石原都知事 公費私的流用問題

週刊新潮 06.12.21

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週刊新潮 06.12.21 26~30ページ

[特集]都知事ピンチ!と囁かれる

「赤旗・石原戦争」の鍵を握る女


石原慎太郎都知事(74)の周辺が慌しくなっている。きっかけは、共産党の機関紙「赤旗」の報道だ。都知事の豪華外遊から四男の公費出張問題まで、同紙は、石原都政糾弾の急先鋒となって、「これでもか」と大報道を展開。このほど、水谷建設との間の不透明なマネー問題も炙りだした。その疑惑の鍵を握るのが、50歳のある「女性」である。


  その記事が、赤旗日曜版に掲載されたのは、12月10日のことだ。

  すでにその数日前から、「いよいよ赤旗が"例の件"を載せるらしい」

  という噂が永田町を駆け巡っていた。
"例の件"とは、この夏、噴出した水谷建設の巨額脱税事件に伴う政界への流出マネー捜査の中で、出てきた疑惑である。

  昨年の衆院選後、水谷建設と糸山英太郎氏(64)から石原都知事に現金が渡された――というものだ。

  政治部デスクによると、
「水谷建設の水谷功・元会長(61)が脱税で逮捕されたのは今年7月。それをきっかけに福島県知事らが収賄で逮捕されるなど、一気に事件が広がった。"平成の政商"とも呼ばれた水谷は、政治家たちに億単位の裏金をバラ蒔いたと言われている。中央政界はもちろん、自治体首長も軒並み名前が挙がっていたので、いつ大物の名が出るか、夏以降注目されていたのです」

  石原都知事が参加した問題の料亭・吉兆での会合について囁かれ始めたのは、今年9月のことである。
「特捜部が水谷建設の事件で一斉捜査に入った時、ある場所から石原都知事と水谷、そして糸山英太郎氏らとの会合の写真が押収されたのです。また政治献金を巡って水谷が、パソコンを通じてある人物とやりとりしているメールも同時に押収された。石原と知事と水谷との関係が俄かに浮上した事で、捜査当局もマスコミも、目の色が変わったのです」(司法担当記者)

  特に、その案件を執念深く追ったのが、石原都政と対決姿勢を強める日本共産党だったのだ。

  共産党都議団は9月26日、東京都議会で、爆弾質問を敢行する。
「私達は、この日の都議会定例会での代表質問で、知事肝煎りの若手芸術家育成を目的にした"トーキョーワンダーサイト事業"について、知事の私物化の問題を追及したのです」

  と、日本共産党都議団の吉田信夫幹事長がいう。
「石原氏の独断的手法が都政にゆがみをもたらしており、その象徴的な例として、この問題を取り上げたのです。しかし、石原氏は質問に答えようとせず、また、こちらの再質問にも答えなかったので、議会は紛糾しました。私たちはその後、都がこの事業にどのような金の使い方をしているのか、情報開示請求を行なった。すると、石原氏の四男が事業に深く関わっている事が分かってきたのです」

  画家である四男の国内・海外出張に公費があてられ、さまざまな形での事業への関与が明らかになってきたのである。
「知事は、記者会見でも"私物化って何ですか?"などと、トボけていたのですが、ワンダーサイトの館長と副館長に任じられた夫妻を推薦したのも、当の四男だったことがわかった。そこに飾られているステンドグラスの原画を四男がつくっていたり、石原ファミリーがここに深く関係しているのは明確でした。これを私物化と呼ばずに、何と言えばいいのでしょうか」

  石原VS共産党の対決色が鮮明になる中で、共産党の機関紙・赤旗は、石原都知事と水谷建設に関わる疑惑報道に着手するのである。

消えた500万円

<石原親子 「政商」水谷建設元会長と料亭会合>

  12月10日、赤旗日曜版は"スクープ"と銘打ち、丸々一面を使って、ついにこれを報道した。
<消えた「500万円」>

  と、具体的に金額まで報じただけに、その衝撃は大きかった。

  記事は、問題の会合が、昨年9月の衆院選後、吉兆で糸山英太郎元衆院議員が、三男・宏高氏(42)の初当選のお祝いで開いたものである、と暴露している。

  参加したのは、石原父子と糸山氏、水谷元会長、そして、糸山氏が経営する糸山政経塾の塾生である埼玉の石材業者の計5人だった。

  その席上、現金の受け渡しがあったとして、赤旗はこう報じている。
<当時、糸山事務所の秘書室長(現在、退職)だった人物は編集部に証言しました。「会合の数日前、糸山氏から『宏高氏に当選祝いを渡そうと思う。水谷氏に500万円を用意してくれないか』とお願いした」

