡散臭い口実はどうかと思ったけれど、この際デートに誘えるのなら、もうなんでも良かった。とにかく会って話がしたい。
ただ、それだけだった。
 しかし、俺の住んでいる地域は、あまりにも田舎すぎて、デートスポットと呼べる場所が何もない。
それに、ここで照さんと二人でぶらぶらしたとしても、知っている人に鉢合わせする確率が高いと思った。もしかしたら部活のメンバーと
も。それだけは何としてでも避けたい。さすがにそんなところを目撃されるのは、俺も恥ずかしいからな…。照さんだってきっとそう思う
だろう。だから、俺達は隣町まで行くことにした。そこなら友達とよく遊びに出かけるし、安い店もそれなりに知っている。

 *

 そしてデートの当日。俺は緊張しすぎて、かなり朝早く目が覚めてしまった。顔を洗って、歯を磨き、服を着替えてとりあえず出かける
準備をする。約束の時間まではまだ早いけど、家の中にいるのもなんだか落ち着かない。

 天気予報をチェックすると、今日も冷え込むらしいので、マフラーを巻いてから家を出た。ゆっくりと時間をかけて歩き待ち合わせ場所
の駅まで向かう。だけどやっぱり早く着きすぎてしまって、当然そこにまだ照さんの姿はない。仕方なく、ケータイをいじったり駅の周辺
をぶらぶら歩いて時間を潰す。

 そうしているうちに、ようやく照さんがこっちに向かって歩いてくるのが見えた。やっぱり照さんは可愛い。
電車を待つ間、照さんが手をさすって寒そうにしていたので、俺は自分の巻いているマフラーを手渡した。それで手をあたためてくれれば
と思って。だけど、意外なことに彼女はそのマフラーを自分の首に巻きつけ始めた。まさかそこまでしてくれるとは思わなくて嬉しいやら
恥ずかしいやらで、俺の鼓動は加速していく一方だ。

「優しいんだね、京ちゃんは」

そう言われて俺はつい
「それは照さんだからですよ」
と言ってしまった。心の中で呟いたはずだったのに、知らないうちに口に出ていたんだ。

「えっ…?」 

 少し驚いた顔で、照さんが振り返り、目が合ってしまった。恥ずかしくて慌てて目をそらし、それからまたチラッと彼女のほうを見る。
すると、彼女の吐く白い吐息が綺麗に空気中に舞い、なんだか絵になるような姿だった。そう思い、更にドキッとしてしまう。


 *

 隣町に着き、早速照さんに、何を買うの?と質問されてしまった。
デートの順序のことで頭がいっぱいだった俺は、そう聞かれた時の言い訳を考えることをすっかり忘れていたため、慌てて飯を食いに
行きましょうと言い、かなり苦しくはあるが、なんとかそれでごまかした。

 昼食を取り終えた後、二人で紅茶を飲んでいると、なにやら照さんが俺のほうをチラチラと見ては、顔を赤くしていた。
それって、俺と二人で居るからですか…?思いきって、照さんに聞いてみる。

「照さん、顔が赤いですけど…大丈夫ですか?」

「えっ…私、顔赤くなってる…?」
「なってます」

 俺が指摘すると、彼女はペタペタと自分の手を頬に当てて、確認し始めた。慌てているその表情は、とても可愛い。
意地悪だとは思ったけれど、もっとその姿が見たくて、俺は更に言葉を投げかける。

「もしかして、俺と喋っててそうなってるんですか…?」
「……………」
すると、急に黙りこくってしまった。そこで黙ってしまうってことは…これはもしかして、かなり良い雰囲気なんじゃ…。

「照さん…俺、期待しちゃっていいんすかね?」
って、何言ってるんだか、俺…。さすがにちょっと言い過ぎてしまったことを、後悔する。ここで良い雰囲気になっても、周りに人が
いるこの場所では、さすがに告白するわけにもいかないよな…。でも、なんだか今がチャンスな気がするぞ…。

「…すいません、急に変なこと言っちゃって。とりあえず外に出ましょうか」

 場所を変えるために、店を出る。駅の裏には、小さな公園がある。多少ムードには欠けるが、あそこなら人の気も少ないし告白するのに
十分なシュチュエーションだろう。
 最初から、告白するのはそこだと決めていた。何故ならそこは、昔に一度だけ照さんとふたりで遊んだことがある公園だからだ。
まあ、本人はもう覚えていないかもしれないけどな…。

 *


「あら、須賀君じゃない。奇遇ね、こんなところで会うなんて」

 ズガーン!照さんと二人で歩いていたら、なんと部長と遭遇してしまった。何でこんなところに居るんですか…。しかし、聞きたくても
頭の中がパニくってて、とてもそれどころじゃない。
 部長のことだ、間違いなく後でみんなに言いふらされるだろうな…。この後の告白に成功すれば、別に何も問題はないのだが、失敗した
時のこと考えると、とても恐ろしい…。

「もしかして、デートの途中だったかしら…?邪魔しちゃった?」

 気がつくと、部長が照さんのほうを見て、そんな質問をしていた。ああーもう…。部長、その目は完全に俺達のことをからかっている目
ですよ…。でも、照さんは今日の事をどう思っているんだろう?そこは俺も気になる。ハラハラしながら、照さんが返事をするのを待つ 。


「デートだなんてそんな…。京ちゃんが買いたいものがあるって言うので私は選ぶのを手伝いに来ただけです。」

うっ。これは、かなりショックだ。照さん…鈍いにもほどがありますよ。ハァ…。

「それじゃ、私はここで失礼するわ。またね、須賀君。」

「ああ、はいっ。また部活で会いましょう」
どうか、みんなにこのことはバラさないで下さいね…

 *

 そのあと、俺はあの公園で照さんに告白をした。
だが、終始緊張しすぎでどんなことを話したかは、あまり覚えていない…。ただ、どうやら返事は保留になってしまったようだ。

 そんなこんなで、照さんが東京に帰った今も、俺はひたすら連絡が来るのを待ち続けている。
また、胸が苦しくてつらい。
最終更新:2009年11月30日 02:05