  この女性は「祝う会」の当日に訪ねてきて、秘書室長に「紙袋」を渡した、といいます>

  ・・・・・・記事はそのあと、この500万円が、宏高氏の政治資金収支報告書に記載されていないことを指摘。宏高氏と糸山氏が、金銭の受け渡しなどなかったというコメントを載せた上で、<元秘書室長の証言は事実なのか。500万円はどうなったか――。疑惑解明が求められます>

  と、締め括られている。

  その後、この会合の時に撮られた写真が、マスコミに流出。そこには、指摘を受けた人物たちがすべて写っており、会合の事実は、裏付けられるのである。

  問題は、赤旗が指摘するように、"金銭の授受"があったか否か。焦点はそこに絞られている。

  この会合のことを赤旗記者に話したのは、記事でも触れられている通り、糸山事務所の元秘書室長である。

  この人物の証言をもとに赤旗は、不透明な金銭の問題をスッパ抜いたわけだが、報道で問題が大きくなるや、この元秘書室長は、
「私は知らない。今は言えない・・・・・・」

  と、逃げの一手になっている。

  だが、この会合と金銭の問題については、実は重要な証言をする人物がもう一人いる。

  赤旗が記事の中で、
<水谷氏の知人の女性>

  と記述している人物だ。

  今年50歳になる稲村美和子さん(仮名)である。

  水谷建設の脱税事件で、その関係先として家宅捜査を受け、事情聴取もされた芸能プロダクションの女性社長。水谷元会長と親しく、水谷建設の北朝鮮での砂利採取事業にかかわったこともある事業のパートナーである。

  韓国のカジノで、日本人歌手のディナーショーなどを企画する仕事もしており、昨年8月、韓国・済州島のカジノで、水谷元会長と糸山英太郎を引き合わせたのもこの女性なのだ。

  まさしく、今回の問題の鍵を握る人物である。

焼酎の箱に詰められて

「昨年9月13日に糸山の秘書室長の太田秀彦(仮名)から私に電話があったんです」

  というのは、当の稲村女史である。彼女と糸山事務所の太田秘書室長は、以前から知り合いだった。
「太田さんからかかってきた電話は、"宏高の当選祝いをやるから、糸山先生が水谷会長に500万円を用意しろ、と言っている"という内容でした。それで、私は水谷会長にすぐ電話をしたのです」

  と、稲村女史。だが、
「水谷会長はすぐに"領収書は出せるのか"と言いました。そこで、私は太田さんに電話をし直したんです。すると、太田さんは"領収書は出せない"という。水谷会長は、すでにその時、マスコミに自分のことが書かれ始めていた時期で、"冗談じゃない、そんな献金出せんわね"と言い、吉兆にも行かない、と言いだしたんです。そして"(宏高氏の)選挙応援までさせといて、ご馳走するというなら、向こうがするのが筋だろう"と言いました。それで仕方なく、"私が(代わりに)500万円出すから"と宥めたのです」

  稲村女史は、吉兆での会合に至るまでの経緯を、そう語るのである。

  水谷元会長が言った"選挙応援"というのは、水谷建設が全面支援した昨年9月の郵政民営化選挙でのことである。

  選挙直前、品川のホテルパシフィックで、宏高氏の支援集会が開かれているが、ここに、水谷建設をはじめ、その関連会社が集結。東京に住民票がある社員を動員し、そのまま選挙の手伝いに突入したのだという。

  この時、グループの総帥である水谷元会長も、会場にやって来ていた。
「この場で、宏高氏の秘書の島田という人物に、水谷会長は50万円、私も5万円渡したんです。水谷会長と島田秘書が名刺交換した上で、封筒に入れた50万円を渡していました。私も、封筒に自分の会社の名前を書いて渡しましたよ。でも、あとで領収書を送ってくると言っていたのに、送ってもこず、政治資金収支報告書にも記載されていませんでした。水谷会長にとっては、社員も使っていろいろと選挙を手伝ってやったのに、という思いがあったのでしょう」

  さて、問題の9月14日の吉兆の会合である。
「私が9月14日当日、まず三田の糸山タワーに行ったんです。午後3時半から4時ごろのことです。お金はピン札に換えてお菓子のようにして持って来い、と太田さんに言われていたので、私が自分の会社の金庫にあった500万円を、UFJ銀行の恵比寿支店でピン札に換えて、会社にあった韓国の包装紙で包みました。この時、水谷会長は私の事務所にいて、一部始終を見ていました。そして、お菓子の箱のようにして包み終わったあとで、水谷会長と一緒に水谷建設の東京支店に行きました。わざわざ水谷建設の毛筆の達者な人に、熨斗紙に"御祝 水谷功"と書いてもらいましたよ。それを糸山タワーの4階にいた太田さんのところに持っていったのです」

  稲村女史の証言は、詳細だ。では、そのお金は一体どうなったのか。

  女史の話を続けよう。
「私が持っていった時、太田さんは、このお金を(高級焼酎の)『森伊蔵』の箱に詰め換える、と言っていました。糸山さんが、自分で1000万円、また、この日の会合に参加する埼玉の石材業者が500万円、そしてこちらの500万円を合わせて、2000万円にして、渡すというのです。太田さんとは別の秘書二人が『森伊蔵』の箱に詰め換えたそうです。あとで聞くと、私がつけた熨斗紙を破り、また、現金を100万円ずつ束にして結んであったUFJ銀行の帯封もとって、数え直したそうです。わざわざA4の紙を切って白い帯を改めて作り、封をしたと聞きました」
『森伊蔵』4合瓶の箱は、縦9センチ横9センチで、高さが28センチだという。
「一箱に1000万円ずつ入れて、二箱にしたそうですが、100万円の束を八つずつ縦にして入れ、残り二つは、アーチ型に折って上に乗せたと聞きました。そうしないと、小さな『森伊蔵』の箱には、1000万円が入らなかったのです」(同)

宴席と記念写真

  宴会は午後6時半スタートだったが、糸山氏より早く石原都知事が到着し、水谷元会長が、石原氏の相手をすることになる。

  稲村女史がいう。
「私たちも吉兆に行きました。糸山さんが到着するまで、部屋で水谷会長と都知事が話していましたが、都知事は"宏高の選挙で女房がピリピリしてヒステリーになり、寝室に鍵をかけて寝てたんだ"などと、笑いながら話したそうです。糸山さんと一緒にいる太田さんに電話したら、"(糸山)先生と石原さんを二人っきりにしなければならないから、自分たちが着いたら水谷さんには一度、部屋から出てもらって下さい"と言われました。間もなく糸山さんたちが到着し、糸山さんの目配せで、二人を残して、全員が部屋を出たんです」

  1、2分経って、部屋に戻ると、
「すでに受け渡しは終わった様子でした。そこにちょうど宏高さんが到着したのです。『森伊蔵』の箱は都知事の脇に移っており、そこで、全員で記念写真を撮りましたよ。糸山さん、都知事、宏高さん、水谷会長、そして糸山さんとほとんど同時にやってきた埼玉の石材業者の5人を残して、そのあと私たちは、再び別室に下がったのです」

  これが、鍵を握る稲村女史の証言である。

  彼女は、受け渡しされたのは赤旗が報じる「500万円」ではなく、それを含めた「2000万円」だったと断言するのである。

  証言は詳細だが、実際に現金が受け渡しされる場面を彼女が直接、目撃しているわけではない。

  これに対して、石原と知事の秘書、兵藤茂氏は、
「その会合に知事が出席したことは事実ですが、そこで特別な話はなかったと聞いています。糸山さんからお土産を何か貰ったという記憶はなく、まあ糸山さんが『森伊蔵』を渡したと仰られているのなら、それは別に否定するつもりはないとのことでした。ただ、その中に現金云々というのは全くなく、事実無根です」

  と語り、宏高氏も、
「糸山さんと知事は古くからの知り合いで、糸山さんには、私が1回目の選挙で落選してから、企業のオーナーさんなどを紹介いただいておりました。水谷さんとは、その場で初めてお会いしました。赤旗の記事は知っていますが、糸山さんからはお菓子か何かいただいたような気がしますが、もちろんお金は、全くもらっていません。昨年、品川パシフィックホテルで、確かに地元支援者の事務連絡会議をやりましたが、その"55万円"についても秘書の島田に確認しましたが、受け取っていないそうです。出席者の台帳を処分してしまったので、確認のしようもありません」

  糸山氏は、こう語る。
「赤旗は、500万円が消えたなんて書いていたが、私は一切知りません。5人でただ食事しただけで、食事の代金68万円は、私が払いました。私はJALの(個人)筆頭株主なので、ファーストクラスで売っている『森伊蔵』が手に入るんです。慎太郎が好きなので、会った時は、いつも土産に持たせてあげるんですよ」

  あの日も(親子に)一本ずつあげたそうだ。
「『森伊蔵』の4合瓶の箱は小さいし、お金なんて入れられるわけないでしょ。今回の件は、都知事の三選を阻止しようとしている連中の仕掛けですよ。後ろにブラックな連中が見え隠れしている。きっと私のお金を狙っているんでしょう」

  一方、現在保釈中の水谷元会長は、微妙なコメントだ。当時、水谷元会長は胆嚢の手術をしたばかりで、体調は最悪だったという。
「あの時、僕は早う帰りたくて帰りたくて・・・・・・。あれは、手術して退院したあくる日のことだった。だから、なにか頭が、ボヤっとしてあんまり覚えてないんだ・・・・・・。知らん人には、何も言えんがな。もう勘弁してくださいよ・・・・・・」

「私は被害者」

  稲村女史が再びいう。
「糸山さんは、水谷会長と会ったのがその時、初めてだった、と言っているそうですが、トンでもありません。韓国の済州島のカジノで、その前年に二人を引き合わせたのは、私自身ですよ。よくそんな嘘が言えたものです。私が聞いたところでは、あの2000万円は、カネを詰め換えた別の秘書が着服したことにしようとしているのだそうです。憤りを感じます・・・・・・」

  女史は、自分が立て替えた500万円が闇から闇に消えた事に怒り、その返還訴訟を提訴するつもりだという。相手は、糸山氏だ。
「都知事に渡したのは糸山さんで、私は糸山さんの秘書の太田さんに言われてそうしたのですから、当然、返還請求の相手は糸山さんになります。私は夏以降、水谷建設の事件で特捜部の聴取を受けましたが、特捜部では、この吉兆での件をすでに知っていました。検事に"写真は見ましたよ。(告発する)腹を決めたら、連絡を下さい"と言われました。でも、話を聞かれたのは、都知事の別の案件でしたね」

  一方、糸山氏は、
「向こうが私相手に500万円の返還訴訟を起こすなら、望むところです。むしろ訴えてくれた方がいい。全部、事実をオモテに出すことができるから、こっちがディスクローズすれば、逮捕者が出ますよ。私は被害者なんですから」

  前方には、都知事での共産党の追及と赤旗報道。後方には、疑惑への関心を寄せる捜査当局――石原都知事、ピンチである。

  土本武司・白鷗大学法科大学院教授がいう。
「現金の授受が事実なら政治資金規制法に違反する疑いが出てきます。ただ、捜査当局は、まず贈収賄や税法違反などの実質的犯罪に的を絞っており、それらが適用できない時に最後の手段で、この法律の適用を考えるものです。今回は水谷建設の元会長が関係しており、登場メンバーから見ても、捜査してみる価値のある案件と言えます。金を渡した側には何らかの見返りの意図があり、受け取った側にその認識があれば、贈収賄に発展する可能性もありますよ」

  三選を目指す石原都知事。知事選は、来年4月に迫っている。全国で自治体トップの逮捕が相次ぐ中、東京もいよいよ予断を許さなくなってきたのだろうか。






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